【2951】 △ 凪良 ゆう 『流浪の月 (2019/08 東京創元社) ★★★

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上手いことは上手いが、〈あざとさ〉を感じた。結末が中途半端な印象も。

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【2020年本屋大賞 大賞受賞作】流浪の月

 2020(平成28)年・第41回「吉川英治文学新人賞」候補作。2020(令和2)年・第17回「本屋大賞」第1位(大賞)作品。

 家内(かない)更紗は、公務員だった父と自由な性格の母のもとに育っていったが、小学3年生の時に父は病死、1年後に母は男と蒸発した。親戚に引き取られた更紗だが、そこでの生活に窮屈さを感じ、また、その家の子・孝弘からは性的な扱いをされることで、完全に空虚な気持ちになっていた。ある日、公園で本を読んでいた更紗は、「ロリコン」とあだ名が付けられた、いつも公園で小学生を眺めながら読書をしている青年から、「うちへ来ないか」と言われ、ついていくことに。 青年は佐伯文(ふみ)という19歳の一人暮らしの学生で、噂とは異なり、更紗に対して性的な目は向けず、淡々と共同生活が続いた。文は真面目で、逆に更紗は自由な生活を手に入れ、両者は互いに信頼関係を築いていく。2か月の共同生活が続き、少女行方不明事件として話題を呼んでいた頃、文と更紗は油断して動物園に出かけ、そこでメディアにも報道されていた更紗に気づいた人が通報し、文は逮捕される。更紗はやっと現れた理解者が連れて行かれることに抵抗し、文の無罪を主張したが、誰からも信用されることはなかった。失意のまま親戚の家に戻った更紗は、相変わらず孝弘の「いたずら」が行われようとしたため、ビンで孝弘を強打し、孝弘の罪を言えないまま、少女時代を児童養護施設で過ごすことになる。14年後、彼女は大人になり、恋人・亮と同棲をしていた。しかし、過去の呪縛はいまだに彼女を縛り続けている。そんあなある日、更紗は文と思わぬ再会を果たすことになる―。

 今年(2020)年4月発表の第17回「本屋大賞」の「大賞」受賞作ですが、3月の「吉川英治文学新人賞」では候補作でありながらも、5人の選考委員の内、積極的に推したのが(言わば◎をつけたのが)、恩田陸氏だけで、他にいなかったため受賞に至っていません。恩田睦氏は、「ここには、私たちが日々感じている息苦しさや生きにくさが描かれており、そのひとつの解決策が提示されている」としています。

 一方、その他の選考委員では、京極夏彦氏は、「筆力も、時代を写し取る感性も、申し分ない。よりシンプルな構造にしたほうが、完成度もいや増し、普遍性も獲得できていたようにも感じられる。惜しい」としていて(言わば△)、個人的にも、上手いとは思うけれど、読んでいてまどろっこしさを感じることもありました。

 他の選考委員は比較的厳しい評価で(言わば×)、伊集院静氏は作品の曖昧さに苦言を呈し、「亮という人物を登場させたことで作品に不必要な色合いをつけた」とも。大沢在昌氏も、「ファンタジーとしか読めなかった。こういう形での男女の交流を完全否定はしないが、清潔感でくるむことで、本来あってはならないことから目をそらせているようで、読んでいて落ちつかなかった」と。重松清氏も、「エグい要素が満載の作品でありながら、不思議な静謐さと清潔さをたたえていた」としながらも、「やや都合の良すぎる展開も目についてしまった」としています(亮が所謂「恋人間DV」であったという点などがそうか)。

 版元の口上に「あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める」とあり、これだけでは何のことかさっぱり分かりませんが(笑)、生き辛い二人の見つけた互いが唯一安心できる関係と、世間の眼とのギャップが1つテーマになっているのかなと思いました(同様のテーマは、吉田修一氏の『悪人』('07年/朝日新聞社)などにも見られたように思う)。

 ただ、若干ネタバレになりますが、文がと更紗に対して性的な接し方をしないというのが、結局、終章で、文の気質的要因によるものだと分かった時、小説としてどうなのだろうと。結局、上手いことは上手いのですが、読者の内に潜む"道徳観"を逆利用して、読者を驚かせようとしているような〈あざとさ〉を感じなくもなかったです。また、かつての文は、本文中にもあるように、客観的には少女拉致監禁犯になるわけで、手を出さなければよいというものでもなく、この辺りも、プロ作家が選考委員を務める賞で、ノミネートされながらも受賞に至らなかった理由のような気がします。

 恩田睦氏が「ひとつの解決策が提示されている」としていると書きましたが、ハッピーエンドかというとどうかなと思います。結局、ラストではっきり示されているように、この二人はいつまでもさすらっていく可能性があり、作者もそれが分かっていて、タイトルに「流浪」とあるのでしょう。最後に、二人は知人の子ども「梨花」と会っていて、ある種「ステップファミリー」的なものを示唆しているのかなとも思いましたが、その子と会うのは年に1回ということで、全然そこまでもいっておらず、そうしたことも含め、全体に(特に結末部分)中途半端な印象は否めませんでした。

《読書MEMO》
●2020年本屋大賞
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和田泰明

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