【2918】 ○ 満田 穧 (原作:樹下太郎) 「恐怖劇場アンバランス(第10話)/サラリーマンの勲章 (1970年制作(制作No.13)1973/03 フジテレビ) ★★★★

「●TVドラマ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2919】 満田 穧 「恐怖劇場アンバランス(第12話)/墓場から呪いの手
「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

ホラーでもなければ殺人事件も無いこの作品が「怖い」と言われるのはなぜか。

DVD恐怖劇場アンバランスVol.5.jpg図2サラリーマンの勲章t.png サラリーマンの勲章.jpg サラリーマンの勲章ド.jpg
DVD恐怖劇場アンバランスVol.5」梅津栄(犬飼市郎)/冨士眞奈美(宇多子)
梅津栄/中丸忠雄
サラリーマンの勲章2.png 企業の営業部に勤務するサラリーマンの犬飼市郎(梅津栄)(39歳)は、真面目だが出世欲は無く、平社員であってもマイペースで生きていくのがよいと、課長昇進を断り続けてきた。しかし、営業部長の高井(中丸忠雄)の強引な手配で、課長昇進が決まってしまサラリーマンの勲章3.pngう。犬飼はプレッシャーから心身のバランスを崩し、夜も寝つけず、絶対に穴をあけてはならない早朝会議に遅刻してしまう。いったんは会社に着いたものの、階段で会った営業部員の八木(二瓶正也)に、「あれ、課長、朝の会議は大丈夫なんですか?」と言われて、そのまま逃げ出してしまう。初めての競馬に行き、さらにストリップ劇場、トルコ風呂と、彼の逃避行は続く。会社では、課長に昇進したばかりの犬飼が蒸発したということで大騒ぎで、出世こそがササラリーマンの勲章4.pngサラリーマンの勲章5.pngラリーマンの勲章だと思ってる役員や幹部たちは、犬飼の妻(津島恵子)が犬飼は「出世より自分の時間が欲しい」と言っていたという、その犬養の心情が全く理解できない。犬飼は、昇進祝いに同僚と行ったバーへ足を運び、その時気になったホステスの宇多子(冨士眞奈美)に心情を吐露、宇多子が得意とする秋田音頭で盛り上がると、そのまま彼女のアパートでへ。宇多子の夫が籍を入れたま失踪したと聞いた犬飼は、偽装自殺をして自身の戸籍を抹消し、宇多子の夫に成り代わって生きてゆサラリーマンの勲章6.pngくことを思いつき、宇多子サラリーマンの勲章  1.pngも乗り気になるが、実行に移そうと思った矢先に、置き忘れた手帖から足がついて、同僚に踏み込まれる。いったんは自宅に戻った犬飼だったが、改めて「偽装自殺」計画を実行に移し、再度宇多子の元へ。ところが、失踪したはずだった宇多子の夫(向井精七)が戻ってきていて、痛めつけられ追い出される。独りきりとなり、世間では「自殺した」ことになっている犬飼は―。

サラリーマンの勲章 (1964年) (ポケット文春).jpg 「恐怖劇場アンバランス」の第10話で、'70年制作、'73年放映。監督は満田穧(みつた・かずほ)。原作は、樹下太郎(1921-2000)の「消失計画」(『サラリーマンの勲章』('64年/ポケット文春)所収)です。この「恐怖劇場アンバランス」シリーズは、制作No.8以降、オリジナル脚本のホラー路線から、原作ありのサスペンス路線に"路線変更"しており、この「サラリーマンの勲章」は、制作順としては放映されたものの中で一番最後(制作№13)になりますが、当初の「ホラー劇場」的なシリーズの内容から最も"遠くに来た"という感じでしょうか(「ウルトラシリーズ」の二瓶正也などが出演していることで、円谷プロ制作だった思い出すくらい)。ところが、人によっては、幽霊も出てこなければ殺人事件も起きないこの作品が「一番怖い」という人もいて、人によって受け止め方が違ってくる点が、このシリーズの一つの面白いところかもしれません。

 原作『サラリーマンの勲章』は、「文藝春秋漫画讀本」('63(昭和38)年6月号~'64(昭和39)年1月号)に発表された8話から成る連作で、直木賞候補となり、その時期はちょうど原作者がミステリ作家からサラリーマン小説作家への転身を遂げつつあった時期になります。この一連の作品の第1話が「消失計画」ですが、時代はまさに高度経済成長期で、サラリーマンは出世を目指すのが当たり前であり、昇進をしたいと思わない犬飼のことを会社の役員や幹部が理解できないというのは、今観ると戯画的ですが、当時としてはもっと自然に受け止められたのかもしれません(連作の中でも犬飼は変わり者としての位置づけではないか。この連作にも所謂"出世物語"が多く含まれている)。

 梅津栄.jpgそうした"マイノリティ"の犬飼に着眼してドラマ化したところが面白いと思いますが(犬飼を演じた梅津栄(1928-2016/享年88)はこの作品が唯一の主演作だそうだ)、令和の今の時代は「課長になりたくない」というサラリーマンが3、4割いるとも言われているので、先見の明があったと言えるかもしれません。ただし、当時としても、ドロップアウトしてみたいという潜在的な欲求は多くの人の心の底にあったのではないでしょうか。「人間蒸発」と言う言葉が流行った時サラリーマンの勲章8.png期でもあり、多くの小説や映画、ドラマでモチーフとして用いられ、実際、当時は事件としても日常茶飯にあったと思います。この作品の中でも、津島恵子(1926-2012/享年86)演じる犬飼の妻が子供にパパは出張中だと言いくるめようとして、逆に「蒸発しちゃったんじゃないの」と言われてしまいます。でも、この奥さん、ラストで「自殺した」夫の遺影を前に、「私は夫が死んだとは思えないわ。あの人は今もどこかで自分らしく生きているんじゃないかしら」と言っていて、結構夫のことを理解している人だなあと(ちゃんと夫がお金を残してくれているというのもあるかもしれないが)。

 一方の犬飼は、前半ではすごく小心者のように描かれていますが(遅刻確実で通勤電車内で焦りまくるのは、誰だってどこか身につまされるが)、逃避行に入ってからは、トルコ嬢に自らのサラリーマン人生を「レールの上を猪突猛進ってやつ?」とからかわれても、「もう脱線したよ」と自虐的ユーモアで応えるなど精神的に開き直り、気になっていたホステス宇多子にアタックし、一度は失敗しながらも最後には自己消失計画をやり遂げるなど、行動的にもなっているように思います。

サラリーマンの勲章9.png 当面の生活資金もあるし、ラストは、当初の望み通り、朝の喫茶店で一人静かに(いや、秋田音頭を口ずさみながら)コーヒーを飲むシーンで終わっています。でも、予め決めていたこととは言え、家族も会社の人間とも関係を絶ち、さらには、惚れた宇多子とも一緒になれなかったので、孤独感が漂っているようにも思えます。つまり、自由との引き換えに孤独になってしまったと...。この作品が"怖い"としたらそのあたりではないかと思います。

サラリーマンの勲章ード.jpg 犬飼は意外と強い人間で、それでもやっていけるかもしれないけれども、自分はどうだろうと考えると、まあ、フィクション世界、空想世界だけの話にしておこう―ということになるのではないでしょうか。でも、犬飼のように、ちょっとしたことを契機に自らドロップアウトすることが自分にだってあるかもしれない―高い所を怖がる人は、誤って「落ちる」のが怖いのではなく、自ら「飛び降りてしまう」ことが怖いのだと言われるように―そうした思いを駆り立てるところが、このドラマの怖さではないかと思います。

津島恵子 in「魔像」(1952)
魔像  1952.jpg1(第10話)/サラリーマンの勲章図.png「恐怖劇場アンバランス(第10話)/サラリーマンの勲章」●制作年: 1970年(制作№13)●監督:満田穧(かずほ)●監修:円谷英二●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:上原 正三●音楽:冨田勲●原作:樹下太郎「消失計画」●出演:梅津栄/冨士真奈美/中丸忠雄/南広/神田隆/二瓶正也/横山リエ/向井精七/鶴賀二郎/中村上治/香忍/伊東潤一/広田直美/伊藤静江/野島ひとみ/津島恵子●放送:1973/03/12●放送局:フジテレビ(評価:★★★

  
  



ブログランキング・にほんブログ村へ banner_04.gif e_03.gif



和田泰明ブログ

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1