【2901】 ○ ギ・ド・モーパッサン (平岡 敦:訳) 『モーパッサン―首飾り (世界名作ショートストーリー3)』 (2015/07 理論社) ★★★★

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「モーパッサンの特徴がよく表れている」9編。大佛次郎が自作にアレンジした「手」。
モーパッサン―首飾り.jpgモーパッサン―首飾り2.jpg La parure(首飾り)0.jpg  大佛次郎  .jpg
モーパッサン―首飾り (世界名作ショートストーリー)』(カバー絵「マドモアゼル・ペルル」)/TVドラマ「La parure(首飾り)」/大佛次郎

 ギ・ド・モーパッサン(1950-1993)が遺した300を超える中短編の中から、モーパッサンの特徴がよく表れているものを選んだとのことで、文庫でモーパッサンの短編集は多くありますが、本書は文庫よりやや大きめのサイズで、行間も広く、かなも振ってあって読みやすいです。第1弾がモンゴメリ、第2弾がサキときて、第3弾がこのモーパッサンですが、このシリーズは若年層読者を意識しているようです(このあと、ヘルマン・ヘッセ、ポーと続いて全5巻で一旦完結している)。

 収録作品は、1885年刊行の短編集『昼夜物語』所収の「首飾り」「手」、1881年刊行の短編集『テリエ館』所収の「シモンのパパ」、1884年刊行の『ロンドリ姉妹』所収の「酒樽」、1887年刊行の『オルラ』所収の「クロシェット」「穴場」、1886年刊行の『ロックの娘』所収の「マドモアゼル・ペルル」、『昼夜物語』所収の「老人」、1884年刊行の『ミス・ハリエット』所収の「老人」の9編。新潮文庫の青柳瑞穂訳『モーパッサン短編集Ⅰ~Ⅲ』は、第1巻に「田舎物」を、第2巻に「都会物」を、第3巻に「戦争・怪奇物」を集めていますが、9編をそれとの対比でみると、「首飾り」Ⅰ(田舎)、「手」Ⅲ(怪奇)、「シモンのパパ」Ⅱ(都会)、「酒樽」Ⅰ、「クロシェット」Ⅰ(田舎)、「穴場」Ⅱ(都会)、「マドモアゼル・ペルル」Ⅱ、「老人」Ⅰ(田舎)、「ジュール叔父さん」Ⅰ(田舎)となります。

ゲーリー・ケリー(絵)『ネックレス』('97年/西村書店)
ネックレス  ギィ ド・モーパッサン.jpgLa parure.jpg 表題作「首飾り」(La parure)は、ある女性が夫と共に招かれたパーティの場で見栄をはりたくて宝石持ちの婦人からダイヤの首飾りを借り、お陰でパーティの場では紳士たちから注目を浴びるが、パーティが終わった後その首飾りを失くしてしまう。取り敢えず婦人には贋物を戻しておいて、最終的にはちゃんと弁済しようと長年にわたって身を粉にして働き、爪に火を灯すような生活を経て、やっと金をためて同じダイヤの首飾りを買って密かに貸主である婦人に戻すが、ある日街角でその婦人と出会い、婦人から思わぬ事実がLa parure(首飾り)1.jpgLa parure(首飾り)3.jpg明かされる...(O・ヘンリーの短編みたい。夏目漱石がオチを批判したそうだが、彼女自身は人間的には以前よりずっと堅実な人になったに違いない)。因みに、この作品はゲーリー・ケリーLa parure(首飾り)5.jpgLa parure(首飾り)4.jpgというアメリカのイラストレーターにより絵本化されています。また、2007年にクロード・シャブロル監督によりテレビドラマ化されています(日本でもBS日テレなどで放映されたが個人的には未見)。

 「手」は、語り手である主人公が、ある時に知り合ったイギリス人の家に行くと、前腕の中ほどで切断され干からびた人間の手が、鎖が手首に巻き付いた状態であり、イギリス人はこれを「わが最強の敵」だと言う。その1年後、当のイギリス人が何者かに殺害される事件があり、検死医が言うには「骸骨で絞殺されたいたいだ」と―(怪奇物においてはホフマン、アラン・ポーの後継者と言われるだけのことはある)。

Le papa de Simon 2.jpgLe papa de Simon 1.jpgLe Papa de Simon by Guy de Maupassant.jpg 「シモンのパパ」は、父無し子として仲間から毎日苛められていた少年が、ある日惨めな気持ちで泣いていると、大柄な職人風の男と出会い励まさられる。シモンは男に「パパになっておくれよ」と頼むと―(いい話だった! 男はやはりどれだけ仕事ができて、分別、優しさ、人望があるかが大事か)。

Le Papa de Simon by Guy de Maupassant

 「酒樽」は、宿屋経営の貪欲な男が隣家の老女から農場と屋敷を手に入れようとするが、老女クロード・シャブロル 酒樽2.jpgは手放したがらない。そこで男は一計を案じ、老女をそこに住まわせたまま、毎月銀貨を彼女に払う(要するに、実質少クロード・シャブロル 酒樽1.jpgしずつ自分のものにしていきつつ、老女が亡くなったら残債相当分はチャラにしてしまう考えか)。しかし、あと数年しか持たないと思われた老女がいつまでも元気でいるため、このままでは赤字になってしまうと考え、老女の家に酒樽を持ち込んでアルコール中毒にして死なせてしまおうと―(残酷だけどちょっとユーモラス。岩波文庫版は表題作になっている)。この作品も2007年にクロード・シャブロル監督により「首飾り」に続く第2弾としてテレビドラマ化されています

 「クロシェット」は、語り手である主人公が子供のころ慕った通いのお針子であるクロシェットばあやは、ひげの生えたおばあさんで、足が不自由だったが、いつも編み物をしながら素敵な話を聞かせてくれた(カバー絵)。実は彼女には過去に哀しい恋の物語があった―(悲恋物もこの作家の得意ジャンルと言えるかも)。

 「穴場」は、ボート釣りの穴場を巡る家族同士の争いで殴打傷害致死罪で訴えられた男が、裁判で独特の陳述を展開する。襲ってきたところを殴り返して川に落ちた相手の男を助けようにも、女同士の喧嘩を仲裁するのに手こずってしまい助けられなかったという言い訳がまかり通ってしまうのがおかしいです。

 「マドモアゼル・ペルル」は、独身で通してきた老女が、語り手によってある人物が自分を愛していたことを知らされ―(語り手は、余計な事を言わない方が良かったのではないかという気もする)。

 「老人」は、農場の夫婦が、百姓女の方の父親が臨終の床にあるため、農作業との兼ね合いもあって、先に葬式の手配をしてしまう。ところが、葬式を予定していた日になっても老人は死なず、やがて喪服姿の客たちが家に来てしまう―。

 「ジュール叔父さん」は、港町ルアーブルのそう豊かではない一家の希望は、外国で一旗あげて郷里に帰ってくるはずの父の弟ジュール叔父だったはずが...。

大佛次郎『怪談その他』天人社図2.jpg世界怪談叢書 怪談仏蘭西篇.jpg 300余辺から厳選されているだけあって、どれも面白かったですが、この中で唯一の「怪奇物」である「手」は、どこかに似たような話があったなあと思ったら、大佛次郎の「手首」(「怪談」)(『文豪のミステリー小説』('08年/集英社文庫)などに所収)とモチーフは同じでした(大佛次郎の「手首」の方が物語に肉付けがされているが)。それで、たまたま横浜・港の見える丘公園にある「大佛次郎記念館」のホームページを見たら、2019年のテーマ展示として「大佛次郎の愛書シリーズ」というのがあり、展示資料の中に青柳瑞穂訳『世界怪談叢書 怪談仏蘭西篇』('31年/先進者)があったことが分りました。この中には、モーパッサンの「手」が収められています。大佛次郎がモーパッサンの「手」から自作「手首」の着想を得、日本風にアレンジ、応用したことは、ほぼ確実であると思います。

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