【2839】 ○ 柴 裕之 『図説 明智光秀 (2018/12 戎光祥出版) ★★★☆ (○ 小和田 哲男 『明智光秀―つくられた「謀反人」』 (1998/05 PHP新書) ★★★☆)

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入門書の入門書。「本能寺の変」の謎を除く4つの問題を取り上げている『図説 明智光秀』。

図説 明智光秀.jpg 柴裕之.jpg 柴 裕之 氏  明智光秀 php.jpg
柴 裕之『図説 明智光秀』['18年]  小和田 哲男『明智光秀―つくられた「謀反人」 (PHP新書)』['98年]

 来年['20年の]のNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」(沢尻エリカの合成麻薬事件とかあって1月19日スタートとなった)が、あの「本能寺の変」で知られる明智光秀(1528-1582)の生涯を描いたものであるとのことで(脚本は、映画「復讐するは我にあり」、ドラマ「夏目漱石の妻」の池端俊策ら)、新聞の読書欄に明智光秀の入門書が紹介されていました。その中には、ドラマの時代考証担当の小和田哲男氏の本もありましたが、選者は、大御所の風格ながらも新規性は無いと。そこで、入門書の入門書として手に取り易そうな(選評では、この本から読んでほかの"光秀本"に読み進むのもいいとあった)本書を読むことにしました。

 概ね明智光秀の生涯に沿って書かれているので分かりやすく、「図説」というだけあって図や写真も豊富で楽しめました。内容的には、①織田信長と比較した人物像、②光秀が生涯をかけた丹波攻め、③信長による残虐な仕打ちとして知られる比叡山焼き討ち、④光秀が躍進するきっかけとなった室町幕府第十五第代将軍・足利義昭との関係という4つの問題を中心に取り上げています。

 でも、明智光秀って、もともと高貴の出ではなく、(後に作られた略系図はあるものの)出自も謎だらけで、前半生は分からないことが多いようです。憶測ながら、彼が頑張って信長家臣のなかでも重鎮と言われるまで出世したのは、自身が高貴の出ではなかったということも関係しているのではないでしょうか。

 興味深く思えたのは、丹波攻めは信長の命でその責任者となった光秀のライフワークとも言えるものでしたが、光秀は丹波攻撃で信長から離反した松永久秀を筒井順慶らと共に討ち(1577年)、また同じく丹波攻撃で信長から寝返った波多野秀治をで打ち破り(1579年)、さらには信長に謀反した荒木村重を丹波山に討伐し(1580年。村重本人は落ち延びで毛利氏に亡命し、大阪で茶人になって1586年に堺で死去)―といった具合に、信長を裏切った人間を討伐していって功績を挙げていったということでした(そして最後は光秀自身が...)。

 光秀の最大の謎は、なぜ彼が本能寺の変(1582)で信長を討ったのかということとされていますが、"光秀本"の多くがそこに焦点が当てられ、中には何通りもの説が紹介されていたりするのとは対照的に、本書は予断を避け、そのことについて見解を挟むことはしていません(実際、わからない訳だし。因みに、荒木村重が信長を裏切った理由も、主だったものだけで6、7説あって、結局は歴史も人間心理までその域が及ぶとなると、分からないものは分からないものなのかも)。

信長研究の最前線.jpg それどころか本書では、信長暗殺の動機を、本書で取り扱う4大テーマの1つにも入れておらず、(その点がやや物足りなくも感じるが)、 "時代の「革命児」信長についていけなかった「常識人」光秀"という一般的なフィルターをいったん外して、あくまで光秀の「実像」を事実から探ることを主眼とした本だったのだなあと(因みに、日本史史料研究会編 『信長研究の最前線』('14年/歴史新書y)の中で著者は、現在では「四国説」が変の主要動機・背景に位置づけられている(p161)としている)。また、この『図説 明智光秀』で著者は光秀の人物像を信長と対比的に述べており、光秀を通じて信長の「実像」をも探ろうとした本とも言えます。
信長研究の最前線 (歴史新書y 49)』['14年]

 そして、そこから導かれる光秀の人間性は、「才知・責任感に富み、外聞を重視するとともに、冷酷さも兼ね備えたものだったといえる」と。宣教師フロイスが伝える光秀像と信長像は非常に近しく、著者は、「信長のもとで躍進し、信長を殺めた直後に自らも死を迎えた光秀。その人間性は、実は最も信長に近しいものだったのかもしれない」としています。

小和田哲男.jpg 因みに、(個人的にはやはり論じて欲しかった)「光秀謀反」の原因について、先に挙げた小和田哲男氏は『明智光秀―つくられた「謀反人」』('98年/PHP新書)の中で、高柳光寿、桑田忠親の二大泰斗の名を挙げるとともに、後藤敦氏の著書で紹介されている50説(!)を再整理し、その中から有力視されている説として、①野望説(高柳光寿『明智光秀』。それまで有力だった怨恨説を否定し、「光秀も天下が欲しかった」とする説)、②突発説(「信長がせいぜい100人ほどで本能寺に泊まっている」という情報を得て発作的に討ってしまったとする説)、③怨恨説(桑田忠親『明智光秀』。従来、作家が好んで用いてきた説)、④朝廷黒幕説(光秀が朝廷内の人物と連絡をとりつつ、朝廷にとって不都合な存在である信長を討ったとする説)の4説を挙げた上で、自身は新たに、「信長非道阻止」説(光秀が信長の悪政・横暴を阻止しようとしたという説)を提唱しています。 

 小和田哲男氏の'98年刊行の本書で提唱された「信長非道阻止」説って今どれくらい指示されているのでしょうか。また、NHKの大河ドラマはこの説でいくのでしょうか(おそらくいくのだろう)。

NHK-BSプレミアム特番「本能寺の変サミット2020」2020年1月1日(水) 午後7:00~午後9:00(120分)
【司会】爆笑問題,【解説】本郷和人,【コメンテーター】細川護煕,【パネリスト】天野忠幸,石川美咲,稲葉継陽,柴裕之,高木叙子,福島克彦,藤田達生
本能寺の変サミット2020.jpg

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This page contains a single entry by wada published on 2019年12月14日 23:57.

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