【2464】 △ 森 一生 「お伊勢詣り (旅籠屋騒動) (1939/05 新興キネマ京都) ★★★

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定番だが、ミス・ワカナを知る上でも、吉本の漫才の一ルーツを知る上でも貴重な作品か。

お伊勢詣り(旅籠屋騒動)v.jpg  お伊勢詣り(旅籠屋騒動)23bb.jpg お伊勢詣り森光子10.jpg
「お伊勢詣り (旅籠屋騒動)」            ミス・ワカナ/玉松一郎     森光子(19歳)

お伊勢参り(旅籠屋騒動10.jpg 伊勢詣りの人々でごった返す旅籠街。狭い道で、それぞれの宿の客引きが懸命に行われている。旅籠伊勢屋では、伊勢屋の主人(伴淳三郎)にもう何度目かという臨終が迫っていたため客引きは躊躇していたが、主人の命により客を引き入れ、結局今日も団体客で大賑わい。父危篤の知らせで駆けつけた娘・お光(森光子)の許婚・新太郎(南條新太郎)、新米女中のワカナ(ミス・ワカナ)に惚れる息子・一郎(玉松一郎)、お光の美しさに惹かれ伊勢屋に泊まる旗本のぼんぼん(浅田家日佐丸)。つい酔っぱらったワカナに対し、旗本は自らが被った無礼に腹を立て、千両払わねばワカナを斬ると言う。番頭が一夜待ってくれと言うも態度を軟化させず、次第に夜も更け、皆が旗本の前で漫才をやってその態度を和らげることを試みることに―。

 1939(昭和14)年5月公開作。吉本興行(戦後は吉本興業)の演芸が急激に大衆に受け入れられたことに伴い、松竹の子会社である新興キネマに設立された演芸部が1939年4月、その吉本から当時人気絶頂のワカナ・一郎、ラッキーセブンなどの漫才コンビを引き抜き(仕掛けたのは永田雅一で、その命を受けて奔走したのが、この映画で怪演を見せる伴淳三郎だと言われている)、その結果、彼らがこの「お伊勢詣り」に出演することになりましたが、吉本は黙っておらず、裁判沙汰になったとのことです。

 同じ頃、東宝の前身P・C・Lで吉本の花形エンタツ・アチャコの映画がヒットを飛ばしており、この作品はワカナ・一郎で、それに対抗しようとしたものですが、そうした渦中で作られ、新興・吉本の闘いの影響でやくざが映画館を襲撃するといった噂が流れたりもし、京都では、予定日に封切ることが出来ず、休館のところも出たとのこと。休館したところでは、数日後、もう大丈夫だろうと2日間のみ封切ったところ超満員になり、翌月改めて再上映したとのことです。

吉本/ミス・ワカナが吉本に入社.gifお伊勢詣り(旅籠屋騒動) 1.jpg 物語は、とある旅籠屋に住み込んだミス・ワカナ扮する底抜けに明るい女中の奮戦記であり、後に「旅籠屋騒動」と改題されています。ミス・ワカナが夫・玉川一郎と漫才コンビを組んだのが1928年で、少しずつ勢いをつけ、1937年に吉本に所属すると一気にブームになり、更にこの映画で"全国区"となります。

「吉本百年史」より

 実際、作品の中でのワカナの演技は際立っており、旗本の前でやってみせる漫才でも、ラッキーセブン(香島ラッキー・御園セブン)の時事漫談などはあまり面白くないのに(戦時下の検閲を意識したものになっているせいもある)、ワカナ・一郎になるとぐっと面白味が増します(ストーリー上、ラッキーセブンの方がワカナ・一郎より面白くてはマズイのだが)。ラッキーセブンなどはおそらく映画初出演でカメラ馴れもしていなかったのではないかと思いますが、それはワカナ・一郎とて同じことで、その辺のワカナのセンスと度胸の良さというのはさすがです。

舞台「おもろい女」ポスター(森光子・段田安則版/藤山直美・渡辺いっけい版)
おもろい女 1.jpgおもろい女 2.jpg この作品に伊勢屋の主人の娘役で19歳で出演し、ミス・ワカナにも可愛がられた森光子が、1965年フジテレビドラマ「おもろい女」でミス・ワカナを演じていて(未見だが、森光子演じるミス・ワカナが、デビューしたての森光子に声をかけるシーンがあるそうだ)、更に1978年から 2006年にかけてはこれを舞台で演じています(因みに、玉松一郎役は、テレビドラマは藤山寛美、舞台は芦屋雁之助、段田安則などが演じている)。また、森光子亡き後は、藤山直美が舞台「おもろい女」でミス・ワカナを演じ演じています(玉松一郎役は渡辺いっけい)。

おもろい女 .jpg 天才と言われたミス・ワカナですが、この作品出演の7年後の1946年、阪急西宮球場での野外演芸会の帰りに阪急西宮北口駅のホームで心臓発作を起こしで倒れ、36歳の若さで急逝します。ヒロポンの中毒と過労が原因だったと俗説されていますが、本当のところはよく分からないようです(エノケンこと榎本健一もヒロポン中毒だった)。亡くなった当日の公演の阪急西宮球場への行きは森光子が同行していたとのことですが、森光子の証言によれば、当日持たされた小箱の中に薬があったとのことです。森光子によると、晩年はヒロポンではなくナルコポンを打っていたということで(太宰治の最初の中毒がナルコポン中毒だったと言われている)、森光子の舞台では、ワカナが薬を打つ場面がありました。

 映画自体は、吉本の定番舞台をそのまま映画化したような生硬さのようなものもあり、ものすごく面白いというわけでもありません。ただ、この映画のヒットを受け、続編「金比羅船」(1939)、「黄金道中」(1940)なども作られていますが、ミス・ワカナ主演映画でちゃんと残っているのはこの作品だけのようです。その意味では、ミス・ワカナを知る上でも、吉本の漫才の一ルーツを知る上でも貴重な作品ということになるかもしれません。

お伊勢参りミス・ワカナ.jpg「お伊勢詣り(旅籠屋騒動)」●制作年:1939年●監督:森一生●脚本:依田義賢●撮影:廣田晴巳●音楽:武政英策●時間:55分●出演:ミス・ワカナ/玉松一郎/香島ラッキー/御園セブン/平和ラッパ/森光子/伴淳三郎/浅田家日佐丸/松葉家奴/南條新太郎/平和ラッパ/伊庭駿三郎/三浦志郎/吉野喜蝶/橘光造/小酒井健●公開:1939/05●配給:新興キネマ京都(評価:★★★)

ミス・ワカナ/玉松一郎 in 「お伊勢詣り(旅籠屋騒動)」
 

お伊勢詣り(旅籠屋騒動)v.jpg   
 



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和田泰明

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