【2194】 ○ 森沢 明夫 『虹の岬の喫茶店 (2011/06 幻冬舎) ★★★☆

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大人のための癒し系ファンタジーといった感じ。モデルが実在するというのは強い。

虹の岬の喫茶店 単行本.jpg 単行本(左)   虹の岬の喫茶店 文庫.jpg
(カバーイラスト:加藤美紀)/『虹の岬の喫茶店 (幻冬舎文庫)』/映画チラシ
文庫本(下)
虹の岬の喫茶店森沢明夫.jpg トンネルを抜けたら、ガードレールの切れ目をすぐ左折。雑草の生える荒地を進むと、小さな岬の先端に、ふいに喫茶店が現れる。そこには、とびきりおいしいコーヒーとお客さんの人生にそっと寄り添うような音楽を選曲してくれるおばあさんがいた。彼女は一人で喫茶店を切り盛りしながら、ときおり窓から海を眺め、何かを待ち続けていた。その喫茶店に引き寄せられるように集まる人々―妻をなくしたばかりの夫と幼い娘、卒業後の進路に悩む男子大学生、やむにやまれぬ事情で喫茶店へ盗みに入った泥棒など―心に傷を抱えた彼らの人生は、その喫茶店とおばあさんとの出逢いで、変化し始める。心がやわらかさを取り戻す―(「BOOK」データベースより)。
                  
 岬の先端に立つ喫茶店に集まる人々と女店主の交流を描いたこの作品ですが、モデルとなった「岬」のブログのフォト.jpg 大人のための癒し系ファンタジーといった感じでしょうか。6話から成る連作の各話がそれぞれの登場人物の目から語られており、前半3話は、岬の喫茶店をたまたま訪れた人の話(妻を亡くした陶芸作家と娘、就職活動中の学生、さらに泥棒に入った砥ぎ屋もいるが)になっていますが、後半3話は、常連客のタニさん、店主・柏木悦子の甥・浩司、そして悦子自身の話となっています。

作品のモデルとなった音楽と珈琲の店「岬」のブログフォト

 版元の口上に「心がやわらかさを取り戻す感涙の長編小説」とありましたが、作者の作品はカジュアル系とも言われているようで、無理矢理"感涙"ものに仕上げようとしないとこところがいいのではないかなあ。よく読むと、ラストが冒頭の謎解きのようになっているようにも読めるなど、作者のオリジナリティも活かされているように思われます。敢えて言えば、主要登場人物が結局"いい人"ばかりなのが、まあ癒し系ファンタジーとしては自ずとそうなるのでしょうが、やっぱりファンタジーの世界かな、で終わってしまいそうな危惧も。

ふしぎな岬の物語 (2014).jpg吉永小百合 モントリオール.jpg その点において、モデルとなった喫茶店が実在するというのは、たとえどれだけ虚構化されていようと、一つ強みだなあと思いました。吉永小百合がプロデュースから参画して映画化され(原作候補は10作ぐらいあったらしいが、吉永小百合の強い推挙でこの作品に決まったらしい)、「ふしぎな岬の物語」として今月('14年11月)から公開されましたが、公開前に、第38回モントリオール世界映画祭で審査員特別賞グランプリ受賞というオマケがつきました。
「ふしぎな岬の物語」ポスター 題字・絵:和田 誠(吉永小百合がオファー)

 まだ観ていませんが、吉永小百合は、山田(洋次)組で「母べえ」('08年/松竹)に出るよりも、成島(出)組でこうした映画に出る方がやり易かったのではないでしょうか。作品的にも(先入観もあるかもしれないが)母親役より未亡人役の方が合っているように思います。

 モントリオール世界映画祭は、カンヌ、ベルリン、ヴェネツィアの三大映画祭より格下であり、さらに同じカナダのトロント国際映画祭よりも落ちると言われ、一方で、'80年に「遥かなる山の呼び声 」が審査員特別賞、'83年に「天城越え」で田中裕子が主演女優賞、'96年に「眠る男」が審査員特別賞グランプリ、'99年に「鉄道員」で高倉健が主演男優賞、'08年に「おくりびと」が最優秀作品賞受賞、'10年に「悪人」で深津絵里が最優秀女優賞、'11年に「わが母の記」が審査員特別賞グランプリを受賞するなど、日本の映画及び日本人が受賞し易い映画祭でもあるとも言われています。今回も、呉美保監督の「そこのみにて光輝く」が最優秀監督賞を受賞しており、日本映画はW受賞となっています。ただ、「おくりびと」がその後アカデミー賞の外国語映画賞したりしているケースもあり、海外の映画祭に出品して評価を問うこと自体は良いことではないかなと思います(それで賞が貰えれば尚の事)。吉永小百合が受賞後のロングスピーチをフランス語でこなしたのは立派、阿部寛の方は英語でした(トロント~モントリオールは東京~大阪ぐらいの距離だが、トロントのあるオンタリオ州の公用語は英語なのに対し、モントリオールのあるケベック州の公用語はフランス語)。吉永小百合、最初から賞を獲るつもりでモントリオールに乗り込んだ?

【2013年文庫化[幻冬舎文庫]】

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