【2109】 ○ 宮部 みゆき 『ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件 (2012/08 新潮社) ★★★★

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飽きることなく読めた背景には、偶然に合致してしまった"時事性"というのもあったように思う。

ソロモンの偽証 全3部.JPGソロモンの偽証1.JPGソロモンの偽証01.jpg 『ソロモンの偽証 第I部 事件』(2012/08 新潮社)

 2012 (平成24) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第2位。2013 (平成25) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第2位。2013年・第10回「本屋大賞」第7位。

 クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した十四歳。その死は校舎に眠っていた悪意を揺り醒ました。目撃者を名乗る匿名の告発状が、やがて主役に躍り出る。新たな殺人計画、マスコミの過剰報道、そして犠牲者が一人、また一人。気づけば中学校は死を賭けたゲームの盤上にあった。死体は何を仕掛けたのか。真意を知っているのは誰!?(新潮社サイトより)

 月刊文芸誌「小説新潮」の'02年10月号から'11年11月号まで連載された長編小説で、単行本で全3巻。第1巻だけで741ページという大作であり、読む前に途中で飽きてしまうのではないかと危惧しましたが、「中学校でのいじめ」という今日的かつ重い題材であったこともあり、一気に読めました。

 刑事の娘で学級委員の藤野涼子を軸に、14歳の中学生・柏木卓也の死に動揺する同級生、それぞれが微妙に異なる反応を示すいじめグループのメンバー、告発状に翻弄される大人たちなどが丁寧に書き分けられています(推理小説の扉にある登場人物紹介が、テレビドラマの解説サイトによくあるような「相関図」になっているのが分かり易くて有難い)。

 いじめに遭っていた生徒の遺体が早朝に見つかり、学校側が次の日の夕方にその学年の保護者だけを対象とした説明集会を実施するというのは、一昔前ならともかく、今だったら緩慢で手ぬるい対応と言われるのではないかなあ。事件発覚が朝ならば、「当日」の夕方、「全学年」の保護者を対象とした説明集会を開く―というのが、今日的"スタンダード"ではないでしょうか(まあ、今だったら保護者は皆、携帯乃至スマホを持っていて連絡はあっという間だけれど、当時はそんなものは一般家庭には無かったということもあるが)。

 "主役に躍り出た"告発状の話は、結局は根底が事件の本筋とは別の話だったという印象で、こうして読者をミスリードさせる手法はミステリでは珍しくはないですが、やや回り道にページを割き過ぎた感じでしょうか。この話は第Ⅱ部にも引き継がれていきますが...。

 『楽園』('07年/文藝春秋)以来5年ぶりの現代ミステリ―と言っても、月刊誌で10年間も連載されていたということで、そちらの方をコツコツ読んでいた人というのは、ホントに"宮部ワールド"に長く浸かっていたいファンなのかも。個人的には、一気に読んだ方が面白い話のように思えました。

大津中学生自殺事件.jpg 学校でのいじめは今も大きな社会問題であり、尚且つ、'12年7月になって、前年10月に滋賀県大津市で発生した中学生自殺事件が、突然マスメディアで連日のように取り上げられる事態となり、その翌月に本書が刊行されたわけです。但し、作者がこの物語を書き始めたのはその10年前―というのは、作者の社会に対する炯眼と言っていいのでしょうか。

「大津市中2いじめ自殺事件」報道

宮部みゆき「ソロモンの偽証」1-.jpg 少なくともこの第Ⅰ部は飽きることなく読めましたが、その背景には(10年後に不幸にして偶然に合致してしまった)"時事性"というのもあったように思います。

 作者へのインタビューによれば、'90年に神戸の高校で、遅刻しそうになり走って登校してきた女子生徒を、登校指導していた先生が門扉を閉めたことで挟んでしまい、その生徒が亡くなるという事件があり、その後、この事件をどう受け止めるかというテーマで、校内で模擬裁判をやった学校があったことに触発されたのがこの作品の執筆の契機であるとのことです。実際にあったのだなあ、学校裁判!(当然のことながら、実際にその事件があった学校で行われたわけではないし、誰かを裁くといった性質のものでもなかったとは思うが)。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

ソロモンの偽証 映画2.jpgソロモンの偽証 映画.jpg「ソロモンの偽証 前篇・事件」2015年映画化

監督:成島出
原作:宮部みゆき(ソロモンの偽証)

主演:藤野涼子
他キャスト:板垣瑞生、石井杏奈、黒木華

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