【1939】 ○ アガサ・クリスティ (高橋 豊:訳) 『殺人は容易だ (1957/10 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★

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沢山殺され、容疑者も一杯いる設定ながらも"無駄のない"展開。

Murder is Easy 05.jpg殺人は容易だ クリスティー文庫.jpg   殺人は容易だ ハヤカワ文庫.jpg   殺人は容易だ ポケット・ミステリ.jpg
殺人は容易だ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『殺人は容易だ (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『殺人は容易だ (1957年) (世界探偵小説全集)
http://www.agathachristie.com
 植民地駐在警察官の勤務を終えて帰英したルーク・フィッツウィリアムが、列車で偶然に乗り合わせた老婦人ラビィニア・ピンカートンは、スコットランドヤードに自分の住むウィッチウッド村で起きている連続殺人事件のことを訴えに行くところだという。事件とは、ある人物が誰かを特別な目つきで見ると、その人物が暫くすると死んでしまうというもので、今迄3人の人間が死んでいて、昨日はハンブルビー医師がその目つきで見られたと言う。ピンカートン婦人は「殺人はとても容易なんです」と言って列車を降りるが、ルークは翌日の新聞で、彼女がロンドン市内で轢き逃げ死したとの記事を見つけ、更に一週間後には、ハンブルビー医師が急死したとの死亡記事が新聞に載る。ルMurder is Easy - Fontana 1021.jpgークは状況を探るために、友人のいとこブリジェット・コンウェイが、村に住む週刊紙の経営者ホイットフィールド卿の秘書をしているのを頼りに、民族学者を装って村に調査に赴く。ピンカートン婦人の話にあった死んだ3人とは、飲んだくれの居酒屋亭主ハリー・カーター 、だらしないお手伝いエイミー・ギブズ、嫌われ者のいたずら小僧トミー・ピアスで、ハリーはある晩に橋で足を滑らせて川に落ち、エイミーは染料の壜と薬の壜を間違えて染料を飲んで死に、トミーは博物館の窓を拭いているときに墜死、これにピンカートン婦人の自動車事故死とハンブルビー医師の敗血症による死が加わる。ルークが調べていくと村のもう一人の開業医ジョフリー・トーマス、事務弁護士のアボット、退役軍人のホートン少佐、骨董屋の主人エルズワージーらが容疑者として浮かび、聡明なブリジェットと共に調査を続けるうちに、更に思いもかけない容疑者が―。

Fontana版(1966)Cover painting by Tom Adams

 1939年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が49歳の時に刊行された作品で(原題:Murder is Easy)、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズ物であり、終盤に『牧師館の殺人』(1930年発表)のバトル警視が少しだけ登場しますが、実質的には、素人探偵ルークが事件を追う展開です(彼も一応は元植民地警官だが)。

 このルーク、論理的に推理を進めているようで、実際には読者のミスリード役にもなっている感じで、その辺りがクリスティの上手いところだとは思いますが、彼が最後の方で行き着いた"思いもかけない容疑者"が"真犯人"であると思った読者はどれぐらいいるだろうか。但し、殺されたと思われる人物が少なくとも5人いて(更にホイットフィールド卿の運転手も殺されて6人に)、後に残った登場人物の多くがその容疑者になるという"無駄のない"展開は見事です(結果として、クリスティ作品の中では分かり易い部類かも)。

Murder Is Easy - Pan 161.jpgMurder Is Easy - Fontana 428.jpg 主人公は探偵役のルークですが、ブリジェットの方が聡明という印象もあり、ポアロやミス・マープルのような"スーパー探偵"でないことは確か。最後は"キレ"と言うより"閃き"で事件を解決したようでもあり、一方で、すでにホイットフィールド卿の婚約者となっているブリジェットへの恋の鞘当もあって、この2人のロマンスの行方がどうなるかという部分で読者を楽しませてくれるものとなっています。
 クリスティって、普通にラブロマンスを書こうと思えば、それはそれでいくらでも書けたんだろなあ(実際に彼女は、メアリー・ウェストマコットの名前で6冊の恋愛小説を書いており、このペンネームは、サンディ・タイムズが明かすまでほぼ20年間秘密に保たれていた)。
Pan Books (1951)/Fontana (1960)

第14話「殺人は容易だ」011.jpg 作中で、6人もの人を殺している犯人は病的気質であると見做され、おそらく死刑にはならず精神病院送りとなるであろうことが示唆されていますが、となると、犯人が濡れ衣を着せようとした相手も、それが上手くいったとしても死刑にはならない公算が大きいということになり、再審請求とかあったらどうなるんだろうか(そんな制度は当時は無いか)。いずれにせよ、犯人はちょっと多い目に殺し過ぎたのかもね(もはや殺すことが目的化しているわけで、サイコ系シリアルキラーと言えるかも)。
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第14話)/殺人は容易だ」 (09年/英・米) ★★★☆

 【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)]/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[早川書房・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】

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