【1883】 ○ 伊賀 泰代 『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』 (2012/11 ダイヤモンド社) ★★★★

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マッキンゼーが求めるのは「将来リーダーとなる人」。リーダーシップに関する若年層向け啓発書か。

1採用基準―.png採用基準 伊賀泰代.jpg   伊賀 泰代.jpg 伊賀 泰代 氏(マッキンゼー)    
採用基準』(2012/11 ダイヤモンド社)

 コンサルティング会社のマッキンゼーで採用マネジャーを12年務めたという著者による本ですが、就職超難関企業と言われるマッキンゼーの「採用基準」は、世間一般には、地頭のよさや論理的思考力が問われると思われているようだがそれは大きな誤解であるして、冒頭からそのような定説をきっぱりと否定しています。

 マッキンゼーが求めているのは分析が得意な人でもなければ優等生でもなく、「将来のリーダーとなる人」であるとのことです。なぜならば、問題解決に不可欠なのはリーダーシップであり、また、リーダーシップは全員に必要であると考えているからとのことです(でも、別のところでは、1リーダーシップ、に加えて、2地頭、3英語力、の3つが求められているとも書いてはいるが)。

 最終的に正式のリーダー職に就くのは一人だとしても、組織の構成員全員が多彩なリーダー体験を持っていることが重要であり、人はリーダー体験を積むことによって、「高い成果を出せるチームのメンバー」になれるというのが、マッキンゼーにおける採用に際しての考え方であり、マッキンゼーに限らず外資系企業の多くが、すべての社員に高いリーダーシップを求めているとのことです。

 転じて日本の企業に目をやれば、リーダーシップについて問われる機会はごく限定的で、三十歳前後になってもそれまでリーダーシップについて問われた経験が無いといった社員がいたり(確かに、人事考課における要素などにおいて、若年層にはリーダーシップを問わない企業も多いかも)、あるいは、管理職研修にリーダーシップに関する研修が織り込まれていなかったりもするとのこと(この点は、最近はそうでもないのではとも思うけれど)。

 外資系企業におけるリーダーには、その組織が成果を生み出すことを求められるが、日本の場合は組織の「和」が優先されると―。以下、日本企業と外資系企業におけるリーダーシップの捉え方の違いを、時に文化論的なレベルまで敷衍させて、対比的に、分かり易く説明しています。

 例えば、事故で電車が止まって駅のタクシー乗り場に長い行列ができている状況において、海外ではこういう場合、必ず誰かが相乗りを誘い始めるとのことで、これがリーダーシップの発揮なのであると。日本人の場合は、黙々と列に並び、一人ずつタクシーに乗っていき、そういう役割を自ら担おうという気が全く無い―これがこの国の人の特徴なのだと指摘しています。

 文化論に落とし込まれると確かに分かり易い。それをそのまま企業内における組織行動論にもってきているため、全体を通してややパターン化された外資系企業と日本企業の対比のさせ方になっている印象も受けましたが、マッキンゼーに入社するためのノウハウ本になっていない点は好感が持てました。
 但し、採用担当者が期待するような、採用時に応募者のリーダーシップを探るための方法論についてはそれほど突っ込んで書かれているわけではなく、本書自体、「採用基準」の本と言うより、4:6ぐらいの比率でむしろ「リーダーシップ」について書かれた本であると言ってもいいかもしれません。

マッキンゼー流最強チームのつくり方.jpg マッキンゼーでは、「全員がリーダーシップを発揮して問題解決を進める」前提で仕事が進み、「全員がリーダーシップをもっているチームでは、議論の段階では全メンバーが『自分がリーダーの立場であったら』という前提で、『私ならばこういう決断をする』というスタンスで意見を述べ」るとのことであり、だからこそ、高いパフォーマンスをもった組織が生まれるのだと言っています(結果としてリーダーとフォロアーの違いは殆ど無くなる。この辺りは著者のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文にも書かれているようだ[2013年4月Kindle版で刊行] )。「職場でしばしば目にする、リーダーに対する建設的でない批判の大半は、『成果にコミットしていない人たち』によって」なされるとも著者は述べています。
マッキンゼー流最強チームのつくり方 (DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文(2012年9月))」(201304 Kindle版)

 リーダーとは具体的にどのようなアクションをとる人なのかについて、著者は「目標を掲げる」「先頭を走る」「決める」「伝える」という4点を挙げ、リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、学んで向上させることができるものだとしています。今の日本に求められるのはリーダーシップを持つ人間であるというのが本書の根源的なメッセージであり、今の日本の問題は「カリスマリーダーの不在ではなく、リーダーシップを発揮できる人数の少なさにある」というのは当たっているかも。

 その上で、マッキンゼー流のリーダーシップの学び方(学ばせ方)についても述べていますが、それによれば、マッキンゼーにおけるリーダーの「基本動作」のもとになる考え方は、①バリューを出す、②ポジションをとる(自分の意見を明確にする)、③自分の仕事のリーダーは自分であると認識する、④ホワイトボードの前に立つ(議論のリーダーシップをとる)―といったことのようです。

 中盤あたりから最終章の「リーダーシップで人生のコントロールを握る」まで "啓蒙書"的なトーンが続くのは、「キャリア形成コンサルタント」という著者の今の仕事とも関係しているのでしょう。読者ターゲットを、キャリアの入り口にある若年層に絞っている本とみてもいいかもしれません。

 全体を通して書かれている内容自体は特に奇抜なことを述べているわけではなく、すんなり腑に落ちるもので、マッキンゼー礼賛ぶりがやや気にはなりましたが、その点も、外資系企業出身者が書いた同じような本に比べると、まだバランス感覚は感じられる方だと思います。むしろ、コンサルティングファームという業態はそれなりに意識して読んだ方がいいかもしれないし、また、読んでいて意識せざるを得ないかと思われます。

『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』2.jpg 巷にある採用本によくありがちな、あれも必要、これも必要とチェック項目ばかり矢鱈に多く並べて、結局は使いきれないし、何も印象に残らないといったパターンと比べると、求められるのはリーダーシップであるとはっきり言い切っている分、明快です(この点において評価★★★★☆)。日本の企業も、採用選考において、応募者のリーダーとしての資質にもっと着眼するようにした方がいいのかもと思わせるものがありました。実際、それを見極めるとなるとなかなか難しいことかと思われますが、そこまで具体的には踏み込んでおらず、人事パーソンの目線で見るとやや物足りなさも残ります(この点においては評価★★★☆)。

 但し、リーダーシップというものが外資系企業では若年層のうちから求められるということはよく分かりました(まあ、外資の場合、最初から中枢部にいる人間と、生涯、末端の現場から離れることのないであろう人間とが明確に分かれている傾向があり、ここで指しているのは、まさに中枢部の要員として採用された人間ということになるかとは思うが)。

 一方、マッキンゼーに就職するためのノウハウ本だと勘違いして購入して、アテが外れたという人もいたかもしれませんが、それは、そう思って買った人本人の問題。そうした(実利的な(?))ことは抜きにして、キャリアの入り口にある若年層の人に向けた、リーダーシップに関する啓発書としては悪くないように思いました(啓発書としては評価★★★★)。個人的には、総合評価星4つ(★★★★)です。

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
HRアワード2013.jpg「日本の人事部」主催の「HRアワード2013」の書籍部門で最優秀賞を受賞

受賞についてコメントする著者の伊賀泰代氏(from「日本の人事部・HRアワード2013」)
 
 
  

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