【1831】 ○ クリス・ストリンガー/ピーター・アンドリュース (馬場悠男/道方しのぶ:訳) 『ビジュアル版 人類進化大全―進化の実像と発掘・分析のすべて』 (2008/04 悠書館) ★★★★

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内容は高度だが、"図鑑"並みに豊富な写真・図説とトッピク主義の編集で、一般読者も楽しめる。

ビジュアル版人類進化大全1.jpg ハードカバー  ビジュアル版人類進化大全3.jpg 原著 ビジュアル版人類進化大全2.jpg 改訂普及版['12年]
ビジュアル版人類進化大全』 (25.8 x 19.6 x 2.6 cm、240p) "The Complete World of Human Evolution (The Complete Series)"『人類進化大全―進化の実像と発掘・分析のすべて』 (25.2 x 19.4 x 2.2 cm、239p)

 ロンドン自然史博物館の研究者ら(人類学者と古生物学者)による本書(原題:The Complete World of Human Evolution、2005)は、今日まで多くの学者らによって研究されてきた人類学の様々な領域を、霊長類、考古学、発掘の基礎、哺乳類の研究、古人骨、解剖学、遺伝子など様々な分野に渡って振り返り、併せて、世界を驚かした新たな発見の物語を、その学問的な意味と共に解説していいます(日本語版の翻訳は、国立科学博物館人類研究部長の馬場悠男氏(現国立科学博物館名誉研究員)ら)。

 第Ⅰ部「私たちの先祖を求めて」では、人類進化のあらゆる段階の分析に重要となるいくつかの一般的トッピクスが紹介されており、化石や人工遺跡が発見される現場の状況を写真等で見せ、遺跡調査のヒストリーを追うと共に、化石が発掘された環境や、地質年代、化石年代の決定方法、化石種の変異の重要性などにも触れていますが、単にヒトの祖先がどのような姿であったかだけでなく、彼らがどのように様々な適応を獲得してきたか、その中から誰がどのようにして我々のようなヒトに進化してきたかを、最近の知見をもとに探っています。

 第Ⅱ部「化石から進化を探る」では、化石証拠により類人猿とヒトが属する霊長類の起源に遡り、類人猿とヒトを含むヒト上科(ホミノイド)の進化を辿っていますが、ホミノイドがサル類と分岐したのが2000万年少し前で、1500万年前の化石類人猿はホミノイドの系列にあり、1200万年前にオラウータン科とヒト科が分岐したのは確かであるとのこと、しかし、最新の研究に拠っても、その後の、ユーラシアにおける1500万年~700万年前、アフリカにおける1200万年~800万年前の間は化石記録に空白があり、チャドやケニアで出土したホミノイドの化石によって、700万年前から再びヒトの歴史が始まるというのが人類学の構図になっていることが窺えます。

 第Ⅲ部「化石証拠の解釈」では、ここまで人類進化の化石証拠と、それらが発見された環境状態について述べてきたのに対し、人類進化に関する全ての証拠を解釈することを目的に、両者を統合的に考察しており、まず人類の進化を決定づけたロコモーション(移動)について、更に、重要な食性適応などについて述べられていますが、まだ明確には解っていないものの、想定される人類の祖先は疎林環境に生息していたと推定され、但し、環境は変化に富み、多様だったため、狭い地域に状況の異なる生息地があったと考えられ、これらの環境条件を考慮したうえで、化石類人猿や化石人類のロコモーション適応や食性適応を解釈することで、人類進化の特異なパターンを浮き彫りにしています。

 「基本書」とは言え研究者の中にも愛読者がいるというほど専門的な内容でありながらも、ヴィジュアル版との名の通り、豊富な写真やイラスト、図説を楽しみながら読め(写真や図説で文章と同じくらいのスペースを割いているため、「図鑑」と言っていいくらい)、また、2ページから4ページ単位の項目(トピック)主義で編集されているため、自分が関心があるところから読めるという、そうした点では、一般読者に配慮された"優れもの"の本です。
 
 良書ですが、写真・図版の多用と内容の専門性から値段が張るのがやや難かと思っていたら、昨年['12年]改訂普及版が出て、定価12,600円が6,090円(各税込)になり、多少は求め易くなりました。

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This page contains a single entry by wada published on 2013年2月 1日 00:46.

【1830】 ○ 印東 道子 『人類大移動―アフリカからイースター島へ』 (2012/02 朝日選書) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【1832】 ◎ アリス・ロバーツ (馬場悠男:日本語訳監修) 『人類の進化 大図鑑』 (2012/09 河出書房新社) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

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