【1828】 ○ 溝口 優司 『アフリカで誕生した人類が日本人になるまで (2011/05 ソフトバンク新書) ★★★★

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「人類の進化史」の部分はコンパクトな入門編。「日本人のルーツ」の部分は"新たな知見"。

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アフリカで誕生した人類が日本人になるまで (ソフトバンク新書)』(2011/05)[新装版]アフリカで誕生した人類が日本人になるまで (SB新書)』(2020/10)

 「人類の進化史」全般と「日本人のルーツはどこから来たか」という2つのテーマを時系列で繋げて1冊の新書に収め、しかも200頁弱という、超コンパクトな入門書です。

 「第1章:猿人からホモ・サピエンスまで、700万年の旅」「第2章:アフリカから南太平洋まで、ホモ・サピエンスの旅」「第3章:縄文から現代まで、日本人の旅」の3章構成で、章立てからも窺える通り、大体、前3分の2が人類の進化史で、後の3分の1が日本人の起源といった構成です。

 第1章では「猿人」の定義から始め(すでに「猿人-原人-旧人-新人」という区分の仕方は日本だけでしか通用しないものになっているが、分かり易さを優先させてこれを用いている。こうした解説方法は類書にも見られる)、最初の猿人である700万年前のサヘラントロプスからホモ・サピエンスの登場に至るまでの歴史が説明されていますが、ある程度この分野の本を読んだ人にとっては殆ど"おさらい"的と言っていい内容。

 第2章では、10数万年前にアフリカで生まれたホモ・サピエンスいつどのようにしてアフリカを出て、オーストラリア大陸に渡ったか、或いはまた太平洋の島々に到達できたのかが解説されていますが、生物分布の境界線として知られるマレー半島とオーストラリア大陸の間の「ウォーレス線」を3万年以上前に超えることが出来た理由として、当時の気候と海面の高さがに注目しており、また、イスラエルの地でのネアンデルタール人とホモ・サピエンスの興亡の運命を分けたのは寒冷地適応であったことを、形質学的観点から解き明かしています。

 最終章の第3章では、日本列島への人類の進出の歴史を解き明かしており、中国大陸と琉球列島が陸続きであった時代に琉球に最初のホモ・サピエンスが移住し、やがて1万3000年かけて次第に生息地域を九州から本州に広げ、縄文文化を拡げたが、今から3000年ほど前により寒冷地適応度の高い新しいタイプのホモ・サピエンスが日本列島に移住してきて、先住の縄文人との「置換に近い混血」がなされて弥生文化を形成したのが弥生人であると。

 全体に著者の専門である形態学的形質の比較研究の成果が反映されていて、一方、DNA比較などの視点は補完的に用いられているにとどまり、但し、人類が他のほ乳類と異なり、唇が厚く女性は乳房が膨らんでいるのはなぜかということについて、「唇は性器の、乳房は臀部の擬態である」といった興味深い説も紹介されていますが、分かり易い内容だけに(ナックル・ウォーキングの時にはよく見えていた性器が、直立すると見えにくくなったため、性的な信号発信を代替するために唇が厚くなり、胸が膨らんだと)、この辺りを信憑性の高い学説として読めばいいのかエッセイとして読めばいいのか、正直やや戸惑いました。

 ハワイ出身の力士などにその典型例を見るように、熱い地域に住む人々は小さくて手足が細長いというベルクマンの法則やアレンの法則に反して熱帯ポリネシアの人々が大型で丸い体型をしているのはなぜかについても、これは、陸上より気温の低い海上を日数をかけて往く南洋航海で次の島に辿り着くには、そうした寒冷地適応型の体型の方が向いていたからだというのも、何だか人に話したくなるような興味深い説明ではありますが...。

 但し、第2章の「ウォーレス線」超えから第3章にかけては、著者がプロジェクト・リーダーを務めた「更新世から縄文・弥生期にかけての日本人の変遷に関する総合的研究」('05-'10年)の成果がふんだんに盛り込まれており、DNA分析をも行い、まだ幾つかの矛盾点や未解明の部分があるとしながらも、新しい研究成果が反映されていると思われました(この部分は「入門書」のレベルを超えて、「新たに得られた知見」乃至は"仮説"と見るべきか)。

 本書に対して形質学に偏っているとの批判もありますが、個人的には、人類の進化史についてのおさらい本としてエッセイのように読み易く、その上"新たな知見"も得られたという点では良かったです。

【2020年新装版】

《読書MEMO》
●「更新世から縄文・弥生期にかけての日本人の変遷に関する総合的研究」で得られた新知見〔溝口(2010)より溝口氏自身が改変〕
本プロジェクト研究で得られた新知見〔溝口(2010)より改変〕.jpg①アフリカで現代人(ホモ・サピエンス)にまで進化した集団の一部が、5~6万年前までには東南アジアに来て、その地の後期更新世人類となった。
②③次いで、この東南アジア後期更新世人類の一部はアジア大陸を北上し、また別の一部は東進してオーストラリア先住民などの祖先になった。
④アジア大陸に進出した後期更新世人類はさらに北アジア(シベリア)、北東アジア、日本列島、南西諸島などに拡散した。シベリアに向かった集団は、少なくとも2万年前までには、バイカル湖付近にまでに到達し、寒冷地適応を果たして北方アジア人的特徴を得るに至った。日本列島に上陸した集団は縄文時代人の祖先となり、南西諸島に渡った集団の中には港川人の祖先もいたと考えられる。
⑤さらに、更新世の終わり頃、北東アジアにまで来ていた、寒冷地適応をしていない後期更新世人類の子孫が、北方からも日本列島へ移住したかもしれない。
⑥そして、時代を下り、シベリアで寒冷地適応していた集団が東進南下し、少なくとも3000年前までには中国東北部、朝鮮半島、黄河流域、江南地域などに分布した。
⑦⑧この中国東北部から江南地域にかけて住んでいた新石器時代人の一部が、縄文時代の終わり頃、朝鮮半島経由で西日本に渡来し、先住の縄文時代人と一部混血しながら、広く日本列島に拡散して弥生時代以降の本土日本人の祖先となった。

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This page contains a single entry by wada published on 2013年1月 5日 15:32.

【1827】 ◎ 高井 研 『生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る』 (2011/01 幻冬舎新書) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【1829】 ◎ 河合 信和 『ヒトの進化 七〇〇万年史』 (2010/12 ちくま新書) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

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