【1817】 ○ 保阪 正康/東郷 和彦 『日本の領土問題―北方四島、竹島、尖閣諸島』 (2012/02 角川oneテーマ21) ★★★☆

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三つの領土問題の異なる性格の分析は明快。解決案はやや歯切れが悪い。

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日本の領土問題 北方四島、竹島、尖閣諸島 (角川oneテーマ21)』 ['12年]

 かつてはソ連・ロシア相手に交渉をしてきた外務官僚であり、今は大学教授である東郷和彦氏(第二次世界大戦終戦時に外務大臣を務めた元外交官の東郷茂徳は祖父にあたる)と、昭和史研究家の保坂正康氏の対談で、その前に東郷和彦氏が、北方四島、竹島、尖閣諸島という三つの領土問題について、経緯や性格、ポイントを解説的に書いています(そう言えば、『日本の国境問題ー尖閣・竹島・北方領土』('11年/ちくま新書)の孫崎享氏も元外務省だった)。

 直接担当した北方四島問題は、交渉の歴史的経緯の経験的検証があって面白いのですが(四島一括返還に向けては、それを要求しないならば沖縄を領土化するというアメリカからプレッシャーがあったことを初めて知った)、竹島、尖閣諸島に関してはやや概略的かも。但し、解説及び対談を通して言えることは、三つの領土問題は、それぞれ国の立場によって性格を異にしているということであり、一括して論じるべきではないということです。

 例えば北方四島の本質は、ロシアにとっては経済・軍事的権益を巡る「領土問題」であるが、日本にとっては先の大戦末期のソ連から受けた屈辱を晴らし決着をつけるための「歴史問題」であると。

 一方、竹島(独島)問題は、韓国にとっては「領土問題」でなく、日本から受けた屈辱にかかわる重大な「歴史問題」であるが、日本にとって竹島問題は漁業権益をめぐる「領土問題」に過ぎず、そこには大きな温度差があると(日本人には韓国人があの島に特別の思い入れを持つ理由が理解できない)。

 そして、尖閣諸島問題は、最近までは、中国にとっても日本にとっても「領土問題」であって「歴史問題」ではなかったのだが、付近に海底油田があることが分かった1971年頃から中国が領有権を主張し始め、権益獲得のために「歴史問題」を持ち出し始めたと―。

 今、日本が実効支配しているのは尖閣諸島だけで、北方領土はロシアが、竹島は韓国が実効支配しているわけですが、この「実効支配」を覆すのはかなり難しいことのようです。ただ、これは日本にも言えることですが、今のように実効支配している側が「領土問題は存在しない」と言い続ける限り、この問題は解決に向けての進展をみるのは難しいだろうと。

 北方領土は日本にとっては「歴史問題」であるが、戦後の条約上は歯舞・色丹の二島返還論には一定の根拠があり、四島一括返還の困難さからみて、日本国内におけるその"呪縛"を解きほぐし、二島返還から交渉すべきであろうというのは、他の多くの論者も指摘している点であり、東郷氏は、そのことが国後・択捉問題の解決にも繋がっていくとしています。

 一方、竹島問題は、歴史的背景に関する日韓双方の主張に隔たりがあり、韓国には57年も島を実効支配してきた事実と根強い「独島憧憬」もあって、東郷氏は、まずは環境保全などの問題に絡めたアカデミックな交流などから始め、日韓の関係の良好化を図ることを提唱していますが、日本は竹島の主権を放棄して経済権益を守る協定案を結んではどうかとの意見もあるようです(後者の意見について、東郷氏は必ずしも賛成しないが選択肢の一つとしている)。

 また尖閣問題は、現実には資源問題であるが、歴史問題に転化される危険性があり、対談の最後に、これは「石油問題」だと割り切って、世界のエネルギー需要にも貢献することになる尖閣石油の共同開発をしてはどうかと提案しています。

 著者たちは3件ともに日本の領土であり、領土要求を決して取り下げてはならないとはしていますが、日本が現在置かれている、軍事力も経済力もあてに出来ないという国際環境を考えたとき、強気一点張りの、将来の展望のない領土神話を振り回すべきではなく、外交や民間の交流の在り方について真剣に考えるべきであり、北方領土の二島先行返還など可能なことを中心に、多様な選択肢を考えるべきであって、いかなる手段を通じて、いかなるタイミングで領土交渉を日本に有利に展開するかを考えるべきであるとしています。

 こうした現実的で柔軟な方策について真剣に議論することが望ましいとするのは、いかにも実際に交渉を担当してきた元外務官僚らしい意見であり、教えられる点、納得させられる点も多くありましたが、東郷氏自身の提案の中には漠としたものも多く、ニュートラルと言えばニュートラル、あまり歯切れが良くないと言えば良くないようにも思いました(北方四島の歴史的経緯の解説が明快なだけに、逆に提案部分にそれが目立つ)。

 分析が明快で、解決案はやや歯切れが悪いというのは、やはり官僚体質なのかな。田母神俊雄氏や西尾幹二氏みたいな、自分の思想ばかりが前面に出る評論家風になるのも困るけれど。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年12月15日 00:12.

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