【1759】 ○ 小松 正之 『クジラと日本人―食べてこそ共存できる人間と海の関係』 (2002/04 青春出版社PLAYBOOKS INTELLIGENCE) ★★★★

「●捕鯨問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●日本の国境問題」 【1810】 山田 吉彦 『日本の国境

「クジラは絶滅の危機寸前」というのは誤解。種によっては捕獲した方が共存共栄に通じる。

クジラと日本人―食べてこそ共存できる人間と海の関係.jpg  クジラと日本人―食べてこそ共存できる人間と海の関係 2.bmp 『クジラと日本人―食べてこそ共存できる人間と海の関係 (プレイブックス・インテリジェンス)』 (下図:IWC下関会議推進協議会パンフレットより/下段に拡大図)

ミンククジラ/シロナガスクジラ.jpg 商業捕鯨の再開推進の立場からの捕鯨問題についての入門書で、10年ほど前に刊行された本ですが、クジラを捕って食べて良い理由を懇切丁寧に解説したもので、かっちりした内容であり、「クジラは絶滅の危機寸前」といった言説が誤解であることなど、この問題についての自らの認識を改めさせてくれた本でした。

 さまざまな種類のクジラの生態と棲息の実態、世界及び日本の捕鯨の歴史、日本人とクジラの文化的関わりなどを解説し、クジラが資源として枯渇状況にあるわけではなく、むしろ適量の捕獲を行うことがクジラを守ることにも繋がること、IWCが捕鯨禁止を決定した経緯と、その見直しが先延ばしされている矛盾、捕鯨禁止運動の内実や捕鯨禁止の科学的根拠のなさなどが説かれています。

 著者は捕鯨やマグロ漁業の国際交渉の担当する水産庁幹事官で、IWC(国際捕鯨委員会)にも日本代表代理として参加している人であり、商業捕鯨の再開を訴える背景には、日本の経済的権益を守るという立場からの見方が当然のことながら織り込まれているわけですが、その是非はともかく、国際会議における日本の発言力の弱さというものも考えさせられました。

 しかしながら最近では、クジラが人間が海からとる海産物の3倍から5倍もの量を捕食していること、ミンククジラをはじめ多くのクジラの生息数が急増していることなどの科学的調査結果が公表され、新たにIWCに加入した途上国を中心に、捕鯨賛成諸国も増えてきているようです。

 シロナガスクジラは1900年頃に20万頭いたのが今は2千頭に減ってしまったようですが(原因は、鯨油を採ることのみを目的とした欧州諸国の乱獲)、現在調査捕鯨の対象として認められているミンククジラは南氷洋に76万頭いるとのことで(内、調査捕鯨として捕獲しているのは年間440頭のみ)、更に北西太平洋にはミンククジラが2万5千頭(調査捕鯨上限は年間100頭)、ニタリクジラが2万2千頭(同年間50頭)、マッコウクジラは10万2千頭(同年間10頭)いると推定されるそうです(データは何れも2001年度)。

 440/760,000、100/25,000、50/22,000、10/102,000―こうして見ると、あまりにも異常な捕獲制限枠の在り様ではないでしょうか―ミンククジラの増えすぎ(「76万頭」という数字はIWCの科学委員会によって算出・認定された数)、が、シロナガスクジラ等のえさ不足にも繋がって、ますますシロナガスクジラを絶滅の危機に追いやっているという事実もあるようです。

商業捕鯨を再開しなければならないほど今の日本は食糧難なのかという疑問は日本人にもあるかもしれませんが、商 業捕鯨が禁止されてから日本のマグロの輸入量が増え、それが現在の南洋黒マグロの資源量の問題に連なっています。

 日本は縄文時代からの捕鯨の歴史があり、クジラを資源として余すことなく利用し、かつ自然の恵みに対する畏敬と感謝の念を忘れずにきたとのことで、鯨油採取のためだけに捕鯨をしていた国々とは文化が異なり、これはある意味これは異価値・異文化許容性の問題でもあるなあと。

 IWCで最も頑なに商業捕鯨再開を拒んでいるのは米国であり、'90年に見直しするはずだった商業捕鯨禁止決定がそのままになっている―その米国は、一旦IWCを脱退した捕鯨国アイスランドが、捕鯨停止に対する決議を留保したままオブザーバーとしてIWCに再加入することに最後まで反対していますが、京都議定書や戦略核兵器制限交渉においては反対・保留の立場をとったまま参加しているわけで、強国のエゴというのがここにも見え隠れしている思いがします。

 1年間で「3万頭」増えるミンククジラの捕獲制限枠が僅か「2千頭」と言うのは、やはりどう見ても保護と捕獲のバランスを欠いているように思いました。

(IWC下関会議推進協議会パンフレットより)
syu-kujira.jpg
《読書MEMO》
●ミンククジラは、20世紀初頭の南氷洋には約8万頭しかいなかったが、今では76万頭にまで激増している。ミンククジラの増殖率は年間4~7%。76万頭の4%は3万頭。今後100年間で20万頭(1年で2000頭)捕獲しても資源に悪影響はないとIWCの科学員会でも認められている(24‐25p)
●北西太平洋での日本の調査では、ミンククジラ100頭、ニタリクジラ50頭、マッコウクジラ10頭を上限として捕獲しているが、北西太平洋には、ミンククジラは25,000頭、ニタリクジラは22,000頭、マッコウクジラは102,000頭いると推測されている(25p)
●シロナガスクジラは1900年ごろ、南氷洋には20万頭がいたといわれるが、ノルウェーが8万2000頭、イギリスが7万頭捕獲し、現在では南氷洋に2000頭程度しかいないといわれている(44p)
●シロナガスクジラの増加を促進するためには、ミンククジラを一定数間引くことが有効であるといわれている。少なくとも、ミンククジラが今のままの数でいる以上、シロナガスクジラの増加は見込めないようだ(55p)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1