【1666】 ○ 柘植 智幸 『上司が若手に読ませたい働く哲学 (2011/02 同友館) ★★★☆

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「上司が若手に読ませたい」というのは、ある意味、核心(現実)を衝いているかも。

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上司が若手に読ませたい働く哲学』(2011/02 同友館)/藤本篤志 『社畜のススメ (新潮新書)』(2011/11)

 「自立・自責(他責で損をするのは自分)」「会社はお金儲けの筋力トレーニング事務所」「期待値(ビジネスには全て期待値がある)」「教えられ上手・育てられ上手・叱られ上手」という4つの考え方を基本ベースに、「社会で働くために知っておくべき考え方」「仕事との向き合い方」「コミュニケーション」「キャリアアップ」「ビジネスマナー」「プライベート」の6つのカテゴリーについて、若手社員からの全75項目の質問に著者が答える形の構成となっています。

 基本的には20代の若者を対象に、今の仕事がつまらないからといって腐るなと説いており、「個性的でキツイ上司の下で働くことが将来的にすべて自分のためになる」「コピー取り、ティッシュ配りでもプロフェッショナルは断然かっこいい!」「上司や会社の悪口を言って損するのは自分」といった感じで続いていきます。

 著者が説いていることは、ビジネスの世界に一定の年数身を置いた人には尤もなことと聞こえるように思いますが、これを読んでいて、今たまたま多くの人に読まれている、藤本篤志氏の『社畜のススメ』('11年11月/新潮新書)を想起しました。

 藤本氏は、「自分らしさ」を必要以上に求め、自己啓発本を鵜呑みにすることから生まれるのは、ずっと半人前のままという悲劇であり、そうならないためには敢えて意識的に組織の歯車になれ、としていて、世阿弥の「守破離」の教えを引き、サラリーマンの成長を、師に決められた通りのことを忠実に守る「守」、師の教えに自分なりの応用を加える「破」、オリジナルなものを創造する「離」の三つのステージに分け、この「守→破→離」の順番を守らない人は成長できないとしています。

 本書は、言わば、その「守」の部分を、より具体的に噛み砕いて説いたものであるとも言え、藤本氏(1961年生まれ)は、IT企業に18年間勤めた上でそう述べているのですが、この著者(1977年生まれ)の場合は、専門学校卒業後、就職活動に失敗し、その際に逆転の発想で、大学に対する就職支援、企業に対しる人財育成支援の事業を起こし、今に至っているとのこと。

 こっちの方が根っからのベンチャーのような気もしますが、20歳から働き始めて会社設立が25歳、その時初めて給料を手にしたとのことで、まだ30代ですが、それなりに苦労はしているわけだなあと。

 「個性を大切にしろ」「自分らしく生きろ」と一見若者受けすることばかり唱え、その結果どうなろうと何も担保しない、所謂、巷に溢れる「自己啓発本」とは一線を画しているというか、ある意味逆方向であり、その意味でも、藤本氏の本と同趣旨と言えます。

 藤本氏の本を読んで概ね共感はしたものの、これが若い人に伝わるかなあという懸念もありましたが、この本の著者は、こうした「守」の時代、修行の時期の大切さをセミナーや社員研修を通して、若手のビジネスパーソンに訴えているようです。

 まだ30代という若さである分、言っていることが若い人に伝わり易いのかも知れないけども(「新聞は読むな!携帯のモバイルサイトに登録を」などと言っているのも30代前半っぽい)、それでも、「腐る」ことなく、全てが将来に役立つと思って取り組めという言葉に頷くのは中堅以上の社員ばかりで、若い人にはピンとこない面もあるのではないかとの危惧は、個人的には拭い去れませんでした。
 
 その意味でも、「上司が若手に読ませたい」というのは、多少皮肉を込めて言えば、核心(現実)を衝いているかも。

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