「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1646】 中川 恒彦 『新訂 人事・労務担当者のやさしい労務管理』
ノウハウをオープンにしている姿勢に好感。チェックリスト方式で、「自社で使える」ものに。
『まるわかり 労務コンプライアンス -チェックリストでわかる人事労務リスク対策』
マスコミで「サービス残業」「名ばかり管理職」「偽装請負」「過労死」といった労務問題が報じられ、社会問題化してからもう何年かになりますが、それでもこうした問題が後を絶たないのは、厳しい経営環境が続く中、企業内でそうした問題にまで手が回らずに解決が先延ばしになっていて、仮に問題あってもこれ以上悪くはならないだろう、或いは、問題が発覚しても対処療法的に切り抜けて済まそうとする思惑が、一部の経営者のどこかにあるためではないかと思われます。
一方で、IPO(株式公開)やM&Aに際して、最近は財務的な監査だけでなく「労務監査」も重視されるようになっていますが、当初の頃はあくまでも、財務監査に付随して監査法人や法律事務所などが行うものであり、その型通りのやり方に複雑な実態との乖離や偏りを覚えた労務担当者もいたのではないでしょうか。
社会保険労務士法人による本書は、、なぜ労務コンプライアンスが必要なのかを説くとともに、労務コンプライアンス経営を実現するために、自社で労務コンプライアンスに関する調査をどのように実行すればよいかについて書かれたものですが、具体的な項目についてどのような視点でもって調査すべきかが、分かりやすいチェックリストになっているのが大きな特長です。
チェックの対象は、雇用管理、服務規律、賃金管理、労働時間・休日・休暇から就業規則や労使協定、パート・派遣労働者など特定層の扱い、健康・安全衛生、労働社会保険まで、人事労務全般を広くカバーし、また、それぞれのチェック項目に、労務管理を強化して労務リスクを減らすという視点と併せて、社員満足度を高めることで労務リスクを低減するという視点が織り込まれているのもいいと思います。
人件費の抑制を迫られている企業が多い一方で、退職者からの未払い時間外手当請求の数は依然増え続けていますが、本書では最終章で、こうした"人件費"と"労務リスク"のジレンマに悩む企業のために、労務コンプライアンスを維持しつつ経営的視点をも重視する立場から、「固定払い時間外手当制度をどのように導入すればよいか」といったことについても分かりやすく解説されています。
もちろんそれと併せて、「長時間労働をどのように抑制していくか」「社員満足度をどのように高めればよいか」といったことも解説されていて、職場風土の改革が大事であることを、読者に常に忘れさせないのがいいです(時間外手当の削減について書かれた本の中には、裏表紙に「本書は中小企業経営者のためだけに徹底的に解説しています。社員の皆様はご遠慮ください」などとあるものもあるからなあ。ちょっとヒドくない?)。
全体を通して、労務コンプライアンス調査が「自社で」できるように、ノウハウを余すところなくオープンにしている姿勢に好感が持て、チェックリスト方式をとることで、単なる啓蒙でなく実際に「使える」テキストになっていると思いました。