【1614】 △ 鈴木 康央 『部下を思わずハッとさせる上司(リーダー)の伝達力(ベストフレーズ)ですべてが決まる (2010/09 ごま書房新社) ★★☆

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「ベスト」にこだわり過ぎ? 読み易いけれども的が絞りにくい本のように思えた。

部下を思わずハッとさせる上司の伝達力.jpg 『部下を思わずハッとさせる上司(リーダー)の伝達力(ベストフレーズ)ですべてが決まる』 (2010/09 ごま書房新社)

 言葉というのは確かに大切だと思いますが、本書のように「ベスト型リーダーはベストフレーズしか使わない」となってくると、そんなに読者を追いこんでしまって大丈夫かなあと、あらぬ心配をしてしまいます(啓蒙書にありがちなパターン?)。

 そもそも、ベースとなっているリーダーシップ論が、縦軸を「人間関係」への関心度の軸、横軸を「成果」への関心度の軸としたマトリックスから成っていて、人間関係・成果への関心が共に高いのが「ベスト型リーダー」、以下、どちらかが高くてどちらかが低いか、或いは両方とも低いかで、「攻撃型リーダー」「温和型リーダー」「冷血型リーダー」と4つに類型化していますが、これは、60年代に提唱された「PM理論」でしょう。

 「PM理論」は、リーダーシップ論の最も基本的な概念を集約的に著す理論の1つであり、今の時代にも生かされるものではあると思いますが、組織状況によっては「P(Performance)機能=目標達成機能)」よりも「M(Maintenance)機能 =集団維持機能)」を重視した方がいいとか、或いは「M機能」よりも「P機能」を重視した方がいいといったことが考えられ、その後のリーダーシップ理論の主流となる「条件適応理論(状況対応理論)」各種の先駆け的要素も、そこには含まれていたわけです。

 それを、「ベスト型リーダーはベストフレーズしか使わない」みたいに、目指すは「ベスト型リーダー」しかないような前提を付与している点が、個人的には気になりました(啓蒙書の1つの典型的パターンともとれるし、アメリカ型の「マネジリアル・グリッド」の考えに近いともとれる)。

 本そのものは、大きな活字で読み易く書かれていますが、具体例として挙げられているリーダーフレーズ240例というのは、かなり総花的な印象もあり、これを状況によって使い分けろということになると、結局は、言葉使いよりも状況判断力の問題ではないかと(詰まるとこと、「状況対応理論」になっているとも言える)。

 部下との会話例には、状況説明が抽象的な一方で、言葉使いそのものは紋切型のようなものも多くて、分かりやすけれども何となく画一的なキャラクターを相手にしているような...。
 実際の場面で、いきなりこの通り使えるかなあ、かえって浮いてしまったりすることもあるんじゃないかなあという気がするものの、多々ありましました。

 確かに、本書に書かれている通り出来て、また、その効果が得られるならばそれにこしたことはないですが、自分には、読み易いけれども、いろいろな意味で的が絞りにくい本のように思いました。
 
 こ著者は、経営コンサルタントのようですが、どちらかというと、著作型と言うよりセミナー・講演型ではないのかなあ。

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