【1613】 △ 杉本 良明 『リーダーなら知っておきたい部下の心をつかむたったひとつの大切なこと (2010/08 中経出版) ★★☆

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リダーシップ論としては新鮮味が希薄。むしろ、コーチング乃至部下コミュニケーションの本だった?

部下の心をつかむたったひとつの大切なこと.jpg 『部下の心をつかむたったひとつの大切なこと』(2010/08 中経出版)

 本書では、「リーダーは、鬼となって引っ張らなくても、無理にほめなくてもいい」と言っていて、ではどうすればいいのかというと、「人間は『自分の感情や存在を認めてほしい』という強力な欲求(『承認欲求』)をもっている」ため、この欲求に働きかければいいのであって、そうすれば、命令したり、叱ったり、ほめたりしなくても、部下は自ら働いてくれるようになる―というのが趣旨です。

 趣旨前提の方向性には賛同しますが、基本的には、太田肇氏による「承認欲求論」の焼き直しで、殆ど新鮮味を感じませんでした。
 「幸福感をもって部下が動く、たったひとつの原理」とは、「内的選択で動くとき幸福で、外的強制で動くとき不幸」であるというのも、ここで言っている「内的選択」とは、高橋伸夫氏の言う「内発的動機付け理論」の焼き直し。

 タイトルから、リーダーシップの本かなとも思いましたが、そうして見ると新味に乏しく、むしろ、そうしたことを実践するにはどうしたらいいかが分り易く書かれていて、リーダーが知っておくべきコーチングの本ということだったかもしれません(いや、それ以前の、単なる部下コミュニケーションの本だったかも)。

 実践することによって意味を成す啓蒙書でもあると思いますが、本としてのレベル的には、管理職初心者向けというか、普段あまり理論書を読まない人向けでしょう。読み易いけれども、歯応えのようなものはやや希薄でした。

 どちらかというと、講演・セミナー的な内容ではないでしょうか。全否定するわけではなく、「コミュニケーション研究家」とのことなので、一回話を聞いてみたいと思わせるものはありました。

 それにしても「たったひとつの」とかいったタイトルが、この手の本には多いなあ。
 その「たったひとつ」が何かというと、同著者の前著『心を鬼にして叱るより無理にでもほめなさい』('09年/日本実業出版社)と、基本的にはほぼ同じことが書かれているので、な~んだと思う読者も多いのではないでしょうか。

 その意味では前著の焼き直しでもあると言え、まあ、啓蒙書によくある固定ファンというのがいるでしょうが、発刊日から間を置かず、ネットの書評で5つ星が並ぶというのは、身内の所為ではないかと...。

 でも、前著では、タイトルで「無理にでもほめなさい」と言っていて、今度は「無理にほめなくてもいい」となると、表現上の揚げ足を取るわけではないが、前著から"進化した"と言うよりも、ただ言葉の表現が粗いために一貫性が無いという印象にならざるを得ませんでした。

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