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世界観的な物語が「ボーイ・ミーツ・ガール」的な話に決着してしまったような...。
『1Q84 BOOK 3』(2010/04 新潮社)
'09年に刊行され、上下巻合わせて200万部を超えるベストセラーとなった『1Q84 (BOOK1・ BOOK2)』(新潮社)の続編で、前作の売行きを見て新潮社は初版で50万冊を刷り、更に予約状況を見て発行日直前に増刷、結果として、発売日から12日目で100万部刊行という、ミリオンセラー達成の最速記録を樹立しました。
『BOOK1・BOOK2』を読んで、個人的には、要するに「よく解らなかった」のですが、「『BOOK1・BOOK2』が投げかけた巨大な謎を、作者自身が批評家として解き明かした」という触れ込みもあって、今回は早目に入手し、読んでみました。
でも「やはり」と言うか、「ますます」よく解らなくなってきて、ずっと読書評も書かずにいて、その間に批評家などが書いている書評なども読みましたが、前作同様に解釈はまちまち、それぞれの"深読み"には感心させられるものの、個人的には、ごく普通の読者が抱いたであろう"感想"の域を出るものではありませんでした。
相変わらずよく練られた読み易い文体ではあるものの、ここまで「エンタメ」していいのと思われるぐらいハードボイルドタッチだった『BOOK1・ BOOK2』に比べると、同じタッチでありながらもストーリーのテンポはがたっと落ち、これが作者ならではの「読んでいて心地よい文体」で書かれたものでなければ、途中で投げ出していたかも知れません。
『BOOK3』で新たに登場した、「さきがけ」のリーダーを殺害した青豆の行方を追う「牛河」というのはなかなか面白いキャラだったと思われ、殺されてしまうのが少し惜しい気もしましたが、この作品は個々のキャラよりも全体の関係性の中でのそれぞれの象徴的な位置付けを手繰りながら読むものなんだろうなあ(別に、「牛河さんが可哀想」的な読み方でもいいのだが)。
『BOOK1・ BOOK2』でもいろいろシュールな場面はありましたが、今回の牛河の遺体の口からリトル・ピープルが出てくる場面には、『海辺のカフカ』で空から魚が降ってきた場面以上に唖然とさせられ、でも最後は、青豆と天吾が無事出会えて良かった、良かったって、これ、そーゆー話だったの。
2人でこっち側の世界に戻ってきたのはいいけれど、後に残してきた「1Q84」の世界の方は、未解決問題が山積しているような...(「世界は二人のために」という60年代の曲の歌詞を思い出してしまった)。ある意味、「1Q84」の世界の方が現実世界に近いのかも。
世界観的な物語が「ボーイ・ミーツ・ガール」的な話に決着してしまったような気がし、天吾がNHK集金人であった父親の死を通して父親を受容したように思える展開なども含め、旧作から『海辺のカフカ』に連なる「男の子」の成長物語(ビルドウングスロマン)を、今もなおこの作家は書き続けているようにも思いました。
自分にとっては、『BOOK1・ BOOK2』の"謎解き"と言えるものではなく、これで終わるならば、『BOOK1・ BOOK2』で終わっていた方が良かった気もしますが、今回は更にもやもやしたものが残っただけに、続編が出れば出たで、また読むのだろうなあ。
【2012年文庫化[新潮文庫]】