【1356】 △ 伊藤 計劃 『虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)』 (2007/06 早川書房) ★★★

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他ジャンルでの、その能力とプロットのマッチしたエンタテイメントを読んでみたかった。

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虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)』['07年]『虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)』['10年] 映画「虐殺器官」(2017)監督:村瀬修功

虐殺器官   .jpg 早川書房主催の2007(平成19)年・第11回「SFが読みたい!―ベストSF」(国内篇)第1位作品。

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)』(2014)

 9・11以降、激化した"テロとの戦い"は、核兵器によるサラエボ消滅で転機を迎え、先進資本主義諸国では厳格な個体認証による情報管理が進む一方、途上国では、内戦・紛争による虐殺が横行している。そうした中、米情報軍大尉・クラヴィス・シェパードは、その紛争の背後に見え隠れする男、ジョン・ポールを追う―。

 3冊の長編小説と数作の短編を遺して、昨年['09年]若くしてガン死した作家・伊藤計劃(1974-2009/享年34)のデビュー作で、'06年の第7回「小松左京賞」の最終候補となりながらも落選、しかしながら、一部の評論家の熱い支持を得て出版され、ついには上記の通り、「ベストSF2007」国内篇第1位に輝いた作品です(「ゼロ年代SFベスト」国内篇でも第1位)。

 人工器官によって作られた兵器が登場したりする近未来ウォー・ノベル(戦争小説)ですが、世界情勢の描き方はやや大雑把で、むしろ、紛争地域の安定を図るために虐殺が渦巻く戦地を渡り行く、それ自体も"暗殺部隊"である「特殊検索群i分遣隊」の大尉である主人公シェパードの、戦場と過去を行き来する意識の流れを(時に"哲学的"に)追っていくような展開であり、サイバーパンク・ノベルの一形態とも言えます。

 そうしたこともあって、どことなく現実浮遊感が漂うというか、残酷極まりないはずの戦闘・虐殺シーンも、ゲーム上で見ているような感覚しかなかったのですが、主人公を初めとする登場人物達のスノビシズムに満ちた会話が、結構楽しめました(スゴいね、この作家の蘊蓄は)。

 ジョン・ポールとは何者かというミステリ要素もありますが、謎解きの進行は、息もつかせぬと言うよりは遅々としたもので多少かったるく、結末も既存のSFやウォー・ノベルの範疇を(別の言い方をすれば「B級映画」の範疇を)超えるものではないように思え、やはりこの作品の一番の魅力は、この"哲学的"なファッションを「纏った」(だからスノビシズムなのだが)味付けではないかと思った次第。

 そうした"味付け"が、プロットそのものを凌駕してしまっている観もあり、これはこれで希有な才能なのでしょうが、作品自体の深みはあまり感じられませんでした。

 宮部みゆき氏が絶賛しているのは、自身がロール・プレイング・ゲーム的な作品を著していることもあるのでしょう。
 伊藤氏は、「メタルギア」のゲームデザイナー小島秀夫氏の熱狂的なファンであったとのことですが、このウォー・ノベルにも、そうした雰囲気を感じます(「メタルギア」の主人公は"傭兵"だが、シェパード大尉も、イメージ的には"傭兵"に近い)。

 でもやっぱり、相当な潜在能力を持った作家だったのではないかと。オタッキーではあるけれど、別にSFやウォー・ノベルに限らずとも優れたエンタテイメントを書けた作家であり、もう少し長生きしてもらって、他ジャンルでの、その能力とプロットのマッチングした作品を読んでみたかったように思います。

虐殺器官 映画.jpg虐殺器官 映画2.jpg映画「虐殺器官」(2017)監督:村瀬修功

【2010年文庫化・2014年改版[ハヤカワ文庫JA]】

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This page contains a single entry by wada published on 2010年8月 6日 20:17.

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【1357】 ○ 角田 光代 『森に眠る魚』 (2008/12 双葉社) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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