【1035】 × パトリシア・コーンウェル (相原真理子:訳) 『異邦人 (上・下)』 (2007/12 講談社文庫) ★★

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「ケイ・スカーペッタ完全復活」には程遠い。

異邦人[上].gif 異邦人[下].gif 『異邦人 上 (講談社文庫 こ 33-26)』 『異邦人 下 (講談社文庫 こ 33-27)

Book of the Dead - Patricia Cornwell.jpg 全米女子テニス界のスター選手が休暇先のローマで惨殺されるが、その遺体はひどく傷つけられ、くり抜かれた眼窩には砂が詰め込まれていた。イタリア政府から依頼を受けた法医学コンサルタントのケイ・スカーペッタは、元FBI心理分析官で法心理学者のベントン・ウェズリーと共に、事件の調査に乗り出す―。

 2007年に発表された「検屍官シリーズ」の第15作で、"検屍官" ケイ・スカーペッタは、シリーズ第12作『黒蠅』('03年)以降、検屍局長の職を辞し、フロリダ州デルレイビーチに住んで法病理学者の資格で犯罪コンサルタントをしていますが、今回の事件の舞台はローマ、ということで、邦訳タイトルは『異邦人』(原題の「死者の書」(Book of the Dead)は確かにピンと来ない)。

 このシリーズ、日本では毎年年末に新作が出ていたのが、前作『神の手』('05年)との間に「捜査官ガラーノ」シリーズなどがあってやや間があっただけに、「ファン待望の作」、「ケイ・スカーペッタ完全復活」などと歓迎されましたが、一方で、「以前ほど面白くない」「ちょっとがっかり」との声も。

 自分自身の感想も後者で、以前の相方マリーノとかも落魄しておかしくなっていて、スカーペッタ自身の存在も、姪のルーシーなどに押され気味でやや薄く、久しぶり同窓会に行ったら皆が疲れて元気なくて盛り下がったみたいな感じ。

 ケイ・スカーペッタのフィアンセでもあるベントンがスカーペッタを巡ってローマのハンサム法医学者オットー・ポーマにやきもきさせられたり、スカーペッタを憎む女性精神科医マリリン・セルフの存在があったりと、登場人物が増えた分、愛憎ドラマみたいになって、事件そのものの影も薄い。

 そのマリリン・セルフのもとにサンドマンと名乗る者から怪しいメールが届いて、スカーペッタ自身にも危険が迫りますが、身内を事件に巻き込まないと話は盛り上がらないと作者は思っているのでしょうか。

 随所に織り込まれる"最新"の科学捜査のテクニックも、「FOXクライム・チャンネル」などでやっているものの後追いにしか見えず、やたら時事ネタが盛り込まれているところに、逆に、時代に後れまいとする作者の焦りのようなものを感じてしまいました。

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