【994】 ○ 畑中 武夫 『宇宙と星 (1956/07 岩波新書) ★★★★

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読み易く味わいのある文章。今でも充分に入門書として通用する。

宇宙と星2977.JPG宇宙と星.gif  畑中 武夫.jpg  畑中 武夫 (1914-1963/享年49)
宇宙と星 (岩波新書 青版 247)』 ['56年]

 著者の畑中武夫は理論天体物理学者で、萩原雄祐(1897-1979)門下で小尾信彌氏(東大名誉教授)などの兄弟子に当たる人、若くして日本の天文学界のリーダーになりましたが49歳で亡くなり、和歌山県新宮市の出身ということで、同じく夭折した中上健次(1946-1992)らと共に、新宮市の名誉市民になっています。(下図は「新宮市」ホームページより)

 本書は'56年の刊行で、岩波新書の宇宙学関係では超ロングセラーであり、宇宙物理学者の池内了氏(名大教授)なども「私が宇宙に研究を志すきっかけとなった本」と言っています。

 我々に馴染みの深い星座の話から説き起こして、太陽(恒星)と銀河系を語り、最後に、星の生涯や宇宙の生成と進化について天体物理学的な観点から解説しており、星の光度や距離をどのように決定するのかといったことや、恒星のHR図(星の光度と表面温度の相関図)からの星の来歴の読み取りなどがわかり易く解説されていて、今でも充分に入門書として読めるし、構成的にも文章そのものも読み易いように思います。

 細かい数字はともかくとして、「脈打つ星」(パルサー)の原理や、太陽および銀河系の構造、超新生爆発または白色矮星で終わる星の生涯のことなど、この頃もう既にここまで判っていたのだなあと思わせる記述が多い一方で、「惑星を伴う恒星」の存在など推論段階のものもあり(現在は200個以上発見されている)、宇宙の始まりを50億年前と推定しています(現在は137億年前とされている)。

 40代前半で書かれたわりには、エッセイ風の味わいのある記述もあり、「オリオンの名は、球団や、映画館や、またいくつかの商品の名にも使われていて、われわれに親しみ深い」などいう記述にぶつかると、ちょっとタイムスリップした感じで嬉しくなってしまいます(因みに、スペースシャトル引退後の後継機の名は「オリオン」に決定している)。

 同著者の、毎日出版文化賞を受賞した『宇宙空間への道』('64年/岩波新書)もお奨めです。

畑中武夫(新宮市出身).jpg

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