【808】 ○ 楳垣 実 『外来語辞典 [増補] (1972/01 東京堂出版) 《[初版] (1966/02 東京堂出版)》 ★★★☆

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「増補」には笑える箇所も。'60年代後半の世相が垣間見える。

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外来語辞典 増補』〔'72年〕赤本外来語辞典 (1966年)青本 

外来語辞典2.jpg 故・金田一春彦が「外来語の権威」として認め、代表的著書『日本語』(岩波新書)にその名がよく登場した楳垣実(うめがき・みのる、1901‐1976)は、外来語辞典や隠語辞典を編纂したことで知られる一方、小説・詩・俳歌などもこなす広い意味での文人であったようです。

 本書は' 66年に初版青本が刊行された、その名の通り「外来語辞典」ですが、例えば近年話題の「アスベスト」なども、「(オ)asbest<(ラ)asbestos〔鉱物〕石綿.火浣布.「火浣布の名を...アスベストスともいへり」平賀源内『火浣布略説』1765」といった具合に、典拠まで書かれています。一方で、「スー・アンコー(四暗刻)」などという語もあり、何だか親しみやすいです。

増補 外来語辞典 楳垣実 東京堂出版.jpg '72年刊行の増補版赤本には、'66‐'71年の5年間の新語の「増補」があり、「宇宙(開発)」と「電算(コンピュータ)」というジャンル区分が追加されているのが時代を思わせますが、中身を見ると少し笑える箇所もあります。

 例えば、ハプニングは、「(英)happening 突発事件.突発事態.〔(中略)アングラ族ヒッピー族の好んでやるショー.新宿地下道での焚火とか、異様な風態での街頭行進とか、金をかけないで開放感が味わえる人目を引く行動〕」とあり、

 次のハプニング・ショーは、「〔テレビ〕木島則夫が担当した1970年の予測できないプログラムだが、結局野次馬のため大混乱に終わった」と。

 その少し下に出てくるパルサーは、「(英)pulser 〔天文〕脈動電波星.〔1967年に発見された天体で、コギツネ座の方向から正確な間隔の電波を送るので、発見当時宇宙人からの通信かと大騒ぎした〕」

 次のパルスは、「(英)pulse〔電算〕脈を打つように瞬間的に流れる電流で、電算機の内部で超高速で走り廻って演算を行う」となっています("走り廻って"というのがいい)。

 1列だけ見てもこれだけ面白い。編者自らの理解の範囲で、自らの言葉で一生懸命書いている感じで、新しいものを取り込もうとする意欲は感じられるけれども、新しい言葉(とりわけ外来語)を追っかけるのは、当時から大変だったみたいで、図らずして、'60年代後半の世相が垣間見える「増補」となっています。

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