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この国の実態への関心の喚起を促す。その後のアフガニスタンは...。
『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』〔'01年〕
イランの作家であり映画「カンダハール(Kandahar)」('01年)の監督でもある著者(息子サミラ、娘ハナも映画監督)が'01年に発表したもので、当時のタリバン政権下のアフガニスタンの絶望的な国情を淡々と伝えるとともに、世界に向け、この国の置かれた厳しい状況、過酷な実態への関心の喚起を促しています。
Mohsen Makhmalbaf/Hana Makhmalbaf
娘ハナ・マフマルバフは「ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた(Buddha Collapsed Out of Shame)」('07年)というストーリー物の映画を撮っていますが(まだ19歳だが実力ありそう)、本書の内容は巨視的なレポートに近いものです。
アフガニスタンには2000万人の飢えた国民がいて、この20〜30年間で人口の10%が殺されたり飢餓により死に、国民の30%は飢餓や政情不安のため難民になっているとのこと(難民の数は、パレスチナの全人口に匹敵するという)。
アフガニスタンの主たる産業はなんと麻薬産業であり、世界のヘロインの80%はアフガニスタンで生産されているが、その他には目立った産業も無く、イラクなど中東諸国のような産油国でもなく、従って、ソ連のアフガン撤退後は、パキスタンの傀儡であるタリバン政権に対してアメリカなども干渉してこない、つまり、国が貧しすぎて、経済的動機が働かないということなのだなあと。
ところが、日本で本書の翻訳が行われている最中に、この国は一気に世界の注目を集めることになる―。アルカイーダがニューヨークなどで「9.11」同時多発テロが起こし、訳者が後書きを書いている頃にはアメリカが報復としてアフガンに侵攻、本書が書店に並ぶ頃には、カブールが陥落し、タリバン政権は崩壊するという事態に。
本書によれば、当時アフガニスタンは飢饉により更に100万人が餓死寸前の危機にあり、訳者は、米軍の空爆により、それが現実のものとなるのではと危惧しています。
新政府発足後も、タリバンの反攻などにより国内の混乱は続き、軍閥が資金調達目的でケシ栽培を進めるため、麻薬産業がGDPの半分を占めるまでになっているという報告もあります。
本書からは、諸外国の介入に対する期待感も感じられるのですが、望んでいたのは人道的介入であったはずで、現状、タリバンが政権を掌握していた時以上の"麻薬生産国"になってしまっているとすれば、それは著者にとっても誤算ではなかっただろうかと。
尚、本書のタイトルについては、あまりに詩的であり、バーミヤンの仏像破壊はタリバンによるイスラム諸国へのアピールの所為であるのに(回教は偶像崇拝を禁じる)、その責任を韜晦するものだという批判もありますが、この行為によりタリバンが仏教国のみならず回教国からも非難されることになったことはよく知られていることであり、個人的には、アフガニスタンに対する人道支援の為されていないことを訴える意味で効果的なタイトルだと思いました。
本書では、仏像の破壊を世界中の人が嘆くのに、ひどい飢饉によって死んだ100万人のアフガン人に対しては、誰も悲しみを表明しないことを問題としているのです。
Hana's "Buddha Collapsed out of Shame"
《読書MEMO》
「私はヘラートの町のはずれで、二万人もの男女や子どもが飢えで死んでいくのを目のあたりにした。彼らはもはや歩く気力もなく、皆が地面に倒れて、ただ死を待つだけだった。この大量死の原因は、アフガニスタンの最近の旱魃である。同じ日に、国連の難民高等弁務官である日本人女性もこの二万人のもとを訪れ、世界は彼らのために手を尽くすと約束した。三ヵ月後、イランのラジオで、この国連難民高等弁務官の女性が、アフガニスタン中で餓死に直面している人々の数は100万人だと言うのを私は聞いた。
ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に達した。仏像は、恥辱の為に崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人びとに対し世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ。」(26-27p)