【710】 ◎ 髙谷 知佐子 『M&Aの労務ガイドブック (2007/04 中央経済社) ★★★★☆

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M&Aにおける労務デュー・デリジェンスの参考書として使える。

M&Aの労務ガイドブック.jpgM&Aの労務ガイドブック』(2007/04 中央経済社)  高谷知佐子.jpg 髙谷知佐子 氏(弁護士)

 本書前書きにもあるように、M&A成功のキーポイントは「人」をめぐる法律問題であるにも関わらず、その「人」がクローズアップされる場面は意外と少なく、デュー・デリジェンスでも労務コンサルタントは最後の方でやっと声がかかったりすることが多いのが現状です。

 本書は、会社の財産である「人=社員」にスポットを当て、M&Aにおいてどのような「人」に関する問題が生じるのかという観点から論点を整理し解説したものということで、最近問題になることが多いM&Aの際の企業年金の再編についても言及されています。

 デュー・デリジェンスでどういったことが調査対象となるのかが詳しくあげられているので、デュー・デリを受ける側にとっては良い参考書として使えると思います。
 一方、雇用・労働条件のリストラクチャリングに付随する法的問題を、判例をわかりやすく整理して解説してもいるので、M&Aの仕事をしていて金融・不動産や知的所有権などにはめっぽう強いが、労働法は少し苦手という弁護士さんにも読んでもらいたい気がします。

 M&Aには合併、事業譲渡(旧商法では営業譲渡と言っていた)、会社分割などの類型がありますが、本書の判例のとりまとめ部分で、不利益変更、整理解雇などと並んで、事業譲渡に関する判例が多くあげられています。
 これは、事業譲渡の場合、合併や会社分割などと異なり、労働者の権利義務が自動承継とならず契約上の規定によって定まるからであり(ゆえにリストラを巡るトラブルが多い)、こうした考えは米国からきているのでしょう。

 欧州の国々には、事業譲渡に関しても一応は全労働者を承継しなければならないこととなっている国もあり、グローバル企業などとのM&Aの場合、相手国の法律も調べておいた方いいかも。
 結局、日本法人同士の話なので、日本の法に従うことになるはずですが、前提としてイメージしているものが随分違ったりします(就業規則に対する考え方などについてもそうですが)。
 また、最近はわが国における事業譲渡においても、必然性の薄い従業員解雇は、認められなくなってきているようです。

 本書は1法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に所属する弁護士10名の共同執筆で、編者の高谷知佐子氏は、'05年の「日経ビジネス」の「弁護士ランキング労務・人事部門」で第4位にランクインしている労働契約法や解雇問題のエキスパートです。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年7月15日 23:37.

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