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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「繋がれた明日」)
前科者の社会復帰の難しさ。「保護司」が立派なカウンセラーに思えた。
『繋がれた明日』('03年/朝日新聞社) 『繋がれた明日 (朝日文庫)』〔'06年〕
19歳のときに、恋人にちょっかいを出した男をはずみで殺してしまい、殺人罪で5年から7年の刑に処せられた主人公は、刑期満了前に仮釈放となりますが、その後、勤務先や自宅アパートに「この男は人殺し」と書かれた中傷ビラをばら撒かれる―。
ビラを撒いたのは誰かというミステリーの要素はありますが、一度罪を犯した者はたとえ刑期を終えても、一般社会からは許されることがないのかという、かなり重い「社会問題」に取り組んだ作品だと思いました(本のキャッチにある「罪と罰」という漠たる抽象問題というよりも)。
社会の偏見に苦しめられ、また加害者の関係者や自らの家族からも責められるなか、気持ちの整理がつかないまま、時に短絡的な行動に出そうになる主人公ですが、味方になってくれる人もいて、全体に暗い物語のなかで、その部分だけやや救われた気持ちになります。
しかし、やはりこうした排他的な日本の社会では、社会復帰を促す「保護司」という専門的な仕事が重要であることを感じました。
この物語の「保護司」が立派なカウンセラーに思え、「保護司」ってこんな素晴らしい人ばかりなのだろうか、主人公はかなり「保護司」に恵まれた方ではないかとも、ちょっぴり思ったりもしました(それにしても、たいへんな仕事だなあと思う)。
ミステリー的要素を抑えた分、人物描写等が深いかというと必ずしもそうではなく、ドラマ臭い"セリフ"が多く、会話も展開もやや冗長だし、主人公の妹が兄のために結婚をフイにしたという話などもお決まりのパターンのように思えましした。
主人公は人間的に少しずつ成長しているのだろうけれど、ラストでアクシデント的にそのことが示されるというのも、後味が今ひとつでした。
一方、被害者家族の側にはややエキセントリックな人物を配していて、あまり被害者側に立っていないのではという見方も成り立ちますが、それはそれで、あまり被害者側に立ちすぎると別の物語になってしまうところが、このテーマの難しさではないでしょうか。
'06年にNHKでドラマ化されましたが、確かにドラマ化はしやすいと思います。但し、TV番組としてはかなり暗い話の部類になったかも(こうした暗い話をストレートにドラマ化するのが、ある意味NHKのいいところなのだが)。主人公を演じた青木崇高は、新人の割には良かったように思います(保護司役は杉浦直樹が好演)。
「繋がれた明日」●演出:榎戸崇泰/一色隆嗣●制作:岩谷可奈子/内藤愼介●脚本:森岡利行●音楽:丸山和範●原作:真保裕一「繫がれた明日」●出演:青木崇高/杉浦直樹/尾上寛之/馬渕英俚可/藤真利子/吉野紗香/銀粉蝶/桐谷健太/佐藤仁美/渡辺哲/弓削智久●放映:2006/03(全4回)●放送局:NHK
【2006年文庫化[朝日文庫]/2008年再文庫化[新潮文庫]】