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ギリシャの鄙びた島々での暮らし、人々と触れ合いが楽しい。
『遠い太鼓』〔'90年〕『遠い太鼓 (講談社文庫)』〔'93年〕
村上春樹が37歳から40歳までの3年間を、イタリア、ギリシャの各所で過ごした際の旅行滞在記で、時期的にはちょうど『ノルウェイの森』('87年/講談社)などを書いていた頃と重なります。
著者のエッセイの中で、個人的には特に良いと思った作品です。この旅行記における自らの立場を、観光的旅行者でも恒久的生活者でもなく、「常駐的旅行者」だったとしています。イタリア、ギリシャの各所を旅してそこで暮らすことで、当然様々な不便やトラブルに遭遇するわけですが、それらと向き合い対処していく様には、求道者的な姿勢さえ感じます。
しかし全体としては軽妙な"ハルキ調"が随所に見られ、「地球の歩き方」の上級編、ユーモア版のようにも読めてしまうのです。とりわけ、ギリシャの鄙びた島々での暮らしや人々との著者なりの触れ合いなどが読んでいて楽しかったです。クレタの"酒盛りバス"の話とかは、結構、と言うかムチャクチャ笑えました。一見気儘に書いているように見えて、それらが巧まずして(或いは"巧みに")地に足の着いた異文化論にもなっています。
作家が海外で暮らすということはそれなりに理由があるはずですが、著者はあえて「ある日突然、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。それは旅に出る理由としては理想的であるように僕には思える」としています。このあたりに、著者のスタイルを感じました。
【1993年文庫化[講談社文庫]】