【437】 ○ 高杉 良 『生命(いのち)燃ゆ』 (1983/01 日本経済新聞社) ★★★★ (○ 高杉 良 『燃ゆるとき』 (1990/12 実業之日本社) ★★★★/△ 細野 辰興 (原作:高杉 良) 「燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY」  (2006/02 東映) ★★★)

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緻密な取材とテンポ良く読ませる文体。ある意味"戦死者"への鎮魂歌『生命燃ゆ』。

生命燃ゆ.jpg  生命燃ゆ (新潮文庫).jpg いのちの風.jpg 燃ゆるとき 新潮文庫.jpg 燃ゆるとき.jpg 燃ゆるとき 2006 dvd.jpg
生命(いのち)燃ゆ(集英社文庫)』['90年]『生命燃ゆ (新潮文庫)』['93年]『いのちの風-小説・日本生命 (集英社文庫)』['87年] 『燃ゆるとき (新潮文庫)』['93年]『燃ゆるとき (角川文庫)』['05年] 映画「燃ゆるとき [DVD]

 著者の企業小説のうち、理想に燃えて高い指導力を発揮し業務を遂行するタイプの主人公を描いた作品には、『生命燃ゆ』('83年)、『いのちの風』('85年)、『燃ゆるとき』('90年)と何となく似たタイトルのものがあるのですが、順に石油化学、生保、水産加工の各業界が舞台で、それぞれ『生命燃ゆ』が昭和電工の課長、『いのちの風』が日本生命の部長(弘世源太郎、後に常務)、『燃ゆるとき』が東洋水産の社長(森和夫)がモデルとなっています。 

 ただし、『いのちの風』の主人公である日本生命の部長は社長の息子でもあり、純粋に名も無き一ビジネスマンを描いたのは、世界初のコンピュータ制御の石油コンビナート建造に体を張って奮迅し、最後は糖尿病に白血病を併発して亡くなった垣下怜(さとし)という人をモデルにしたこの作品『生命燃ゆ』です。

 著者が石油業界の業界紙の出身ということもあり、緻密な取材の跡が窺えますが、それでいて会話部分が多く、テンポ良く読ませる佳作です。1人の技術者であり中間管理職である男性の、自らの仕事に賭ける情熱にうたれますが、単なるモーレツというのではなく、会社に対して言うべきは言い、自分の手柄を誇ることもなく、自発的な勉強会などで部下を育成するなど、優れた人間性を感じます。高度成長期の話と思われがちですが、オイルショック直後の、必ずしも業界にとって順風が吹いていたとは言えない時期の話です。それでも、ここまで仕事に打ち込めたビジネスマンというのは、仕事と生きがいが一致した幸せなケースではないかとも思えます。

 例えば今日的視点で見れば、視力が衰えるまでに糖尿病が進行しても、「自分がいなければ」という本人の熱意に押されて仕事から外せない会社側の対応に問題はなかったか、という見方もあるし、そもそも価値観や生き方が多様化するなかで、主人公をあまり美化するのはどうかという意見もあるでしょう。そのように考えると、日本産業の発展の下支えとして、かつてはこうした人の活躍と死もあったのだという、"戦死者"に対する鎮魂歌のような意味合いをこの作品に覚えます。

『燃ゆるとき』.jpg 因みに『燃ゆるとき』は、東洋水産の"社長"が主人公の物語ではありますが、これも"創業社長"の話であるため面白く読め、昭和28年、築地市場の片隈の6坪のバラックで水産会社を興した森和夫氏が、机4つ、電話2台、従業員5名というスタートから、大手商社の横暴に耐え、米国進出、特許係争といった多くの難問と格闘しつつ、40年の間に自らの会社を、資本金175億円、従業員2000名の一部上場企業に育て上げるまでが描かれています。

 "特許係争"というのは、日清のカップヌードルとのそれです。ビジネス小説としてはオーソドックスなパターンですが、こうした身近な話題も織り込まれている実名小説であるためシズル感があって、加えて、森氏の大らかな人柄と溢れんばかりのバイタリティは魅力的であり、こちらもお奨めです。映画化もされていますが、続編の会社がアメリカに進出した際の奮闘を描いた『ザ エクセレント カンパニー』を主に原作としていて(会社名は『ザ エクセレント カンパニー』で「東洋水産」→「東邦水産」に改変され、さらに映画では「東輝水産」となっている)、企業小説の映画化作品としてはまずまずですが、脇役陣が手堅い割には主人公の若手営業マンを演じた中井貴一がイマイチで浮いていた感じだったでしょうか。

映画「燃ゆるとき」(2006年)
映画「燃ゆるとき」(2006年)2.jpg燃ゆるとき 映画.jpg「燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY」制作年:2006年●監督:細野辰興●脚本: 鈴木智●撮影:鈴木達夫●音楽:川崎真弘●原作:高杉良『燃ゆるとき』『ザ エクセレント カンパニー/新・燃ゆるとき』●時間:114分●出演:中井貴一/大塚寧々/長谷川初範/中村育二/津川雅彦/伊武雅刀/鹿賀丈史/木下ほうか/奈良橋陽子/矢島健一●公開:2006/02●配給:東映(評価:★★★)

 『生命燃ゆ』...【1986年文庫化[角川文庫]/1990年再文庫化[集英社文庫]/1993年再文庫化・1998年改訂[新潮文庫]/2010年再文庫化[徳間文庫]】
 『燃ゆるとき』...【1993年文庫化[新潮文庫]/1999年再文庫化[講談社文庫]/2005年再文庫化[角川文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 00:00.

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