【237】 ◎ 藤原 新也 『全東洋街道 (1981/07 集英社) ★★★★★

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今自分が生きている人生や世界について考えさせられる旅記録。トルコ、チベットが特に印象的。

全東洋街道 写真集.jpg 全東洋街道 上.jpg 全東洋街道 下.jpg    月刊PB1980年10月号.jpg月間PLAYBOY.jpg月刊PLAYBOY2.jpg
単行本 ['81年/集英社]/『全東洋街道 上 (1)  (2) (集英社文庫)』 〔'82年〕/「月刊PLAYBOY」'80年7月号・9月号・10月号
全東洋街道00.jpg藤原新也.jpg 写真家・藤原新也氏によるトルコ・イスタンブールからインド、チベットを経由して東南アジアに渡り、香港、上海を経て最後に日本・高野山で終る約400日の旅の記録で、「月刊PLAYBOY」の創刊5周年企画として1980年7月号から1981年6月号まで12回にわたって連載されたものがオリジナルですが、藤原氏の一方的な意見が通り実行された企画だそうで、そのせいか写真も文章もいいです。(1982(昭和57)年・第23回「毎日芸術賞」受賞)

全東洋街道1.jpg 旅の記録というものを通して、今自分が生きている世界や人生とはどういったものであるのか、その普遍性や特殊性(例えば日本という国で生活しているということ)を、また違った視点から考えさせられます。

 アジアと一口に言っても実に多様な文化と価値観が存在し、我々の生活や常識がその一部分のものでしかないこと、そして我々は日常において敢えてそのことを意識しないようにし、世界は均質であるという幻想の中で生きているのかも知れないと思いました。
 そうやって麻痺させられた認識の前にこうした写真集を見せられると、それは何かイリュージョンのような怪しい輝きを放って見えます。
 しかしそれは、例えばトルコの脂っぽい羊料理やチベットの修行僧の土くれのような食事についての写真や記述により、この世に現にあるものとして我々に迫り、もしかしたら我々の生活の方がイリュージョンではないかという不安をかきたてます。

帯付き単行本 ['81年]

全東洋街道01.jpg そうした非日常的"な感覚にどっぷり浸ることができるという意味では、東南アジアとかはともかく、トルコやチベットなど今後なかなか行けそうもないような地域の写真が、自分には特に興味深く印象に残りました。
 
 著者は帰国後、雑誌「フライデー」に「東京漂流」の連載をスタートしますが、インドで犬が人の死体を喰っている写真をサントリーの広告タイアップ頁に載せて連載を降ろされてしまいます(その内容は、東京漂流』(情報センター出版局/'83年、朝日文芸文庫/'95年)で見ることができる)。

東京漂流.jpg乳の海.jpg 同じ'80年代の著書『乳の海』('84年/情報センター出版局、'95年/朝日文芸文庫)で、日本的管理社会の中で自我喪失に陥った若者が自己回復の荒療治としてカルト宗教に走ることを予言的に示していた著者は、バブルの時代においても醒めていた数少ない文化人の1人だったかも知れません。

 【1981年単行本[集英社]/1982年文庫化[集英社文庫(上・下)]】

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