【207】 ○ 河合 隼雄 『働きざかりの心理学 (1981/07 PHP研究所) ★★★★

「●心理学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【208】 宮城 音弥 『タバコ―愛煙・嫌煙
「●か 河合 隼雄」の インデックッスへ

テーマは「中年の危機」。でも幅広い世代に対しての示唆に富む。

働きざかりの心理学 PHP文庫.jpg働きざかりの心理学 (PHP文庫)』['84年]働きざかりの心理学.jpg 『働きざかりの心理学』 新潮文庫

JR Shinbashi Station.jpg 働きざかりのミドルが家庭や社会の中で遭遇する様々な課題を心理学的に考察し、わかりやすく解説した本で、中心となるテーマは「中年の危機」。しかし、幅広い世代に対しての示唆に富む本だと思います。40歳から50歳の間に"思秋期"が来るという本書の考えのベースになっているのは、ユングの「人生の正午」という概念です。日常生活の人と人の繋がりにおける諸事象から、より根源的な心理学のテーマを抽出する著者の眼力は、この頃からすごかったのだなあと、改めて感じました(単行本は1981年刊)。 者論における、「場の倫理」に対する「個の倫理」という切り口などが、個人的にはとりわけ秀逸だと思えました。

働きざかりの心理学 PHP文庫.jpg また、主に年長者が重視するという「場の倫理」にも、微妙な側面があることを指摘しています。「場の倫理」というのは、日本は欧米に比べ企業などで特に強く働くのでしょうが(企業のトップなどは、それなりに年齢のいった人が多いということもある)、「場に対する忠誠心は、その場においては満場一致の絶対性を要求しながら、場が変わったときには態度の変更のあり得ることを認めるというのは不思議だ」と著者は述べています。確かに日本の場合、「決議は百パーセントは人を拘束せず」(山本七平)というのは、企業でよくあることではないかという気がしました。役員会での決定事項が簡単に覆ったりするのは、会議の後でそれぞれのメンバーはまた別の「場」へいくと、そちらの「場」の平衡を保つことがより重要事項となる―そこで役員会ともう1つの「場」との調整が再度図られるということなのでしょうか(自分の見た例だと、連日にわたり"最終決定"役員会を開いていた会社があった)。

 アニマ(男性の深層に存在する女性像)とアニムス(女性の深層に存在する男性像)というユングの提唱したやや難解な概念についても、平易に述べています(個人的には、アニマ/アニムスという考えは、ユング個人に思考特性の色が濃い概念であり、どこまで普遍化できるか疑問を感じていますが)。著者が言うには、女性の場合、中年になって初めてアニムスが働きはじめることもあり、それは夫ではなく子供に投影され猛烈な教育ママとなることがある―、とか。河合氏は今はソフトなイメージがありますが、結構、この頃の河合さんは言い方がシビアです。

 【1984年文庫化[PHP文庫]/1995年再文庫化[新潮文庫]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1