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青春の只中にいる人間の、強く生きようとする意志が伝わってくる気がした。
『きみの鳥はうたえる (河出文庫) 』「草の響き[DVD]」東出昌大/奈緒/大東駿介
印刷所で働く青年「彼」は、ある日自律神経失調症と診断され、精神科医の勧めで毎晩のランニングを始める。仕事を休み、毎日同じ場所を黙々と走り続ける男。そんな中、プールで「太い健康な声」の持ち主の高校教師の研二と知り合い、さらに青年のジョギングに暴走族のリーダー格の青年「ノッポ」が並走するようになる―。
自死した函館出身の作家・佐藤泰志(1949-1990/享年41)の初期作品で、雑誌「文藝」の1979(昭和54)年7月号に発表されたもの。単行本及び文庫本併録の「きみの鳥はうたえる」よりさらに2年前の作品になります。「きみの鳥はうたえる」は文庫で160ページほどですが、こちらは60ページほどの中編となります。
年譜によると、作者は、1977年、28歳の時に自律神経失調症の診断を受け、以後、その死までずっと精神安定剤を服用していたとのこと。また、療法としてのエアロビクスやランニングを始め、1日10キロ以上走ったとのことです。また、この2年前に印刷所に勤め、ランニングを始めて数か月後にには物語の主人公と同様に大学生協に調理員として勤め始めているので、自分の経験が作品のベースとしてかなりあると思われます。
主人公は、「どうしてあんなにも心はひ弱いのか」と嘆く一方で、ストイックなまでに走り続けますが、走ることそのものの理由については作中でそれほど説明されているわけでもなく、その辺りが却っていいように思いました(そう言えば「きみの鳥はうたえる」でも "敢えて"かどうか分からないが、自分の恋人を友人に譲る主人公の心情を説明していなかった)。
文庫解説の井坂洋子氏も述べているように、主人公は、やりたいようにやるだけと言いながら、「目的」のようなもの、手応えのようなものをどこかで求めているのかもしれません。青春の只中にいる人間の、強く生きようとする意志が伝わってくる気がしました。
一時期、全作品が絶版となっていた作者ですが、『海炭市叙景』('91年)が函館にあるミニシアター「シネマアイリス」支配人の菅原和博氏が映画化を実現したのを契機に、その後「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」「きみの鳥はうたえる」と映画化され、この「草の響き」も、作者の没後30周年に当たる2020年に映画製作が発表され、同年11月にクランクインし、全編函館ロケで撮影が行われ、昨年['21年]10月に公開されています(5度目の映画化って結構スゴイことではないか)。
「草の響き」●制作年:2021年●監督:斎藤久志●製作:菅原和博/鈴木ゆたか●脚本:加瀬仁美●撮影:石井勲●音楽:佐藤洋介●原作:佐藤泰志●時間:116分●出演:東出昌大/奈緒/大東駿介/Kaya/林裕太/三根有葵/利重剛/クノ真季子/室井滋●公開:2021/10●配給:コピアポア・フィルム+函館シネマアイリス(評価:)
【2011年文庫化[河出文庫]】