「●動物学・古生物学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2854】 今泉 忠明 『ざんねんないきもの事典』
深海生物の魅力を多くの人に知ってほしいという著者の熱い思いが伝わってくる本。
石垣幸二氏 沼津深海水族館
『深海生物 捕った、育てた、判った!: "世界唯一の深海水族館"館長が初めて明かす (小学館101ビジュアル新書)』
版元による本書の紹介文によれば、「著者の石垣幸二さんは、世界にも類のない深海水族館『沼津港深海水族館』の館長であり、一方で、世界中の水族館や研究施設からの依頼で希少な海洋生物を納入している"海の手配師"としても活躍しています。自分で捕獲し、飼育・観察し、水族館での展示の工夫まで考えているのです。本書では、その石垣さんが実際に捕獲し、観察しているからこそ判った深海生物の不思議な生態や、飼育・展示の苦労話などを余すところなく語り尽くします。深海生物のカラー写真もたくさん掲載しました」とのとです。
3章構成の第1章「知れば知るほどおもしろい深海生物の魅力」は、その深海生物の紹介ですが、著者らが捕ったり生育したりした中で判ったことや苦労したことなども交えて書かれていて、シズル感がありました。それと、版元の紹介文にもある通り、写真が豊富で、取り上げた深海生物のほぼ全てに(よそから借りてきたものも含め)写真があり、これはやはりその生き物を知る上で大きいと思いました。
深海水族館のある沼津市が面している駿河湾というのは、すぐ近くに水深200メートルの漁場もあれば水深600メートルの深海もあるという、世界でもここしかないという場所なのだなあ。それぞれの深海生物の解説も興味深く、提灯アンコウのオスはメスに噛みついて、最後はメスの体の一部となってしまうとか、海綿の1種でカイロウドウケツというメッシュ状に編まれた駕籠のような生き物は、その中にドウケツエビの幼体が入り込んで最後、雌雄1ペアだけが残って成長して出られなくなり、そのままその中で一生を送るとか...(カイロウドウケツが"偕老同穴"なのではなくてドウケツエビが"偕老同穴"なのだなあ)。
第2章「『海の手配師』」は忙しい」は、著者が、日本大学国際関係学部卒業後、一般企業で営業マンとして活躍するも、少年時代に親しんだ海への想いを捨てきれず、潜水士として水産会社に転職し、2000年に海洋生物の生体供給会社「ブルーコーナー」を設立、"海の手配師"として世界各国の水族館、博物館、大学に海洋生物を納入し、2004年の横浜中華街「よしもとおもしろ水族館」(現ヨコハマおもしろ水族館)オープンに参画、2011年に「沼津港深海水族館」の館長になるまでを綴っており、これも版元の紹介文を引用させてもらうと、「漁の際に船を出してくれる漁師さんたちとの付き合い方、世界一のサプライヤー(生体供給業者)を目指すきっかけになった人との出会い、採算を度外視してでも誠実に仕事をして信頼を得る、捕ることよりも実は搬送のほうが難しい...深海ビジネスを初めて成功させた男といわれる石垣さんの仕事への真摯な取り組み方は、ビジネス書としても一読の価値があります」とあって、まさにその通りだと思った次第です。読んで爽やかな印象が残る章でした。
巻末付録的な第3部「読む深海生物図鑑」も、点数を絞り込んで、その生態を詳しく解説しており、全体を通して、深海生物の魅力を多くの人に知ってほしいという著者の熱い思いが伝わってくる本でした。「捕った、育った、判った!」の「!」に誇張は感じられず、お薦めです。