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初任者・職場管理者だけでなく、これまで人事労務の仕事に携わってきた担当者にとっても得られるものがある。
髙谷知佐子 氏(弁護士)
『初任者・職場管理者のための職場トラブル解決の本 (労政時報選書)』(2011/06 労務行政)
職場におけるトラブルの種類は元から多岐にわたり、また近年は一層に複雑化している傾向がありますが、本書では、前半部分で、特に最近よく問題となる職場トラブルについて、解決のために必要な基本的な知識や考え方を説明し、後半部分では、著者が実務でよく聞かれるQ&Aを通じて、実際の職場のトラブル解決のヒントを提供しています。
前半部分の解説は、「労働時間のマネジメント」「指揮命令と(パワー)ハラスメント・メンタルヘルス」「教育・社内外の活動、組合活動に関するトラブル」「情報のマネジメント」「退職に関するトラブル」という章立て(テーマ区分)になっており、サービス残業問題やパワハラ問題など、近年とりわけ多発傾向にある職場トラブルのタイプに応じた括りになっています。
後半部分のQ&Aも、前半のテーマ区分に沿ってグループ化されていて、全体で42あるQ&Aの内、例えば、様々なタイプのトラブルケースがみられる「指揮命令・ハラスメント・メンタルヘルス」については、多い目に問いを設けて解説しています。そのため、入門書とはいえ、テーマや事案ごとにみるとかなり突っ込んだ解説となっているように思いました。
全体を通して「法律先ずありき」ではなく、複雑多様化するそうした個々のトラブル例からスタートし、法律上はどのような扱いになるのか、過去の裁判例ではどのように判示されているのかを解説し、最善と思われる問題の解決策を示すとともに、同種または類似した問題の発生を防ぐにはどうしたらよいか、トラブル解決以降も良好な労使関係を維持していくにはどうしたらよいのか、といった視点も織り込まれているため、トータルでの実務的な解説となっているように思えます。
こうした解説スタイルからも、著者が労務問題の現場に深く関わっている弁護士であることが窺えますが、加えて、職場トラブルへの対応をその場限りの「対処療法」で済まさず、問題の根本を見据え、担当者の意識改革も含めた抜本的な職場改善に繋げていくことが大事であるとの視点を、改めて示唆しているように思いました。
企業内で職場トラブルに対処しなければならない担当者となった人を対象とし、初任者・職場管理者のためにわかりやすく解説することに留意されているようですが、最近のトラブル傾向に沿って書かれているため、初任者や職場管理者だけでなく、これまで人事労務の仕事に携わってきた人が読んでも、今後に向けて得られるものは充分あるように思いました。
個人的には、とりわけ「ハラスメント」に関する問題の解説部分に、そのことを感じました。セクシャルハラスメントの判例法理がほぼ確立されてきたのに対し、パワーハラスメントの判例法理の形成は"現在進行形"であるように思われます。実際には、パワハラにせよセクハラにせよ、判断の難しいケースが少なからずあるかと思われますが、著者は敢えてそうした事例を取り上げ、所々に著者なりの見解も織り込みながら、それらについてきめ細かい解説をしています。
表記が分かり易いばかりでなく、テーマを絞っているために通読可能なボリュームでもあり、忙しい職場管理者にもお薦めですが、社会保険労務士、人事コンサルタントにもお薦めです。
ヒューマン21 EC-Net 第23回研究会
「職場トラブルへの対応実務ー最新判例を中心にー」
日 時:2012年2月25日(土) 10:00-17:00
講 師:高谷 知佐子弁護士(森・濱田松本法律事務所)
開催場所:日本青年館ホテル「504」会議室(新宿区霞ヶ丘町)