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戦国時代の「他人のために自分の身をかえりみない者」列伝(ヤクザの話ではない)。
『中国任侠伝 (1973年)』/『中国任侠伝〈続〉 (1973年)』/『中国任侠伝〔正〕』 ['75年文春文庫] /2005年 徳間文庫版
「任侠」とはヤクザのことではなく「他人のために自分の身をかえりみない者」のことで、著者は中国における"ますらおぶり"を描きたかったとのこと。「荊軻、一片の心」「孟嘗君の客」「虎符を盗んで」「首がとぶ」「季布の一諾」「おれは幸運児」「いざ男の時代」「似てくる男」の8篇を収めています。
「荊軻(けいか)、一片の心」は、秦王(始皇帝)暗殺を試みた〈荊軻〉の話ですが、中国で「刺客」と言えば彼・荊軻のことを言うぐらいで、その結末がわかっているだけに切ないこの故事です。荊軻の話は、陳凱歌 (チェン・カイコー)監督の映画「始皇帝暗殺」('98年/中国・日・仏・米)の題材にもなっていますが、史実を一応は追っているものの、ストーリーはややメロドラマ調。更には、始皇帝の刺客に材を得たという点では、張藝謀(チャン・イーモウ)監督の「HERO」('02年/香港・中国)もそうですが、こちらは完全に架空のストーリーから成る娯楽映画です(何れにせよ、中国映画の2大巨匠と言われる両監督が共に「秦王暗殺」をテーマに作品を撮っているのは興味深い)。
●陳凱歌 (チェン・カイコー)監督('98年)「始皇帝暗殺 [DVD]」出演:鞏俐(コン・リー)/張豊毅(チャン・フォンイー)/李雪健(リー・シュエチエン)/孫周(スン・チョウ)
●張藝謀(チャン・イーモウ)監督('02年)「英雄 ~HERO~ [DVD]」出演:李連杰(ジェット・リー)/梁朝偉(トニー・レオン)/張曼玉(マギー・チャン)/章子怡(チャン・ツィイー)
「孟嘗君の客」は、食客三千と言われた斉の〈孟嘗君〉もさることながら、侠の心はむしろ質の高い個々の食客にあったのだなあと。
「虎符を盗んで」は、魏の〈信陵君〉にまつわる話ですが、任侠が男性の専売特許ではないことを教えてくれ、門前で碁を打っていた候じいさん(候生)もいい。
「首がとぶ」や「季布の一諾」は小説として読んでも面白い話で、後者では「季布の一諾」の評判を広めた〈曹丘〉も、命こそかけてはいないが侠の人に当るかも。
「おれは幸運児」の〈郭解〉が自らの思い違いによる自信で大侠になったとすれば、同じく「史記・遊侠列伝」の有名人〈田仲〉は、任侠の大人物・朱家(季布を救ったのも彼だった)のもとで学んだ信念の人ですが、その話「似てくる男」は、後半のオチにしみじみとした味がありました。
戦国末期から漢代にかけての話で、「戦国時代」というのは中国も日本も面白いのですが、本書にあるように、中国の「戦国時代」と日本の「戦国時代」とでは、同じ「戦国時代」でも1,870年もの間隔があるわけで(キリスト生誕から明治維新までの長さに相当)、そう考えるとやはり中国の歴史というのはスゴイなあと。
【1975年文庫化・1987年改版版[文春文庫]/2005年再文庫化[徳間文庫]】