「●し 重松 清」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3029】 重松 清 『ビタミンF』
こんなパターンに嵌まりたくないなあという気持ちにさせる要素も含んでいるのでは...。
『定年ゴジラ』(1998/03 講談社) 『定年ゴジラ (講談社文庫)』['01年]
開発から30年を経た東京郊外のニュータウンで定年を迎えた山崎さんは、ウチに自分の居場所が無くて途方に暮れる日々を送っているが、朝の散歩を通じて、"定年後"生活の先輩である町内会長や、転勤族だった野村さん、ニュータウンの開発を担当した藤田さんと知り合う―。
自分の居場所を見出そうとする"定年"男たち4人の哀歓を、著者が温かい眼差しで描いているという感じで、読後感も悪くありませんが、ちょっといい話すぎる感じも。
この4人は何れも、"勤め人"時代に一戸建てをニュータウンのこの地に入手し、そのニュータウンは、社会からドロップアウトした山崎さんの同級生が作中で言うように、"勝った者"だけが住める街だったのかも知れません。
またそれは、本人が"がんばった結果"でもあるのだろうけれども、郷里の母親を邪険に扱ったことが山崎さんのトラウマになっているように、仕事のために犠牲にしてきたものもあるのでしょう。
そして定年後も、ウチに自分の居場所は無く、山崎さんの娘は不倫をしたりしていて、そのことに対しては山崎さんは父親の威厳を示さねばならず、なかなかたいへんだなあという感じ。
ただし、人物造詣がややパターン化され過ぎていて、いつかホームドラマでみた感じというか、"戯画的"な感じがしました(実際、この作品は漫画になっている)。
個人的にこの作品で最も評価したいのは、〈ニュータウン〉も人間同様に老いるということを、人の営みや老いとの相互関係において描出している点で、ただしこうした図式になると、個々の人物描写もある程度その流れに沿った図式的なサンプルにならざるを得ないのかなという気もしました(マンション調査の学生が使った「サンプル」という言葉に怒る野村さん、というのが作中にありましたが)。
中高年男性だけでなく若い読者にも、「お父さんの気持ちが初めてわかったような気がした」と評価の高かった作品ですが、こんなパターンに嵌まりたくないなあという気持ちにさせる要素も結構含んでいるのではないかと...。そうしたこともあって、一部の中高年からは反発もあったようです。
この作品は作者初の連載小説で、直木賞候補になりましたが受賞には至らず、選考委員の渡辺淳一氏は、「老年の人物像にリアリティがない。自分が体験したことのない年代を書くことは、余程のことがないかぎり、危険である」としています(作者は36歳ぐらいでこの作品を書いている)。しかしながら、同じく選考委員の五木寛之氏が「いずれ必ず受賞して一家をなす才能だと信じている」と述べたように、作者は後に『ビタミンF』('00年/新潮社)で直木賞を受賞しています
また、この作品は、'01年にNHK-BS2にてテレビドラマ化されギャラクシー選奨を受賞しています(脚本:田渕久美子、主演:長塚京三/下:「中日新聞」1999年10月18日夕刊)。
【2001年文庫化[講談社文庫]】