【516】 ○ 村上 龍 『イン ザ・ミソスープ (1997/09 読売新聞社) ★★★★

「●む 村上 龍」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【517】 村上 龍 『共生虫
「●「読売文学賞」受賞作」の インデックッスへ

"外部者の侵入"に耐えない脆弱な日本人? サイコミステリーっぽく、一気に読ませる。

イン ザ・ミソスープ.jpg  『イン ザ・ミソスープ』 (1997/09 読売新聞社) 村上龍.png 村上 龍 氏

 1997(平成9)年度・第49回「読売文学賞」受賞作。

 外国人向けの性風俗ガイドをしている20歳のケンジは、フランクと名乗るアメリカ人の依頼で、年末の夜の新宿の街を3晩、彼にアテンドすることになるが、フランクの人工皮膚を貼ったような顔は、なぜかケンジに、歌舞伎町で売春をしていた女子高生が惨殺されゴミ処理場に捨てられたという事件を思い起こさせた―。

 歌舞伎町の風俗産業の実態がよく取材されているようですが、そうしたものはこの作品の前後にも世に腐るほどあり、この作品でむしろ引き込まれるのは、フランクの異常性がちらちらと見え隠れして恐ろしい事件の勃発を予感させる、サイコミステリーっぽい仕立てにあることは間違いないでしょう。
 事件後もフランクと一緒にいるケンジの思考や行動にもリアリティがあり、最後のフランクの独白も重いものでした。
 
 "異常者"フランクの口から、自我の曖昧な日本人やぬるま湯のような日本社会に対する"まともな"批判がなされる、そのコントラストがひとつの妙と言えると思いますが、やや彼の口から語られ過ぎの感じも。
 ケンジの思考の中にも変に"オジさん"(作者自身?)っぽいものが入っていたりし、話題になった残虐な事件場面はややスプラッタ・ムービー調であるなど、瑕疵もそれなりに多い作品だという気がしますが、全体としてはフランク個人の眼を通して、日本人というものの脆弱さ、甘え、もたれあいといった精神性を投射していることが成功していると思いました。
 ぬるま湯状況の日本社会が"外部者の侵入"に晒されたら...という仮定において、後の、『半島を出よ』('05年/幻冬舎)などにも通じるところがありますが、話を広げ過ぎないことで、こっちの方がリアリティが保てていて怖い感じ。

 この小説で個人的に一番"買う"のは、「テンポ」の良さです。
 最近の著者の小説(『半島を出よ(上・下)』('05年/幻冬舎)など)のようなインターネットから引き写した如くの経済解説や時事ネタの挿入が少なく、3晩の出来事を筆一本で一気に押していくという感じで、これは新聞連載でちびちび読むタイプの小説ではないような気がしました(この小説は読売新聞に連載されたもので、連載終盤に神戸での児童連続殺傷事件('97年5月)が起きたことでも、予言的?であると話題になりましたが)。

 【1998年文庫化[幻冬舎文庫]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 14:14.

【515】 ◎ 村上 龍 『69 (sixty nine)』 (1987/08 集英社) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【517】 △ 村上 龍 『共生虫』 (2000/03 講談社) ★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1