〔31〕 年俸制の導入に際して-導入のための条件、賃金制度上・法規上の課題と解決策

〔31〕 年俸制の導入に際して-導入のための条件、賃金制度上・法規上の課題と解決策

 
● 年俸制導入のための条件

 年俸制導入のための条件として、次のような関連制度・システムの整備が必要となります。

 ① 目標管理制度、人事評価制度、年俸額査定のルールの確立

 「目標管理制度」は年俸制導入の必須条件と言ってよいかと思います。
 経営計画から部門目標、個人目標へとブレークダウンされた具体的な業績・成果目標の設定が、運用の要になります。
 「人事評価制度」は、目標管理制度における業績・成果目標に、プロセス評価や行動評価をどこまで加味するかがポイントになりますが、成果主義の考え方から外れないことが原則です。年俸額の決定ルールは、納得性は当然必要ですが、公開し透明性のあるものにすべきです。
 良くない例は、年俸がダウンする理由が評価から明確に示せない⇒年俸ダウンができない⇒大幅なアップもできない⇒「年俸制」が動機付けとして機能しない、といったパターンです。

 ② 評価フィードバック面談、その他補完制度の整備

 評価のフィードバック面談も必須条件です。加えて、自己申告制度やその他のキャリア開発を支援する制度についても検討し、個々の能力や志向と仕事のミスマッチを最小限にとどめる機会均等の人材配置が行われるよう配慮することが必要だと思います。


● 従来の賃金制度との関係上または法規対応上の課題と解決策

 年俸制に移行する際に従来の賃金制度との関係で、あるいは法規との対応関係でいくつかのボトルネック(障壁)が生じることがありますが、その解決策と併せていくつか挙げてみます。

① 諸手当の問題

 諸手当は、単身赴任手当や通勤手当など支給することに一定の合理性のあるもの、または廃止することが極度のディスインセンティブにつながるものなどを除いては、成果主義の考えに沿うならばできるだけ年俸に組み入れ、手当項目としては廃止することを検討すべきです。

 時間外手当については、裁量労働や事業場外労働のみなし時間制であれば、見合い分を年俸に含めて構いません。みなし時間制でなくとも予め割増賃金を含めて年俸を設定することは可能ですが、年俸や月額給与のうちの時間外手当相当額を明示することや、実労働時間に基づく割増賃金の額が見合い分を超過した場合にはその差額分を支払うなどの条件が付きます。

② 賞与の問題

 賞与は、生計費の年間サイクルとの関係から、年俸の賞与配分として残した方が移行・運用はしやすいかと思います。
 その場合に、賞与額完全固定型の年俸制にすると、法規上は割増賃金の算定基礎になってしまいます。
 本来の賞与の性格を残し、賞与変動型(期首に定めるのは賞与の基準額で、実際の支給額が確定しているわけではないという考え方)の年俸制として導入した方が、法規対応上は運用しやすいと考えます。

 退職者の賞与請求権についても、判例は就業規則の支給日在籍要件の優越性を認めていますが(支給日に在籍していなければ支給義務はない)、賞与額完全固定型の年俸制の場合は、専門家の解釈が分かれています(その他に、年俸制における賞与は賞与引当金の対象にならないという税法上の課題もありますが、引当金制度自体が廃止傾向にあるので、年俸制移行時に引当をやめるという対応が考えられます)。


次項⇒〔32〕 年俸制のタイプと年俸の決定時期①-運用しやすい賞与変動型A(賞与仮決定型)


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This page contains a single entry by wada published on 2006年6月11日 00:35.

〔32〕 年俸制のタイプと年俸の決定時期①-運用しやすい賞与変動型A(賞与仮決定型) was the previous entry in this blog.

〔30〕 年俸制とは何か-その定義と日本型年俸制の特徴、導入のメリット・デメリット is the next entry in this blog.

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