◆退職一時金を分割して支払うことは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像業績の悪化により、所定の退職一時金を一時期に全額支給するだけの資金的な余裕がありません。そもそも退職一時金は、一括して支払わなければならないものなのでしょうか。それとも、分割して支給することが可能なものなのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像就業規則や退職金規程などに退職金を分割して支払う旨の定めがあれば、分割して支払うことができます。そうした定めがない場合は、就業規則(退職金規程)の内容を変更する必要があります。

 

■解説
1 退職金の支給要件の就業規則への記載と支払い時期について

労働基準法(以下「法」という)第89条第1項では、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(同項3号の2)について定めなければならないとし、退職金に関するこれらの事項を就業規則の相対的必要記載事項としています。
つまり、社員への退職金の支払いを制度化すること自体は任意ですが、制度として運用しようとするならば、①適用される社員の範囲、②退職金の額の決定・計算方法とその支払方法、③支払い時期の3つについて就業規則に記載し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
退職金も賃金の一種であるため、その「支払いの時期」は、原則として特定しておく必要があるということです。
法第23条第1項では、「労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い」、また、「労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」と定めていますが、退職金については、通達において、「通常の賃金の場合と異なり」この定めは適用されず、「あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りる」とされています。したがって、就業規則等に支払い時期が定められていれば、権利者の請求があったとしても、賃金と同じように7日以内に支払う必要はありません(ただし、就業規則や雇用契約書に支払い時期の定めがない場合には、権利者の請求があれば、7日以内に支払う必要があります)。


2 退職金の支払い時期・方法の変更

ご質問の「分割支給」は、③の支払いの時期に関するものですが、結論的には、就業規則や退職金規程などに、「退職金を分割して支給する」旨の定めをすれば、分割して支給することが可能です。ただし、退職金を分割して支給するためには、分割支給する旨を定めるだけでなく、「退職手当は、原則として退職の日から1カ月以内にその半額を、6カ月後に残りの半額を支給する」などのように、分割する回数、それぞれの支払時期等についても定めておく必要があります。
上記のとおり、退職金は通常の賃金と異なり、雇用契約上設定された期限までに支払えば法23条に反しないため、業績悪化等の理由で、所定の退職一時金を全額一括して支給することが困難な場合、社員個々との話し合いにより、分割支給したり、支給時期を後にずらしたりすることの同意をとりつけ、それを新たな雇用契約の内容とするという対応は考えられるかと思います。
しかし、そうした場合においても、労働契約法第12条で「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とされているため、就業規則に支払い時期が定められていれば、それよりも後にずらした支払い時期(分割支給を含む)についての合意は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」となり、無効となるおそれがあります。
ですから、そうした合意をした場合も、それに合わせて就業規則の規定を改定しておく必要があるといえます。


□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)、23(金品の返還)
・昭26.12.27基収5483、昭 63.3.14基発150(退職手当の支払時期)
・労働契約法12(就業規則違反の労働契約)


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◆マイカー通勤者の通勤手当には、高速道路使用料金も含めなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社ではマイカー通勤をしている社員がいますが、この度、そうした社員の一人が、「高速道路の使用料金も含めた通勤手当を支給してほしい」と言ってきました。この要求を認めなければならないのでしょうか。また、この要求に沿って高速道路使用料金を通勤手当として支給した場合、その部分に所得税は課税されるのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像高速道路の使用料金を通勤手当として支給するかどうかは任意で取り決めることができます。また、所得税法上は、マイカー通勤者の高速道路の使用が「経済的かつ合理的な経路および方法」であると認められる場合には、その使用料金を支給しても課税されないこととされています。

 

 

■解説
1 高速道路の使用料金を通勤手当として認めなければならないか

わが国では一般的には、労働者の月例給与は、基本的部分を構成する基本給と家族手当、住宅手当などの諸手当で構成されていますが、諸手当のうち労働基準法で使用者に支払いが義務づけられているのは、時間外労働、休日および深夜労働に対する割増手当(割増賃金)のみです。通勤手当は、割増手当を除くその他の手当と同様に、労使の契約次第で支給の有無や支給条件が決められるものであり、通勤手当を支給するかどうかということも含め、事業主が任意に決定することができる事柄であるということになります。
したがって、マイカー通勤者に対し通勤手当を支給するかしないか、支給する場合にどの範囲までとするかは自由に決めることができ、高速道路使用料金を通勤手当として支給するかどうかも、社員の要求に沿わなければならないというものではなく、事業主が任意に決めて差し支えありません。
ただし、いったん高速道路の使用料金を通勤手当として支給することを取り決め、就業規則(給与規程)の内容とした場合は、それは賃金として労働者に支払われるものであり、これを廃止したり、支給条件を引き下げたりすることは労働条件の不利益変更となり、相応の合理性が求められることになりますので、注意が必要です。


2 通勤手当として支払った高速道路の使用料金は課税対象となるか

所得税法では、給与所得者が通勤に必要な交通機関やマイカー等を利用するために支出した費用に充てるものとして給与に加算して受ける通勤手当のうち、「一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分」については、非課税とすることとしています。ただし、非課税限度額は月額10万円とされています。
したがって、マイカー通勤者に対し、通常の交通機関を利用した場合にかかる「交通定期代相当額」を通勤手当として支給することは、一般に行われているところです。
そこで、ご質問のケースのように、マイカー通勤者が使用する高速道路の使用料金までも通勤手当として支給する場合ですが、その部分が「一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分」となるかどうかということが、課税対象となるか非課税となるかの判断基準になります。この点について、同法施行令では、「通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路及び方法による運賃等の額」に相当する部分は、非課税とするとされています。
したがって、マイカー通勤において高速道路を利用する場合においても、高速道路の利用によって通勤時間が短縮される場合には、高速道路の利用は合理的と認められ、高速道路の使用料金を通勤手当に含めて支給しても課税されません。ただし、この場合でも、高速道路の使用料金を含めた通勤手当の額について、10万円までが非課税とされています。
ちなみに、通勤手当に支給限度額を設けるかどうかも事業主の任意で決めることができ、10万円を支給限度額とするか、それを超える額、またはそれを下回る額を支給限度額とするかは、事業主の裁量にゆだねられています。また、高速道路の使用料金のみに支給限度額を設けることも可能です。いずれにしても、就業規則にそのことの定めを記載しておくことが求められます。


□根拠法令等
・所得税法第9条第1項第5号(非課税所得)
・所得税法施行令第20条の2(非課税とされる通勤手当)




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◆就業規則に「社員の給与は年1回定期に見直す」旨の定めがある場合、給与を据え置くことは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像昇給査定の時期を迎えていますが、業績不振のため、経営上の観点から、今回は全社員の給与を据え置くことにしたいと考えています。ただし、当社の就業規則(給与規程)では、「社員の給与は年1回定期に見直す」と定められています。こうした場合でも全社員の給与を据え置くことは可能でしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像就業規則に「社員の給与は年1回定期に昇給を実施する」などとある場合は、原則として、昇給させる義務があります。しかし、ご質問のように「社員の給与は年1回定期に見直す」とだけある場合は、給与が据え置かれたりダウンしたりする可能性があらかじめ排除されているわけではないため、全社員の給与を据え置くことにする旨を社員に通知すれば、特に問題はありません。ただし、その場合でも、社員に対してその理由を説明し、充分な理解を得たうえで行うことが望ましいでしょう。

 

■解説
1 労働基準法と昇給の定め

毎年一定時期に、あらかじめ定められた基準により一定額の基本給をアップさせることを定期昇給といいます。年齢給や年齢給の場合には、査定にかかわらず誰もが一律一定の定昇が行われるわけですが(一律昇給)、職能給や職務給では、人事考課の査定結果に応じて昇給額に個人差が出るような運用が行われるのが常です(査定昇給)。これに対し、世間相場や物価水準の変動などの外部環境の変化に対応するために、基本給テーブルの書き換えによって行われるものをベースアップといいます。ベースアップは、そうした要因がなければ原則として行われません。
労働基準法(以下「法」という)には、使用者に対し定期昇給やベースアップを義務づける規定はありませんが、法第89条第2号において「昇給に関する事項」を就業規則における絶対的必要記載事項としています。


2 就業規則の定めと昇給実施義務

給与の改定は、そうした就業規則(給与規程)の定めるところによって行われなければなりませんが、では、どのような規定内容の場合に、昇給させることが義務となるのでしょうか。
例えば、「社員の給与は年1回定期に昇給を実施する」、「給与は前年度の評価に基づき、毎年4月に昇給させる」などと規定されていて、具体的な昇給基準なども定められているような場合は、毎年一定の基準に沿って昇給をする定めをしていることになりますから、今回も既定の基準に沿って昇給を行う必要があり、据え置きやダウンは就業規則違反(契約違反)となる可能性があります。
一方、ご質問にある貴社の就業規則のように、「社員の給与は年1回定期に見直す」とだけ定められていて、具体的な昇給基準などが定められていない場合は、給与を見直す際に、その額が据え置かれたりダウンしたりする可能性があらかじめ排除されているわけではないため、給与を据え置いたりダウンさせても特別な問題はありません。「業績不振のため、今回は、全社員の給与を据え置くことにする」との旨を社員に通知すればそれで足ります。ただし、その場合でも、社員に対してその理由を説明し、充分な理解を得たうえで行うことが望ましいでしょう。


3 就業規則で昇給を約している場合や就業規則がない場合の対処

会社の就業規則の定めが、最初に挙げた例のように、「社員の給与は年1回定期に昇給を実施する」などとなっている場合は、社員に対して昇給を約束していることになります。昇給させる義務が原則的にはあり、社員も昇給することへの期待を抱いていると考えられます。それにも関わらず、経営環境が極めて厳しく、社員の雇用を維持するためにはどうしても給与を据え置かざるを得ないような場合は、社員に対して昇給できない理由をより詳細に説明するとともに、今後の見通しや展望を指し示すことも必要でしょう。そうでなければ、社員の理解が得られないばかりでなく、経営側に対する不信感や仕事面でのモラール・ダウンを引き起こし、業績悪化をさらに促進する要因にもなりかねません。
就業規則を作成していない小規模事業所などで、これまで慣行的に定期の昇給を行ってきたような場合は、使用者には常に定期昇給を実施する義務があるとはといえませんが、やはり社員は昇給することへの期待を抱いていると考えられます。したがって、こうした場合においても、給与を据え置くときには、社員に充分な説明を施し、そうした施策への理解を求めることが必要でしょう。

 
□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)

□ 判例等

・長年実施してきた定期昇給を行わなかったことにつき、就業規則上具体的な昇給基準が定められておらず、毎年の団体交渉の結果、昇給内容が決まるという制度においては、団体交渉での合意ができてない以上、使用者に定期昇給を実施する義務はないとした例(平17.3.30東京高判・高見澤電機製作所事件)




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◆退職予定社員に対して賞与を減額支給することは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社の賞与規定では、賞与支給日に当所に在籍している社員に対し、事業所全体の業績や社員の勤務成績を勘案して定めた額を支給することとしていますが、この度、賞与の支給日以降数日で退職を予定している社員がいます。この者に対して、賞与の一定額を減額することを考えていますが、可能でしょうか。
また、今後、「賞与支給日から1カ月以内に退職した社員については賞与を半分とする」という定めをすることは可能でしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像賞与には、通常、社員の過去の実績に基づく支給という要素のほか、将来の貢献に対する期待に基づく支給という要素もあるため、賞与支給後の近い期日に退職が予定されている者に対して、賞与を減額して支給することは可能です。しかし、賞与のこうした性格を総合的に考慮するならば、減額の範囲は限られるものになると思われます。
その点からすると、「賞与支給日から1カ月以内に退職した社員については賞与を半分とする」という定めをすることは、対象者の被る不利益の程度が大きく、裁判例を前提とする限りむずかしいと思われます。

 

■解説
1 退職予定者の賞与の減額の合理性

賞与とは、一般に、月例賃金とは別に、使用者の業績、部門の業績、個人の業績や勤務成績などを査定のうえ、支給するものをいいます。その性格は必ずしも一義的に説明できるものではなく、それゆえに、賞与の支給額の決定方法や支給対象者は、当事者間の約定、就業規則、労働協約等での取り決めにゆだねられています。例えば、正社員のみを支給対象者とし、契約社員やパートタイマーには支給しないとしてもよく、一般には、就業規則で定める支給対象者の範囲に沿うことになります。
したがって、賞与の算定対象期間中に勤務していても、支給日に在籍しない者には支給しない旨が就業規則で定められている場合は、賞与の支給日前に退職した者や解雇された者に賞与を支給しなくても差し支えないと解されます。
ご質問にある、賞与支給日直後に退職が予定されていることという将来の事由を理由として、賞与の支給額を減額できるのかという問題ですが、この点については、賞与には、通常、社員の過去の実績に基づく支給という要素のほか、将来の期待に基づく支給という要素もあるため、賞与支給後の近い時期に退職が予定されている者に対しては、将来の貢献が期待できないことから、他の社員よりも賞与を減額して支給することは可能と考えられます。
退職予定者の賞与の減額規定の合理性が争われた裁判例があります。これは、就業規則に、「賞与の支給基準として、中途採用者の冬期賞与は基礎額の4カ月分とされるが、12月31日までに退職を予定している者については、4万円に在職月数を乗じた額とする」との定めがある会社において、基礎額の4カ月分の賞与受領後、年内に退職した者に対し、会社が返還請求をしたものです。この退職者が返還請求に応じた場合、結果として退職予定がない場合の賞与額の17%余の金額しか受給できないこととなるこの事件について、裁判所は、「退職予定がある場合など、将来に対する期待の程度の差に応じて、退職予定者と非退職予定者の賞与額に差を設けること自体は不合理ではない」としながらも、「過去の賃金とは関係のない純粋の将来に対する期待部分が、被告と同一時期に中途入社し同一の基礎額を受給していて年内に退職する予定のない者がいた場合に、その者に対する支給額のうちの82パーセント余の部分を占めるものとするのは、いかに在社期間が短い立場の者についてのこととはいえ、肯認できない」とし、「賞与制度の趣旨を阻害するものであり、無効である」と判示しています。(「ベネッセコーポレーション事件」平8.6.28 東京地裁判決)。
この判決では、退職予定者の賞与の算定にあたって、就業規則上の規定を根拠として、非退職予定者の賞与額との差を設けること自体は合理性があるとしています。これは、賞与の支給基準の決定は、当事者の私的自治にゆだねられるという考え方に基づくものです。しかし、判例にもあるように、賞与の性格を総合的に考慮するならば、減額の範囲は限られるものになると思われます。


2 退職予定者の賞与減額規定の新設の可否

ご質問にあるように、これまでなかった退職予定者の賞与減額規定を新設する場合は、就業規則の不利益変更の問題が生じ、不利益に変更することのついての合理性が求められます。
ご質問のケースで問題となるのは、退職予定者についての支給割合を「半分」にするという点です。前述の裁判例では、「労働者に対する将来の期待部分の範囲・割合については、諸事情を勘案して判断すると、賞与額の2割を減額することが相当である」としています。どのような根拠で「将来の期待に基づく支給」を「2割」としたのかなどの疑問もある裁判例ですが、「賞与支給日から1カ月以内に退職した社員については賞与を半分とする」という定めをすることは、対象者の被る不利益の程度が大きすぎるため変更に合理性が認められず、この裁判例を前提とする限りむずかしいと思われます。


□根拠法令等
・労基法12(定義)




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◆賃金と手当の締切日が異なる場合、平均賃金はどう算定するのか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社の賃金締切日(賃金支払い期間)は、前月の21日から当月の20日で、支払いを当月の25日としています。また、当月の時間外労働の締めは毎月末日とし、この分の手当は翌月払いとしています。この場合、労働基準法第12条で定める平均賃金を算定する期間として、どの3カ月をとればよいのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像労働基準法第12条でいう「算定すべき事由の発生した日以前3箇月間」とは、算定事由の発生した日は含まず、その前日からさかのぼって3カ月になります。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日からさかのぼって3カ月となりますが、賃金と手当の締切日が異なる場合は、それぞれの締切日ごとに算定します。

 

 

■解説
1 平均賃金について

平均賃金は、①解雇予告手当、②休業手当、③年次有給休暇の賃金、④業務上の災害に対する補償、⑤減給の制裁の制限額の各算定の際に使用されます。
労働基準法(以下「法」という)第12条第1項は、「平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう」としており、さらに同条第2項では、「前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する」と定めています。
ここでいう「以前3箇月間」とは、算定事由の発生した日は含まず、その前日からさかのぼって3カ月になります。ですから、賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日からさかのぼって3カ月となりますが、賃金締切日に事由発生した場合は、その前の締切日から遡及することになります。
また、この場合の「総日数」とは、労働日数ではなく暦日数ですが、次の期間がある場合は、平均賃金が不当に低額になることを避けるため、その日数および賃金額は、先の期間および賃金総額から控除します(同条第3項)。
① 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
② 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業した期間
③ 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
④ 育児休業・介護休業に関する法律に規定する育児休業または介護休業した期間
⑤ 試みの使用期間(雇入れの日より2週間)


2 賃金締切日が異なる場合の平均賃金の計算

ご質問にある賃金締切日が異なる場合の取り扱いについてですが、通達では、「賃金毎に賃金締切日が異なる場合、例えば団体業績給を除いた他の賃金は毎月15日及び月末の2回が賃金締切日で、団体業績給のみは毎月月末1回のみの場合、平均賃金算定の事由が或る月の20日に発生したとき、何れを直前の賃金締切日とするか」という問いについて、「設問の場合、直前の賃金締切日は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日である」としています。
この解釈に従ってご質問のケースを考えるならば、仮に計算事由発生日を11月30日とした場合、賃金は20日締めなので、計算対象となる期間は11月20日以前3カ月です。時間外労働手当は末日締めなので、対象期間は10月31日以前3カ月になります。各締切日別に計算した結果を合算したものが平均賃金となり、具体的には次のとおりです。

・平均賃金計算発生日:11月30日
・各賃金締切日による計算対象期間と平均賃金
① 時間外労働以外の平均賃金
 (8月21日~11月20日に支払われた時間外労働以外の賃金)÷92日(暦日数)
② 時間外労働分の平均賃金
 (8月1日~10月31日に支払われた時間外労働分の賃金)÷92日(暦日数)          
・平均賃金= ① + ②


□根拠法令等
・労基法12(定義)
・労基法20(解雇の予告)、26(休業手当)、39(年次有給休暇)、76(休業補償、77(障害補償)、79(遺族補償)、80(葬祭料)、81(打切補償)、82(分割補償)、91(制裁規定の制限)
・昭26.12.27 基収5926(賃金締切日がある場合の起算日)




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◆懲戒処分を決定するまでの自宅待機期間は無給でよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社ではこの度、社員に対する懲戒処分を実施するにあたって、事実関係の調査をするために、本人に自宅待機を命じることになりました。この自宅待機期間中は無給としてもよいでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像懲戒処分を決定するまでの自宅待機期間は、原則的には無給にできません。平均賃金の60%についての支払い義務があることになります。


 

■解説
1 不就労の場合の賃金支払い義務の基本的な考え方

欠勤、遅刻、早退、ストライキ等、専ら労働者側の一方的な都合で労働すべき日または時間に労働しなかった場合、使用者にはその間の賃金支払い義務はありません。ただし、年次有給休暇の場合は、労働基準法により、賃金の支払いが義務付けられています。
また、使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合は、労基法上少なくとも平均賃金の60%についての支払い義務があることになります。
「休職」については、労基法上の定義はありませんが、一般的には、「従業員の身分を保有したまま一定期間就業義務を免除する制度」のことを指し、休職事由には、私傷病のため、組合専従のため、海外留学のため、公職につくため、刑事事件により身柄を拘束され勤務不能となったため、ボランティア活動に従事するため、などがあります。基本的には、労働者側に就労できない事情があるのですから賃金支払い義務はありませんが、一般には、就業規則等で定めた休職制度の内容や運用方法によるところとなります。
「出勤停止」は、就業規則の懲戒規定に基づき、労働者に一定の規則違反行為があったときに命じられ、その間は賃金が支払われないのが通常ですが、形式的には「使用者の責に帰すべき事由」による休業とみることもできます。しかし、企業には社内秩序を維持するために一定の懲戒権が保持されており、「出勤停止」処分が労働者の違反行為に相応した妥当なものである場合は、賃金の支払い義務はないものと考えられます。


2 懲戒処分前の自宅待機期間についての考え方

それでは、ご質問のような懲戒処分前の自宅待機期間についてですが、この自宅待機自体は懲戒処分ではなく、会社側が調査の必要のために(「使用者の責に帰すべき事由」により)「自宅待機」を命ずるものです。仮にこれが懲戒処分であるとすれば、ある労働者の行為に対してすでに懲戒をしたことになりますので、その同じ行為に対して再び懲戒処分をすることは二重処分となり、できないことになります。
業務命令で「自宅待機」を命じた場合、賃金の支払い義務はないとすると、その根拠はどこにあるのでしょうか。
懲戒処分の前提として常に自宅待機が必要であるとは考えられませんが、例えば経理担当の社員が不正経理を行っている疑いがあるような場合、そのことの真偽を確かめるためには本人を自宅に待機させておいた方が、証拠の隠滅を防止し、調査が円滑に行えることも考えられます。
調査の結果、不正経理がなされたことが明らかになり、結果的にその社員を懲戒解雇することになったような場合は、その自宅待機は「使用者の責に帰すべき事由」によるというよりも、むしろ、その原因となったのは本人の不正行為であるという因果関係が成り立ちますので、自宅待機期間分の賃金を支払わないとすることも可能であるかもしれません。さらに、その性質が刑事事件になるようなものであれば、そのことは必要な措置でもあるかもしれません。
しかし、そのような必要性のある場合を除いては、自宅待機期間の賃金を当然に無給にしてよいという根拠はありません。
裁判例においても、「このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れるものではない」とし、「使用者が右支払義務を免れるためには、当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか」または「これを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要する」と解すべきであり、「単なる労使慣行あるいは組合との間の口頭了解の存在では足りないと解すべきである」としたものがあります(「日通名古屋製鉄作業事件」平3.7.22 名古屋地裁判決)。
この判決は結論としても賃金の支払いを命じており、ここでの趣旨は、賃金支払い義務を免れるのはかなり具体化した危険がある場合に限られるということです。したがって、自宅待機期間中も原則的には無給とすることはできず、使用者側には、少なくとも平均賃金の60%についての支払い義務があることになります。


□根拠法令等
・労基法26(休業手当)

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◆給与や賞与の振込みの際に、振込み手数料を差し引いてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像社員への給与や賞与の支払いを口座振込みにしていますが、給与や賞与を振込む際に、振込み手数料を差し引いてもよいでしょうか。
また、アルバイトには給与を現金払いしていますが、アルバイト本人から「現金を受け取りにいく時間がないので、銀行口座に振込んでほしい」と言ってきた場合には、振込み手数料を差し引いた額を振込むことは可能でしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像給与や賞与の振込みの際に振込み手数料を差し引くことは、労働基準法の「賃金全額払いの原則」に違反するためできません。
労働者本人からの依頼による口座振込みであっても、振込手数料は、賃金支払において使用者が当然に負担すべき経費であるため、賃金から振込み手数料を控除して銀行口座に振込むことはできません。

 

■解説
1 給与や賞与の振込みの際に振込み手数料を差し引くことは可能か

労働基準法(以下「法」という)第24条第1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」として、賃金の支払方法のひとつに「全額払いの原則」を定めています。これは、労働者が賃金を確実に受け取れるようにすることで、労働者が自らの生計に不安を抱くことのないようにする必要があることに配慮したものです。
一方、銀行口座等への振込みについては、実際には広く行われていることから、「確実な支払の方法で命令で定めるものによる場合」(法第24条第1項ただし書)に該当するものとして、本人の同意を得た場合には「通貨払いの原則」の例外として認められています。
次に、ご質問にある、社員への給与や賞与を口座振込みする際に、振込み手数料を差し引いてもよいかという問題ですが、「全額払いの原則」の例外として控除が認められているものには、「法令に別段の定めがある場合」と「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合(以下「労使協定」という)」の2つの場合があります(法第24条第1項ただし書後段)。
まず、「法令に別段の定めがある場合」とは、所得税の源泉徴収、健康保険料や厚生年金保険料の控除、雇用保険料の控除、市町村民税(都道府県民税を含む)の控除、減給の制裁による控除がこれに該当しますが、振込み手数料を控除してもよいという法令の定めはありません。
また、「労使協定による賃金控除」も無制限に認められるわけではなく、これについて通達では、「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明確なものについてのみ、法36条の時間外労働と同様の労使協定によって賃金から控除することを認める趣旨である」とされていますので、振込手数料は労使協定による場合にも控除することができないことになります。


2 本人からの依頼による口座振込みであれば手数料を差し引くことは可能か

ご質問にあるように、アルバイトが賃金を受け取りに来られないために、アルバイト本人の希望に応じるかたちで給与を口座振込みとする場合、口座振込み自体は本人の同意を得てのことですので問題ありませんが、振込手数料は、上記の理由から賃金支払における経費として当然に使用者が負担すべきものであるということになり、控除することは許されません。
以上のように、いずれの場合も、振込み手数料を差し引いて賃金を銀行口座に振込むことは、法第24条第1項で定める「全額払いの原則」に違反することになります。

 
□根拠法令等
・労基法24(賃金の支払)、91(制裁規定の制限)
・労働基準法規則7の2(賃金の支払方法)
・所得税法183(源泉徴収義務)、健康保険法167(保険料の源泉控除)、厚生年金保険法84(保険料の源泉控除)、労働保険の保険料の徴収等に関する法律31(賃金からの控除)、地方税法第321の5(特別徴収税額の納入の義務等)
・昭27.9.20基発675(労使協定による賃金控除)



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◆精皆勤手当を3カ月ごとに支払う場合、割増賃金の算定基礎から除外できるか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社(給食センター)では、社員に3カ月ごとに精皆勤手当を支給することを検討しています。仮に、精皆勤手当の支給対象者が残業をした場合、この精皆勤手当は、「臨時に支払われた賃金」または「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」のいずれかに該当するものとして、割増賃金の算定基礎から除外することができるでしょうか。1日の所定労働時間は7時間で、手当の額は、支給要件を満たした月について、月額7,000円を考えています。


Aのロゴ.gifのサムネール画像精皆勤手当を何カ月分かまとめて支払うことにした場合でも、それは「臨時に支払われた賃金」には該当しません。さらに、たとえ3月カ月ごとに支払われるものであっても、月ごとに支給額が決められている場合は、「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」にも該当しないと考えられるため、割増賃金の算定基礎額となる賃金から除外することはできません。

 

■解説
1 精皆勤手当はすべて割増賃金の算定基礎から除くことができるのか

労働基準法第37条第4項では、「割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない」と定めていますが、ここでいう「厚生労働省令で定める賃金」とは、①別居手当、②子女教育手当、③住宅手当、④臨時に支払われた賃金、⑤1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金をいいます(労働基準法施行規則第21条)。これらに該当しない賃金は、すべて割増賃金の算定基礎に含まれますが、これらの除外される手当についても、名称にかかわらず実質によって取り扱うこととされています。
まず、ご質問にある精皆勤手当が、上記④の「臨時に支払われた賃金」に該当するかどうかということについてですが、ここでいう「臨時に支払われた賃金」とは、結婚祝い金や慶弔見舞金などのように恩恵的・臨時的に支払われる賃金や、賞与などのようにあらかじめ支給額が確定していない変動的な賃金のことをいいます。したがって、精皆勤手当のようにあらかじめ支給することが定められた賃金は、これに該当しないことになります。
次に、上記⑤の「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するかどうかですが、「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、次のものをいいます(施行規則第8条)。
イ.    1カ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
ロ.    1カ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
ハ.    1カ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当
 上記イ.の趣旨は、1カ月以内の期間では支給額の決定要素となるべき労働者の勤務成績等を判定するには短すぎる事情もあり得ることから、賞与に準ずるものとして取り扱うこととしているものであり、貴施設で考えておられるような、1カ月ごとに当該月の勤務成績によって支給額が確定し、支払いのみ3カ月分をまとめて行うというような場合は、これに該当しないと考えられます。精皆勤手当のすべてが、除外される賃金ではないということに注意しておく必要があります。


2 精皆勤手当を含めた割増賃金の算定方法

割増賃金の算定基礎となる賃金とは、当該労働者が通常労働した場合の1時間当たりの賃金を意味します。そのように考えると、精皆勤手当を含めた割増賃金を算定する場合は、精皆勤手当を時間額に換算して算出する必要があります。
月の所定労働日数が20日とすれば、月の所定労働時間は1日7時間×20日間=140時間となり、精皆勤手当の時間換算額は、7,000円÷140時間=50円となります。
したがって、仮に時給750円の社員であれば、750円+50円=800円が算定基礎額となり、これにより割増賃金を算定すると800円×1.25=1,000円となります。
割増賃金の算定において、通常の時間もしくは労働日の1時間当たり賃金額または1時間当たり割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げて処理することについては、労基法違反としては取り扱わないものとされています。


□根拠法令等
・労基法37(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
・労基法規則8(臨時に支払う賃金、賞与に準ずるもの)、21(割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金)
・昭22. 9.13発基17(臨時に支払われた賃金)
・昭63. 3.14基発150(賃金計算の端数の取扱い)




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◆入社前に行う研修にも賃金を支払わなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、採用内定者全員を対象に、社員として必要とされる業務に関する基礎知識や技能、社内での仕事上のルールを修得させ、入社に際しての円滑な就業を促すために、入社の日の前に、あらかじめ会社施設内で一定期間の研修を行っています。
この場合の採用内定者が研修を受けた時間については、賃金を支払う必要があるのでしょうか。賃金を支払う必要がある場合、賃金に代えて定額の「研修手当」の支給でも構わないでしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像入社日前の研修であっても、参加が実質的に強制されているものであれば、採用内定者は、事業主の指揮命令に従って労務を提供したのと同じ扱いになるため、研修を受けた時間については賃金を支払う義務があることになります。その名目は「研修手当」であっても構いません。

 

 

■解説
1 労働基準法に基づく支払い義務

事業主は、労働者が使用者の指揮命令に服し、労務を提供した時間に対しては賃金を支払わなければなりません。研修への参加は、直接的には労務の提供はなされていないかのように見えますが、採用内定者の研修が、ご質問にあるように、社員として必要な知識や技能、仕事上のルールを修得させるために行われるものであり、かつ、参加が実質的に強制されている場合には、その参加者は、指揮命令下で労務を提供していたことになります。したがって、研修を受けた時間については「労働」した時間であるということになり、賃金を支払う義務があります。
労働基準法では、こうした入社前の研修について賃金を○○円以上支払わねばならないといった細かい規定がされているわけではなく、「労働の対償である賃金を最低賃金以上の額で支払わねばならない」という趣旨のことが規定されているだけですので、入社前研修が「労働」に該当する場合、最低賃金以上を支払えば法違反にはならないことになります。
就業規則に入社前研修に関する規定がある事業所では、採用内定者であっても、就業規則を内容とする契約に基づいて賃金等の支払い義務が生じることになりますが、ほとんどの事業所では、採用内定者(入社予定者)は就業規則の適用対象外となっているかと思われます。その場合、入社前研修の実施を入社予定者に呼びかける際に、最低賃金以上の一定額の金銭を支払うことを入社予定者に対し申し込みをし、これを入社予定者が承諾すれば、個別の契約が成立したことになり、その個別契約に基づき、事業主に約束の額の金銭を支払う義務が生じることになります。


2 「手当」での代替について

入社前研修が「労働」に該当して賃金の支払いを要するとしても、その名目は問いません。その労務の提供に対して支払われることが示されていればよく、したがって「研修手当」でも構いません。また、入社前研修が「労働」に該当するか否か不明である場合などは、あえて「研修手当」という名目で支払っておくことも考えられます。
研修への参加が実質的に強制されているものであっても、研修参加者に対し、時間換算で最低賃金以上の水準の「研修手当」が支払われるのであれば、労基法違反にはなりません。また、実際に研修に要した時間が予定の時間を超えても、1週40時間1日8時間の法定労働時間の枠を超えなければ、割増賃金の支払い義務も生じません。
以上から、入社前研修に関して労基法上の支払い義務が生じても、通常その水準は比較的低い金額で足りることになります。しかし、これから入社予定者との間で長期の継続的な雇用関係が予定されることを考えるならば、違法ではないからといって最低賃金ぎりぎりの設定をすることが、入社予定者との信頼関係を築くうえで適切であるかどうかということも考慮しておく必要があります。
入社予定者に対し、貴社としての社員研修や賃金に対する姿勢を示す機会でもあり、相当の手当を支払うことが望ましいと考えられます。


□根拠法令等
・労働基準法28(最低賃金)




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◆賃金を完全出来高払制としてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社(スポーツクラブ施設)では、新規顧客の獲得のための営業部署を置いていますが、このたび、同業他社での営業経験がある者を新たに社員として採用することにしました。しかし、どれだけの成果が得られるか未知の部分もあるため、この社員の賃金を固定給のない完全出来高払い制とし、新規顧客の獲得数に応じた賃金を支払うことにしたいと考えています。したがって、いわゆる「ゼロベース」であるため、出来高がまったく上がらなかった月の場合、その月分は「無給」ということになりますが、この点について、何か法的な問題はあるでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像出来高払い制であっても、「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」することが、労働基準法により義務づけられています。したがって、ある月に、その社員による新規利用者の獲得実績がまったく上がらなかったとしても、保障給としての一定額の賃金を支給しなければなりません。

 

 

■解説
1 出来高払い制の保障給とは

労働基準法第27条では、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と規定しています。これは、労働者が就労した以上、たとえ出来高が少ない場合であっても、労働した時間に応じて一定額の賃金の支払いを保障することを、使用者に義務づけたものです。したがって、まったく出来高が上がらなかった場合であっても、労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければならないため、ご質問にあるようなセロベースの「完全」出来高払い制にして、保障給を設けない定めをすることはできないことになります。
保障給は、労働時間に応じた一定額のものである必要があり、一般的には、1時間当たりの保障給が明示され、実際に就労した時間数を乗じた賃金が支払われることになります。したがって、実際の労働時間の長短と関係なく1カ月について一定額を保障するものは固定給であり、同法27条の保障給には当たりません。
保障給の金額における一定額とは、個々の労働者について、その行う労働が同種のものである限りは、一定の金額を保障すべきであるということです。したがって、事業所内に同種の労働を行っている労働者がいる場合には、その者に支払われている賃金の水準がひとつの目安となりますが、個々の労働者の技量、経験、年齢等に応じて、その保障給の額に差を設けること自体は差し支えありません。しかし、この場合でも、少なくとも最低賃金法に基づく地域別最低賃金(産業別最低賃金が定められている場合は、産業別最低賃金)以上の額としなければなりません。


2 最低保障額の設定と固定給がある場合、労働者が就業しなかった場合の扱い

 最低保障額をどのくらいに設定するべきかについては、労働基準法には特に明文化された規定はありませんが、通達では、「常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるように」すべきであるとしています。
同法27条の定めは、「全額」出来高払い制に対しての保障給だけではなく、固定給との組み合わせによる「一部」出来高払い制の場合においても、その出来高払いの部分については、労働時間に応じた一定額の賃金を保障すべきであるという趣旨のものですので、注意が必要です。ただし、「賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、本条のいわゆる『請負制で使用する』場合に該当しないと解される」とされています。
出来高払い制の労働者に該当するにもかかわらず、労働時間に応じた一定額の賃金の保障がなされていない場合は、同法27条違反となり、30万円以下の罰金に処せられます。
 ただし、労働者が自らの責に帰すべき事由により労働しなかった場合は、使用者には賃金の支払いの義務はないため、保障給を支払う必要もありません。

 
□根拠法令等
・労働基準法27(出来高払制の保障給)、28(最低賃金)、120(罰則)
・昭22.9.13発基17、昭63.3.14基発150(保障給の趣旨)
・昭23.11.11発基1639(使用者の責に帰すべき事由によらない休業の場合の保障給)




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