◆懲戒処分を決定するまでの自宅待機期間は無給でよいか

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Qのロゴ.gifのサムネール画像当社ではこの度、社員に対する懲戒処分を実施するにあたって、事実関係の調査をするために、本人に自宅待機を命じることになりました。この自宅待機期間中は無給としてもよいでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像懲戒処分を決定するまでの自宅待機期間は、原則的には無給にできません。平均賃金の60%についての支払い義務があることになります。


 

■解説
1 不就労の場合の賃金支払い義務の基本的な考え方

欠勤、遅刻、早退、ストライキ等、専ら労働者側の一方的な都合で労働すべき日または時間に労働しなかった場合、使用者にはその間の賃金支払い義務はありません。ただし、年次有給休暇の場合は、労働基準法により、賃金の支払いが義務付けられています。
また、使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合は、労基法上少なくとも平均賃金の60%についての支払い義務があることになります。
「休職」については、労基法上の定義はありませんが、一般的には、「従業員の身分を保有したまま一定期間就業義務を免除する制度」のことを指し、休職事由には、私傷病のため、組合専従のため、海外留学のため、公職につくため、刑事事件により身柄を拘束され勤務不能となったため、ボランティア活動に従事するため、などがあります。基本的には、労働者側に就労できない事情があるのですから賃金支払い義務はありませんが、一般には、就業規則等で定めた休職制度の内容や運用方法によるところとなります。
「出勤停止」は、就業規則の懲戒規定に基づき、労働者に一定の規則違反行為があったときに命じられ、その間は賃金が支払われないのが通常ですが、形式的には「使用者の責に帰すべき事由」による休業とみることもできます。しかし、企業には社内秩序を維持するために一定の懲戒権が保持されており、「出勤停止」処分が労働者の違反行為に相応した妥当なものである場合は、賃金の支払い義務はないものと考えられます。


2 懲戒処分前の自宅待機期間についての考え方

それでは、ご質問のような懲戒処分前の自宅待機期間についてですが、この自宅待機自体は懲戒処分ではなく、会社側が調査の必要のために(「使用者の責に帰すべき事由」により)「自宅待機」を命ずるものです。仮にこれが懲戒処分であるとすれば、ある労働者の行為に対してすでに懲戒をしたことになりますので、その同じ行為に対して再び懲戒処分をすることは二重処分となり、できないことになります。
業務命令で「自宅待機」を命じた場合、賃金の支払い義務はないとすると、その根拠はどこにあるのでしょうか。
懲戒処分の前提として常に自宅待機が必要であるとは考えられませんが、例えば経理担当の社員が不正経理を行っている疑いがあるような場合、そのことの真偽を確かめるためには本人を自宅に待機させておいた方が、証拠の隠滅を防止し、調査が円滑に行えることも考えられます。
調査の結果、不正経理がなされたことが明らかになり、結果的にその社員を懲戒解雇することになったような場合は、その自宅待機は「使用者の責に帰すべき事由」によるというよりも、むしろ、その原因となったのは本人の不正行為であるという因果関係が成り立ちますので、自宅待機期間分の賃金を支払わないとすることも可能であるかもしれません。さらに、その性質が刑事事件になるようなものであれば、そのことは必要な措置でもあるかもしれません。
しかし、そのような必要性のある場合を除いては、自宅待機期間の賃金を当然に無給にしてよいという根拠はありません。
裁判例においても、「このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れるものではない」とし、「使用者が右支払義務を免れるためには、当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか」または「これを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要する」と解すべきであり、「単なる労使慣行あるいは組合との間の口頭了解の存在では足りないと解すべきである」としたものがあります(「日通名古屋製鉄作業事件」平3.7.22 名古屋地裁判決)。
この判決は結論としても賃金の支払いを命じており、ここでの趣旨は、賃金支払い義務を免れるのはかなり具体化した危険がある場合に限られるということです。したがって、自宅待機期間中も原則的には無給とすることはできず、使用者側には、少なくとも平均賃金の60%についての支払い義務があることになります。


□根拠法令等
・労基法26(休業手当)

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