◆社員の同居の家族が感染症にかかったため当該社員を自宅待機させる場合、休業手当を支払う必要はあるか

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Qのロゴ.gifのサムネール画像この冬は新型インフルエンザの流行が蔓延するおそれがあると、マスコミ等で報じられていますが、当事業所では、介護福祉事業という業務の性質上、職員と同居の家族が新型インフルエンザ等の感染症にかかった場合、当該職員を「保健所の判断がなくても原則として自宅待機とする」ことを就業規則に定めようと考えています。
この場合、当該職員の休業の期間については、賃金や休業手当を支払う必要はあるでしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像保健所等行政による休業の場合は「賃金」「休業手当」とも支払う必要はないと考えられますが、行政の判断を待たずに"事業所独自の判断で命じた休業"については、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当すると解され、少なくとも「休業手当」の支払いが必要とされる可能性があります。

 

■解説
1 職員本人に感染が確認され、本人を自宅待機とした場合

まず、職員本人が新型インフルエンザ等の感染症にかかったことが確認され、その職員を自宅待機にした場合、その間の「賃金」や「労基法第26条の休業手当」(平均賃金の6割以上)を支払う必要があるのかということについて解説します。
新型インフルエンザ等の罹患者に対しては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症予防法」)により、都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請できるとされており、これに基づき保健所が行う要請に従った場合は、事業主が当該者を自宅待機にするまでもなく、その者は休務となります。
このように保健所等行政の要請により休んだ場合、この休業は、民法第536条第2項の「債権者(=使用者)の責めに帰すべき事由」による労務の受領拒否には該当しないため、「賃金」を支払う必要はありません。さらに、「休業手当」についても、"経営上の理由による休業"のような、労基法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」ではないため、支払う必要はないということになります。
ただし、新型インフルエンザについては、国内で初めて感染が確認され、流行が拡大した年(平成21年)には、感染症予防法に基づく知事のこうした要請は出されるまでには至っておらず、法の根拠を持たない緩やかな休業の要請であったことに留意が必要です。そうした場合における罹患者の自宅待機の場合、一般的に、民法の定めに照らして「賃金」の支払いは必要ないと考えられますが、「休業手当」の要否については、当時の行政指導においては、個別具体的な事案の判断の権限は、事業所所在地所轄の労働基準監督署にあるとされ、確認を得ることが望ましいとされました。


2 職員の同居の家族に感染が確認され、当該職員を自宅待機とした場合

次に、ご質問のように、職員と同居する家族に感染が確認された場合は、その間の「賃金」や「休業手当」を支払う必要があるかどうかということについて解説します。
感染症予防法では、家族が新型インフルエンザ等にかかっている者などについて保健所等で調査を行い、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」と判断された場合については、都道府県知事が外出自粛等の要請を行うこととしています。同居家族が罹患し、保健所から外出自粛等の要請が出され、これに従った場合は、事業主が自宅待機を命じるまでもなく、休務せざるを得ません。
このように保健所等行政の要請により休んだ場合は、職員本人が罹患し、行政の要請により休んだ場合と同様、「賃金」や「休業手当」を支払う必要はありません。
ただし、新型インフルエンザについては、前述のとおり、国内で初めて感染が確認され、流行が拡大した年(平成21年)には感染症予防法に基づく知事のこうした要請は出されておらず、罹患者と同居する家族に対する外出自粛などの要請も、明確には行われませんでした。
これに対して、各事業所は、仮にも事業所内に感染の可能性がある者が入ることのないよう、貴事業所が現在検討されているように、保健所の判断によらず各事業所のルールとして、自宅待機とすることが考えられます。
こうした、行政の判断を待たずに"事業所独自の判断で行う休業"については、その間の「賃金」までは支払う必要はないものの、少なくとも「休業手当」については必要とされる可能性があります。
実際の各事業所の対応としては、「賃金を通常通り支払う」「休業手当を支払う」の2通りのパターンが考えられますが、平成21年の新型インフルエンザ流行時には、「賃金を通常通り支払う」とする事業所が比較的多かったようです。これは、欠勤しても賃金を控除しない"完全月給制"を、もともと採用している事業所が少なからずあるということもありますが、同居の家族の感染に伴い、本人が働ける状態であるにもかかわらず休ませることについて、「特別休暇」とするなどして、本人の欠勤の場合とは異なる配慮をしたとも考えられます。ただし、"日給月給制"をとる事業所等において、当該日については「休業手当(のみ)を支払う」としても差し支えありません。
これに対し、行政の判断(保健所から外出自粛等の要請)を待たずに休業を命じる場合において、「賃金も休業手当も支払わない」とするのは、違法とされる可能性がありますので、ご注意ください。


□根拠法令等
・労基法26(休業手当)
・民法536条②(債務者の危険負担等)
・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律18(就業制限)
・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令11(就業制限)



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