◆賞与の支給が通常より遅れた場合、支給日に在籍していない者にも支払わなければならないか

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Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、今回の賞与の額について労使の交渉が長引き、賞与の支給が、本来の支給日から1ヵ月遅れてしまいました。
本来の支給日以降、実際の支給日の前日までの間に退職した社員がいますが、当事業所の就業規則(賞与規程)では、「賞与は支給日の前月末日までに入社し、支給日当日において当社に在籍する者に対して支給する」となっています。
この場合、この退職者は、実際の支給日には在籍していなかったことになりますが、このような場合でも、その者に賞与を支払う必要はあるのでしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像本来の賞与の支給日に在籍していたのであれば、ご質問の退職者には賞与支払請求権があり、たとえ実際の支給日には在籍していなかったとしても、賞与を支払う必要があります。


 

■解説
1 賞与の支給日在籍要件規定の適法性

賞与も賃金の一種ですが、労働基準法上は、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」(昭22.9.13発基17)とされています。したがって、賞与は労働契約上の債務にあたらず、必ず支給しなければならないものではありませんが、労働基準法第89条第4号の「臨時の賃金」に該当し、就業規則の相対的必要記載事項になります。そのため、賞与制度を設ける場合には、その算定期間、支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などについての定めを就業規則に記載しておく必要があります。
賞与の支給対象者は、労使間での取り決めにゆだねられています。したがって、貴社のように、賞与の算定対象期間中に勤務していても、支給日に在籍しない者には支給しない旨(これを「支給日在籍要件既定」という)が就業規則(賞与規程)等で定められている場合は、賞与の支給日前に退職した者や解雇された者に賞与を支給しなくても差し支えないと解されます。
ただし、労働者側に何ら解雇される事由がないのにもかかわらず、専ら賞与の不支給を目的として支給日の直前に解雇したような場合は、そうした解雇そのものに合理性がなく、したがって賞与の不支給も違法になることはいうまでもありません。


2 賞与の支給が例年より遅れた場合の考え方

それでは、ご質問のように、労使の交渉が長引いたなどの理由で賞与の支給額の決定が遅れ、支給が例年より遅れた場合はどうでしょうか。
こうした場合、本来の支給日までに在籍していた者に対し、実際の支給日に在籍していないことを理由に賞与を支給しないということは、労働者の既得の権利を一方的に奪うことになります。したがって、本来の支給日に在籍していた者に対しては、実際の支給日の前に退職していたとしても、賞与は支払わなければなりません。
就業規則(賞与規程)等で賞与支給日が特定されていない場合は、実際の支給日に在籍していない者に賞与を支払うかどうかは、一応は使用者の任意であると考えられますが、慣行として一定期日(たとえば6月中と12月中など)に支払われている場合は、その月に在籍していた者には賞与を支払う必要があると考えられます。
裁判例では、慣行上それまでに6月末に支払われてきた賞与が、当年度は労使交渉の難航により9月に支給されることになり、7月以降の退職者がその支給対象から除外されたという事案について、労使協定により9月の支給日在籍者を支給する旨の合意がなされていたとしても、労使の支給対象に関する慣行に反するものであると同時に、本来ならば受給できたはずの退職者の賞与受給権を一方的に奪うものであり、当該労使協定の効力は、退職者本人の同意がない限り及ばないとしています(昭59.8.27東京高判・ニプロ医工事件)。
ですから、ご質問のように就業規則(賞与規程)で賞与支給日が特定されている場合は、本来の支給日までに在籍していた社員は、その時点で支給額が決まっていなくとも賞与請求権を有するに至っており、退職者の同意なく、これをさかのぼって失わせることはできないということになります。


□根拠法令等
・労基法11(定義)・89(作成及び届出の義務)
・昭22.9.13発基17(賞与の法的意義)

□判例等
・賞与支給前に懲戒解雇された者の賞与請求権を否定した裁判例
(昭和58.4.20東京高判・ヤマト科学事件)
・賞与支給日が定められた日より大幅に遅れた場合の支給日在籍要件を否定した裁判例
(昭59.8.27東京高判・ニプロ医工事件、昭60.3.12最高裁第三小法廷判決もこれを支持)

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