◆「出勤停止以上の処分を受けた者については、賞与を支給しない」と定めることは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、社員に支給する賞与の金額は、対象期間における出勤状況や貢献度、営業成績などに基づき決定していますが、就業規則(賞与規程)において、「出勤停止以上の処分を受けた者については、賞与を支給しない」と定めることは可能でしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像貴社において、これまでどのようなかたちで賞与が支給されてきたかによる部分はありますが、本来の賞与額から大幅に減額したり、全額を不支給としたりすることを定めることは、そうした定め自体が違法となる可能性が高いとみていいでしょう。

 

 

■解説
1 賞与の性格と支払い義務

 賞与とは、一般に、給与とは別に年末や夏期に支給される一時金のことをさしますが、労働基準法上の賞与の取扱いは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされています。つまり賞与は、毎月支給される給与などとは異なり、労働契約上の債務にあたるものではないため、必ず支給しなければならないという性格のものではありません。その支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などの決定も労使にゆだねられており、原則として、事業主が任意に決定できるものです。
 賞与を支給するか否かや、どのような基準で支給するかなどについて、労働契約、就業規則、労働協約等に定めがなく、これまで支払われてきた賞与が、もっぱら使用者の任意により、労働者の勤務成績などに応じて支給したりしなかったりしたものであれば、それは恩恵的給付であるといえますので、出勤停止以上の処分を受けた者について賞与を支給しないことも、可能であると考えられます。
 しかし、賞与を制度として設け、算定期間、支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などについての定めている場合は、労働基準法上の賃金としての性格を有し、その定めによって支給しなければなりません。
 (この場合の賞与は「臨時の賃金」であり、賞与に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項になるため、算定期間、支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などについての定めをした場合は、その定めをした限りにおいて、就業規則に記載しておく必要があります。)


2 賞与と「減給の制裁」の関係

 また、賞与は、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであるため、事業主の一定の裁量の範囲内で、社員個々の成績考課をもとに支給額を増減することは、査定制度の範囲内のこととして当然に認められるべきものです。
 労働基準法第91条にある「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」という「減給の制裁」の制限は、あくまで懲戒処分に関する制限であり、懲戒処分を受けたことを理由として賞与査定が低くなり、その結果が賞与額に反映されたのであれば、これはまた別の問題です。
 成績考課の要素に何を加えるかは、それが合理的なものである限りは、使用者の自由であるといえ、懲戒処分を受けたことが成績考課に加味されて、その結果として支給額が減じられることは、使用者の裁量の範囲内において認められるものです。


3 賞与を全額不支給とすることの可否について

 それでは、ご質問にあるように、「出勤停止以上の処分を受けた者については、賞与を支給しない」と定めることは可能かということについて考えてみます。
 前述のように、賞与の評価査定において懲戒処分を受けたことを加味することは、使用者の裁量の範囲内において認められるため、評価査定により算定された基準額が、通常の評価における支給額より低い額となることは、十分に考えられます。
 また、賞与の支給額を決定する際には、対象期間中の欠勤日数から出勤係数を求め、評価査定により算定された基準額に出勤係数を乗じることで支給額を決定するというやり方が一般的ですが、こうした方法を用いている場合に、出勤停止期間を欠勤として扱うことは差し支えありません。
 しかし、「懲戒処分を受けた者には賞与を全額支給しない」などの定めをすることは、これらの部分を超えて減額が行われる可能性が高いと考えられ、これは、減給の制裁の限度を超えるものであり、使用者の裁量の範囲を逸脱しているとみなされるおそれがあります。
 また、算定期間中に労務を提供したにもかかわらず賞与を全額不支給とすることは、賞与の賃金性を全面否定することにもなり、通常は認められるものではありません。
 こうした観点からすると、貴事業所において、これまでどのようなかたちで賞与が支給されてきたかという"事案の個性"による部分は大きいのですが、一般的には、賞与を不支給とする定めは、使用者の裁量の範囲を超えるものであり、そうした「定め」そのものが違法となるとみてよいでしょう。
裁判例においても、「減給処分を行うことを実質的な理由として賞与を全く支給しないと定めることは、やはり賞与の賃金であることを否定することになり、法第91条(減給の制裁の制限規定)に反することになる」(昭50.3.14 札幌地判室蘭支部・新日鉄室蘭製鉄所事件)としたものがあります。


□根拠法令等
・労基法89(作成及び届出の義務)・91(制裁規定の制限)
・昭22.9.13発基17(賞与の意義)

□判例等
・「出勤停止処分を受けた者は賞与の受給資格がない」という定めを無効とした裁判例
(昭50.3.14 札幌地判室蘭支部・・新日鉄室蘭製鉄所事件)
「会社主催の成人祝賀会に出席した際に、ビンを壁に投げつける、アジ演説をする等の妨害活動を行なった労働者らが、就業規則に基づき条件付出勤停止処分に付され賞与、定昇分の賃金を支払われなかったので、当該懲戒処分の無効確認および未払賃金の支払を請求した事例」において、労働協約にあった「出勤停止処分を受けた者は賞与の受給資格がない」という定めについて、「企業への貢献度を一切考慮することなく、一律に無資格者と定め、不完全受給資格者と比べ極めてきびしく取り扱われているものであり、右条項は労使間の協定という形式をとってはいるものの実質的には懲戒事由該当を理由としてこれに対する制裁を定めたものと言わざるを得ない」として、「労基法第91条違反を理由に無効」としたもの。

 


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◆賞与の支給が通常より遅れた場合、支給日に在籍していない者にも支払わなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、今回の賞与の額について労使の交渉が長引き、賞与の支給が、本来の支給日から1ヵ月遅れてしまいました。
本来の支給日以降、実際の支給日の前日までの間に退職した社員がいますが、当事業所の就業規則(賞与規程)では、「賞与は支給日の前月末日までに入社し、支給日当日において当社に在籍する者に対して支給する」となっています。
この場合、この退職者は、実際の支給日には在籍していなかったことになりますが、このような場合でも、その者に賞与を支払う必要はあるのでしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像本来の賞与の支給日に在籍していたのであれば、ご質問の退職者には賞与支払請求権があり、たとえ実際の支給日には在籍していなかったとしても、賞与を支払う必要があります。


 

■解説
1 賞与の支給日在籍要件規定の適法性

賞与も賃金の一種ですが、労働基準法上は、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」(昭22.9.13発基17)とされています。したがって、賞与は労働契約上の債務にあたらず、必ず支給しなければならないものではありませんが、労働基準法第89条第4号の「臨時の賃金」に該当し、就業規則の相対的必要記載事項になります。そのため、賞与制度を設ける場合には、その算定期間、支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などについての定めを就業規則に記載しておく必要があります。
賞与の支給対象者は、労使間での取り決めにゆだねられています。したがって、貴社のように、賞与の算定対象期間中に勤務していても、支給日に在籍しない者には支給しない旨(これを「支給日在籍要件既定」という)が就業規則(賞与規程)等で定められている場合は、賞与の支給日前に退職した者や解雇された者に賞与を支給しなくても差し支えないと解されます。
ただし、労働者側に何ら解雇される事由がないのにもかかわらず、専ら賞与の不支給を目的として支給日の直前に解雇したような場合は、そうした解雇そのものに合理性がなく、したがって賞与の不支給も違法になることはいうまでもありません。


2 賞与の支給が例年より遅れた場合の考え方

それでは、ご質問のように、労使の交渉が長引いたなどの理由で賞与の支給額の決定が遅れ、支給が例年より遅れた場合はどうでしょうか。
こうした場合、本来の支給日までに在籍していた者に対し、実際の支給日に在籍していないことを理由に賞与を支給しないということは、労働者の既得の権利を一方的に奪うことになります。したがって、本来の支給日に在籍していた者に対しては、実際の支給日の前に退職していたとしても、賞与は支払わなければなりません。
就業規則(賞与規程)等で賞与支給日が特定されていない場合は、実際の支給日に在籍していない者に賞与を支払うかどうかは、一応は使用者の任意であると考えられますが、慣行として一定期日(たとえば6月中と12月中など)に支払われている場合は、その月に在籍していた者には賞与を支払う必要があると考えられます。
裁判例では、慣行上それまでに6月末に支払われてきた賞与が、当年度は労使交渉の難航により9月に支給されることになり、7月以降の退職者がその支給対象から除外されたという事案について、労使協定により9月の支給日在籍者を支給する旨の合意がなされていたとしても、労使の支給対象に関する慣行に反するものであると同時に、本来ならば受給できたはずの退職者の賞与受給権を一方的に奪うものであり、当該労使協定の効力は、退職者本人の同意がない限り及ばないとしています(昭59.8.27東京高判・ニプロ医工事件)。
ですから、ご質問のように就業規則(賞与規程)で賞与支給日が特定されている場合は、本来の支給日までに在籍していた社員は、その時点で支給額が決まっていなくとも賞与請求権を有するに至っており、退職者の同意なく、これをさかのぼって失わせることはできないということになります。


□根拠法令等
・労基法11(定義)・89(作成及び届出の義務)
・昭22.9.13発基17(賞与の法的意義)

□判例等
・賞与支給前に懲戒解雇された者の賞与請求権を否定した裁判例
(昭和58.4.20東京高判・ヤマト科学事件)
・賞与支給日が定められた日より大幅に遅れた場合の支給日在籍要件を否定した裁判例
(昭59.8.27東京高判・ニプロ医工事件、昭60.3.12最高裁第三小法廷判決もこれを支持)

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◆退職予定社員に対して賞与を減額支給することは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社の賞与規定では、賞与支給日に当所に在籍している社員に対し、事業所全体の業績や社員の勤務成績を勘案して定めた額を支給することとしていますが、この度、賞与の支給日以降数日で退職を予定している社員がいます。この者に対して、賞与の一定額を減額することを考えていますが、可能でしょうか。
また、今後、「賞与支給日から1カ月以内に退職した社員については賞与を半分とする」という定めをすることは可能でしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像賞与には、通常、社員の過去の実績に基づく支給という要素のほか、将来の貢献に対する期待に基づく支給という要素もあるため、賞与支給後の近い期日に退職が予定されている者に対して、賞与を減額して支給することは可能です。しかし、賞与のこうした性格を総合的に考慮するならば、減額の範囲は限られるものになると思われます。
その点からすると、「賞与支給日から1カ月以内に退職した社員については賞与を半分とする」という定めをすることは、対象者の被る不利益の程度が大きく、裁判例を前提とする限りむずかしいと思われます。

 

■解説
1 退職予定者の賞与の減額の合理性

賞与とは、一般に、月例賃金とは別に、使用者の業績、部門の業績、個人の業績や勤務成績などを査定のうえ、支給するものをいいます。その性格は必ずしも一義的に説明できるものではなく、それゆえに、賞与の支給額の決定方法や支給対象者は、当事者間の約定、就業規則、労働協約等での取り決めにゆだねられています。例えば、正社員のみを支給対象者とし、契約社員やパートタイマーには支給しないとしてもよく、一般には、就業規則で定める支給対象者の範囲に沿うことになります。
したがって、賞与の算定対象期間中に勤務していても、支給日に在籍しない者には支給しない旨が就業規則で定められている場合は、賞与の支給日前に退職した者や解雇された者に賞与を支給しなくても差し支えないと解されます。
ご質問にある、賞与支給日直後に退職が予定されていることという将来の事由を理由として、賞与の支給額を減額できるのかという問題ですが、この点については、賞与には、通常、社員の過去の実績に基づく支給という要素のほか、将来の期待に基づく支給という要素もあるため、賞与支給後の近い時期に退職が予定されている者に対しては、将来の貢献が期待できないことから、他の社員よりも賞与を減額して支給することは可能と考えられます。
退職予定者の賞与の減額規定の合理性が争われた裁判例があります。これは、就業規則に、「賞与の支給基準として、中途採用者の冬期賞与は基礎額の4カ月分とされるが、12月31日までに退職を予定している者については、4万円に在職月数を乗じた額とする」との定めがある会社において、基礎額の4カ月分の賞与受領後、年内に退職した者に対し、会社が返還請求をしたものです。この退職者が返還請求に応じた場合、結果として退職予定がない場合の賞与額の17%余の金額しか受給できないこととなるこの事件について、裁判所は、「退職予定がある場合など、将来に対する期待の程度の差に応じて、退職予定者と非退職予定者の賞与額に差を設けること自体は不合理ではない」としながらも、「過去の賃金とは関係のない純粋の将来に対する期待部分が、被告と同一時期に中途入社し同一の基礎額を受給していて年内に退職する予定のない者がいた場合に、その者に対する支給額のうちの82パーセント余の部分を占めるものとするのは、いかに在社期間が短い立場の者についてのこととはいえ、肯認できない」とし、「賞与制度の趣旨を阻害するものであり、無効である」と判示しています。(「ベネッセコーポレーション事件」平8.6.28 東京地裁判決)。
この判決では、退職予定者の賞与の算定にあたって、就業規則上の規定を根拠として、非退職予定者の賞与額との差を設けること自体は合理性があるとしています。これは、賞与の支給基準の決定は、当事者の私的自治にゆだねられるという考え方に基づくものです。しかし、判例にもあるように、賞与の性格を総合的に考慮するならば、減額の範囲は限られるものになると思われます。


2 退職予定者の賞与減額規定の新設の可否

ご質問にあるように、これまでなかった退職予定者の賞与減額規定を新設する場合は、就業規則の不利益変更の問題が生じ、不利益に変更することのついての合理性が求められます。
ご質問のケースで問題となるのは、退職予定者についての支給割合を「半分」にするという点です。前述の裁判例では、「労働者に対する将来の期待部分の範囲・割合については、諸事情を勘案して判断すると、賞与額の2割を減額することが相当である」としています。どのような根拠で「将来の期待に基づく支給」を「2割」としたのかなどの疑問もある裁判例ですが、「賞与支給日から1カ月以内に退職した社員については賞与を半分とする」という定めをすることは、対象者の被る不利益の程度が大きすぎるため変更に合理性が認められず、この裁判例を前提とする限りむずかしいと思われます。


□根拠法令等
・労基法12(定義)




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◆年俸制の場合、支給日前に退職する者に対しても、賞与を支払わなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では社員に年俸制を採用しており、期首(4月)に決定した個々の年俸額を、配分係数(16)で割って月々の給与として支給し、残りを2で割って7月と12月の初日に賞与として支給しています。一方、就業規則では、「賞与は支給日の在籍者に限り支給する」との定めていて、支給日前に退職する者には賞与を支払っていませんでした。この措置について、支給日の直前日(6月30日)に退職する予定の年俸制社員から、7月の賞与の半分に対して自分には請求権があるのではないかという訴えがありましたが、年俸制の場合、支給日前に退職する者にも、賞与を支払わなければならないのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像一般的には、就業規則に、「賞与は支給日の在籍者に限り支給する」との定めがあれば、支給日前に退職する者には賞与を支払わなくても問題ありません。しかし、賞与が年俸の一部を構成しているときは、その賞与は賃金債権として確定しているため、支給日前に退職したことを理由に不支給とすることはできません。
また、賞与支給時に加算する業績賞与や、年俸とは別に支給するインセンティブについても、評価が確定している(したがって、支給額が確定している)部分については同様です。

■解説
1 支給日在籍要件の一般的効力と年俸制の場合

貴社では、「賞与は支給日の在籍者に限り支給する」という規定になっているということですが、まず、一般論からいうと、このような「賞与支給日在籍要件」の定めをすることは問題ないとされており、裁判例においても、賞与支給日前に退職した者に賞与を支給しなかったことについて、そのことを適法であるとしたものが多くあります(「梶鋳造所事件」昭55.10.8名古屋地裁判決、「大和銀行事件」昭57.10.7最高裁第一小法廷判決、「京都新聞社事件」昭 60.11.28最高裁判決、「カツデン事件」平8.10.29 東京地裁判決など)。
 しかし、これらの判例における賞与とは、「定期的又は臨時的に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいうこと。定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと」とした行政解釈にあるように、あらかじめ支給額が確定していないものであることを前提としています。
 ご質問の年俸制における「賞与」の場合、年俸額が賞与分も含めて決定されているため、期首(4月)において、7月と12月に「賞与」として支給される額(それぞれ年俸額の16分の2)がすでに確定していることになります。前掲通達にある通り、こうした「支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと」とされるため、確定した賃金債権となります。
年俸制の場合は、一般に年間を通じて労務の提供がなされることを前提に年俸額が決定されるため、労務提供期間が1年に満たない場合は、その期間に応じて賞与を按分計算することは認められています。したがって、ご質問の6月末退職者については、本人の訴えの通り、6月支給予定の賞与の半分の額(年間賞与額を各月に均等配分したうちの4月から6月分)の請求権があることになります。


2 業績加算賞与やインセンティブ・ボーナスなどの扱い

年俸制の場合でも、期首に定めた賞与を基本額(基本賞与)とし、それに業績加算部分(業績加算賞与)をたしたものを賞与総額として支給することがあります。また、年俸契約で決められた賞与以外に、決算賞与(プロフィット・シェア・ボーナス)や報奨金(インセンティブ・ボーナス)などのインセンティブが支給されることがあります。
これらも、一般的には、労働基準法上の「臨時に支払う賃金」として扱われ、「賞与支給日在籍要件」の定めに沿って支給日に在籍しない者に支給しなくとも問題はありませんが、当該者の評価が確定している(したがって、支給額が確定している)場合は、年俸制における賞与(基本賞与)の扱いと同様、確定した賃金債権となり、支給日前に退職した者にも支払わなければなりません。


□根拠法令等
・昭22.9.13発基17(賞与の意義)




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◆生理日の休暇を取得したときは欠勤扱いとして、賞与から控除をしてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社の就業規則では、社員が生理休暇を取得した日は無給扱いとしています。実際に生理休暇を取得した女性社員について、賞与計算の際にも、生理休暇を取得した日を欠勤扱いとして勤怠控除してよいでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像生理日の休暇は、労働基準法上、生理日の就業が著しく困難な女性が請求したときに与えなければならないものです。しかし、労働基準法は、生理日の休暇を取得した日について賃金を支払うことまでは求めていません。したがって、賃金から控除することは差し支えありませんが、賞与の勤怠査定の対象としたり、当該日数分を不支給としたりすることは、休暇の取得を抑制することになるため、望ましいことではないと思われます。

 

■解説
1 生理休暇の賃金控除

労働基準法第68条は、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と定めています。この規定は、生理日の休暇の付与を義務づけた規定ですが、賃金の支払いを義務づけてはいないことから、通達のうえでも、「その間の賃金は労働契約、労働協約又は就業規則で定めるところによって支給しても、しなくても差し支えない」と解されています。
つまり、生理休暇は、「年次有給休暇」のように「有給」とすることを求められているものではなく、したがって、賃金計算において、生理休暇を取得した日を欠勤扱いとして基本給等の所定内賃金から控除しても、必ずしも違法となるものではありません。ですから、賞与についても、通常の欠勤や退職と同様に扱い、不就労時間に相当する額を減額しても一応は差し支えないものと考えられます。


2 賞与において欠勤扱いとすることの問題点

ただし、「生理休暇」は、本来「休暇」であって、労働の義務を課した所定労働日に労働の義務を免除するものであり、労働の義務が免除されているにもかかわらず「欠勤」扱いとなるのは、合理性を欠いているともとれます。給与において、欠勤と同様に不就労時間分を控除することは、ノーワーク・ノーペイの原則により一定の合理性が認められますが、賞与の「勤怠査定」の対象とし、当該日数分を減額したりすることは、前述の通り、もともとは「休暇」であって欠勤ではないため、問題があるように思えます。
さらに、いったん給与から控除されたものを再度賞与から減額することは二重の控除となり、そのこと自体が法に抵触するものではありませんが、生理休暇を取得する女性が被る不利益の度合いが大きくなることが考えられます。結果として休暇の取得を抑制することになるならば、生理休暇の取得を定めた労働基準法第68条の趣旨に反することになり、望ましいことではないと思われます。
通達においても、賞与算定のための出勤率の計算などにあたって、「取扱いについては労使間において決定されるべきものである」としながらも、「当該女子に著しい不利益を課すことは法(労基法第68条)の趣旨に照らし好ましくない」としています。
「生理日の就業が著しく困難」であるかどうかを使用者側が判断することは難しく、休暇の申し出をした女性社員との信頼関係に基づき休暇を与えているのが実情ですが、休暇申請が恣意的になされているといった問題が特になければ、生理休暇は単発的なものであるため、賞与算定のための出勤率の計算などにあたっては、その日を出勤扱いにしても差し支えないのではないかと考えます。


□根拠法令等
・労基法68(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)
・昭23.6.11 基収1898、昭49.4.1婦収125、昭63.3.14 基発150、婦発47(生理休暇中の賃金・出勤率の計算)




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◆賞与額の決定に際して、業務上の災害のために休業中の者を欠勤扱いとしてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社には、半年前に業務上の災害に罹災し、今もなお療養のため休業中である社員がいますが、この社員の休業期間を欠勤として扱い、賞与を減額して支給することはできるでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像賞与とは、「原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」であるため、算定期間中に休業していた社員について、その休業期間を欠勤として扱い、賞与を減額して支給することは、その休業が業務上の傷病によるものであったとしても可能です。
なお、業務上の災害による休業の期間については、労災保険から休業補償給付が支給されます。

 

■解説
1 賞与の性格と業務上の休業による欠勤控除

賞与は、労働基準法上の取扱いでは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされています。つまり賞与は、毎月支給される給与などとは異なり、労働契約上の債務にあたるものではないため、必ず全社員に支給しなければならないという性格のものではありません。
また、労働基準法では、第76条(休業補償)において、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合において、「労働者の療養中平均賃金の100分の60」の休業補償を行うことを義務づけるとともに、第39条(年次有給休暇)に定める年次有給休暇の付与要件である出勤率の取扱いにおいて、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間」は、「これを出勤したものとみなす」(同条第7項)としています。しかし、労働基準法が定めるところの、業務上の災害による労働者の休業に関して使用者に課している義務はこれだけで、このほかに法的な定めはありません。
したがって、業務上の災害による傷病のため、賞与の算定期間中に休業期間がある場合に、賞与の算定にあたっては、休業期間を欠勤したものとして取扱い賞与を減額しても違法となるものではありません。


2 欠勤控除に減額緩和措置を設ける場合

しかし、業務上の災害による休業を、いわゆる私傷病による欠勤や休職と同じ扱いにして賞与の欠勤控除計算をするとして、就業規則等の定めで、賞与の欠勤控除計算が、算定期間中の基礎日数のうち何日休業したかを求め、通常の計算による賞与額を日割計算して実支給額を決定する方式をとっている場合には、期間を通して休業した場合には賞与はまったく支給されないということになってしまいます。
そこで、そうした場合には、業務上の災害による休業であることを考慮して、①休業の最初の3カ月間は出勤したものとみなす、②休業期間の2分の1は出勤したものとみなす、などの減額緩和措置を定めることも方法として考えられます。
ちなみに、業務上の災害により労働者が休業した期間については、労災保険から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の休業補償給付(さらに、労働福祉事業より、特別支給金として給付基礎日額の20%相当額が加算される)が支給されます。


□根拠法令等
・労基法76(休業補償)
・昭22.9.13発基17(賞与の意義)
・労災保険法14(休業補償)
・特別支給金規則3(休業特別支給金)




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◆賞与は必ず支払わなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像今まで年末と夏期の年2回、社員には賞与を支払ってきましたが、そもそも、賞与とは必ず支払わなければならないのでしょうか。また、ある社員には賞与を支払い、ある社員には払わないとすることはできないでしょうか。そのほかに、貢献度によって個々の支給額に差をつけるやり方がありましたらお教えください。


Aのロゴ.gifのサムネール画像賞与は必ずしも支払わなければならないというものではありません。しかし、就業規則で賞与を支払う旨を定めている場合には、その定めによらなければなりません。また、賞与を全額不支給とすることは、裁量の範囲を超えたものとして、通常は認められないと思われます。部門や個人の業績を支給額に反映させたいのであれば、賞与全体を基本賞与と業績賞与に分けて算定するなどのやり方が考えられます。

 

■解説
1 賞与の性格と支払い義務

賞与とは、一般に、給与とは別に年末や夏期に支給される一時金のことをさしますが、労働基準法上の賞与の取扱いは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされています。つまり賞与は、毎月支給される給与などとは異なり、労働契約上の債務にあたるものではないため、必ず支給しなければならないという性格のものではありません。その支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などの決定も労使にゆだねられており、原則として、事業主が任意に決定できるものです。
また、賞与は「臨時の賃金」であり、賞与に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項になるため(労働基準法第89条第4号)、賞与を制度として設け、算定期間、支給基準、支給額、計算方法、支給期日、支給対象者などについての定めをした場合は、その定めをした限りにおいて、就業規則に記載しておく必要があります。
この「定め」については、正社員には支給するが、契約社員やパートタイマーには支給しないとすることは可能ですし、事業全体の業績や労働者の勤務期間などが一定水準に達しない場合には、賞与は支給しないとする旨を定めておくこともできます。


2 事業主の裁量の範囲

就業規則において、賞与を支払うことおよび賞与支給に関する制度基準を定めている場合には、その定めによって支給しなければなりませんが、賞与は、「原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるもの」であるため、事業主の一定の裁量の範囲内で、社員個々の成績考課をもとに支給額を増減することは、査定制度の範囲内のこととして当然に認められるべきものです。
ただし、ご質問にあるように、「ある社員には賞与を支払い、ある社員には払わないとする」とすることが、査定制度の範囲を超えて恣意的に行われるならば、多分に問題を含んでいると思われます。
それまで年2回の賞与が支給されていた制度上の支給対象者である社員に対して、算定期間を通じて労務の提供があったにもかかわらず、当該期間分の賞与をいきなり全額不支給とすることは、事業主として許される裁量の範囲を超えるばかりでなく、賞与の賃金性を否定するものであり、一般には認められるものではないでしょう(公序良俗違反)。仮にそのことが懲戒処分として行われるとしても、減給の制裁の制限規定(労働基準法第91条)に抵触し、法違反になると考えられます。


3 業績成果を支給額に反映させるには

もし、成績考課の結果をもっと個々の支給額に反映させたいのであるならば、賞与の算定方式を、業績成果反映型に改めるというやり方があります。
賞与額の算出においては、一般に、「算定基礎額×支給月数」という計算式で計算し、算定基礎額の部分には基本給またはそのうちの一定額を用いているケースが多いようですが、これだけですと基本給実績だけで貢献度にかかわらず賞与額の多寡が決定してしまいます。そこで、例えば、先の算定式の一律の支給月数を抑えて(例えば、従来2カ月であったのを1カ月にするなどして)計算したものを基本賞与とし、余った原資を、個人成績を反映させた業績賞与として基本賞与にプラスすることとすれば、業績成果を反映させた、賞与本来の性格に近いものになるかと思われます。またその際に、評価基準や計算方法が社員に充分に開示されていれば、社員の納得性も高められることになります。


□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)、91(制裁規定の制限)
・昭22.9.13発基17(賞与の意義)




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