◆賃金を完全出来高払制としてもよいか

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Qのロゴ.gifのサムネール画像当社(スポーツクラブ施設)では、新規顧客の獲得のための営業部署を置いていますが、このたび、同業他社での営業経験がある者を新たに社員として採用することにしました。しかし、どれだけの成果が得られるか未知の部分もあるため、この社員の賃金を固定給のない完全出来高払い制とし、新規顧客の獲得数に応じた賃金を支払うことにしたいと考えています。したがって、いわゆる「ゼロベース」であるため、出来高がまったく上がらなかった月の場合、その月分は「無給」ということになりますが、この点について、何か法的な問題はあるでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像出来高払い制であっても、「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」することが、労働基準法により義務づけられています。したがって、ある月に、その社員による新規利用者の獲得実績がまったく上がらなかったとしても、保障給としての一定額の賃金を支給しなければなりません。

 

 

■解説
1 出来高払い制の保障給とは

労働基準法第27条では、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と規定しています。これは、労働者が就労した以上、たとえ出来高が少ない場合であっても、労働した時間に応じて一定額の賃金の支払いを保障することを、使用者に義務づけたものです。したがって、まったく出来高が上がらなかった場合であっても、労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければならないため、ご質問にあるようなセロベースの「完全」出来高払い制にして、保障給を設けない定めをすることはできないことになります。
保障給は、労働時間に応じた一定額のものである必要があり、一般的には、1時間当たりの保障給が明示され、実際に就労した時間数を乗じた賃金が支払われることになります。したがって、実際の労働時間の長短と関係なく1カ月について一定額を保障するものは固定給であり、同法27条の保障給には当たりません。
保障給の金額における一定額とは、個々の労働者について、その行う労働が同種のものである限りは、一定の金額を保障すべきであるということです。したがって、事業所内に同種の労働を行っている労働者がいる場合には、その者に支払われている賃金の水準がひとつの目安となりますが、個々の労働者の技量、経験、年齢等に応じて、その保障給の額に差を設けること自体は差し支えありません。しかし、この場合でも、少なくとも最低賃金法に基づく地域別最低賃金(産業別最低賃金が定められている場合は、産業別最低賃金)以上の額としなければなりません。


2 最低保障額の設定と固定給がある場合、労働者が就業しなかった場合の扱い

 最低保障額をどのくらいに設定するべきかについては、労働基準法には特に明文化された規定はありませんが、通達では、「常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるように」すべきであるとしています。
同法27条の定めは、「全額」出来高払い制に対しての保障給だけではなく、固定給との組み合わせによる「一部」出来高払い制の場合においても、その出来高払いの部分については、労働時間に応じた一定額の賃金を保障すべきであるという趣旨のものですので、注意が必要です。ただし、「賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、本条のいわゆる『請負制で使用する』場合に該当しないと解される」とされています。
出来高払い制の労働者に該当するにもかかわらず、労働時間に応じた一定額の賃金の保障がなされていない場合は、同法27条違反となり、30万円以下の罰金に処せられます。
 ただし、労働者が自らの責に帰すべき事由により労働しなかった場合は、使用者には賃金の支払いの義務はないため、保障給を支払う必要もありません。

 
□根拠法令等
・労働基準法27(出来高払制の保障給)、28(最低賃金)、120(罰則)
・昭22.9.13発基17、昭63.3.14基発150(保障給の趣旨)
・昭23.11.11発基1639(使用者の責に帰すべき事由によらない休業の場合の保障給)




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