◆行方不明になった社員の退職金を配偶者に支払うことは可能か

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Qのロゴ.gifのサムネール画像ある社員が突然出勤しなくなり、家族も本人との連絡がとれず、行方不明となりました。社員の配偶者から退職届が出され、当社ではこれを受理して自己都合退職扱いとしましたが、この社員の退職金を配偶者に支払うことには何か問題があるのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像本人の死亡が確認された場合は、死亡退職金として、遺族である配偶者に支払うことになりますが、行方不明というだけでは、配偶者に退職金を支払うことはできません。なぜならば、退職金の支給が制度として定められている場合は、退職金も賃金の一種であり、これを本人以外の者に支払うことは、「直接払いの原則」に反することになるからです。

 

■解説
1 使者払いとすることは難しい

就業規則等であらかじめ支給要件が明確にされた退職金は、労働基準法上の賃金に該当します。したがって、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁じた「直接払い」の原則の適用を受けるため、直接本人に支払わなければなりません。ただし、給与については、既往の労働分の給与が未払いであったとしても、その社員について従来から口座振込みが行われている場合は、行方不明になる前の給与支払いと同様に、既定の口座に振り込むことに特に問題はありません。
 退職金については、本人がすでに死亡したことが明らかな場合は、死亡退職金として遺族である配偶者に支払うことが可能ですが、単に行方不明であるというだけで配偶者に支払うことは、上記の「直接払い」の原則に反することとなります。
「直接払い」の原則に関しては、労働者の親権者その他の法定代理人や労働者の委任を受けた任意代理人に支払うことは違反になりますが、「使者」に支払うことは差し支えないとされています(昭63.3.14基発150)。ここでいう「使者」とは、自分で意思決定することがなく、いわれたままのことを実行する本人の手足のようなものであり、本人が病気などで賃金を受け取りに来られないときに、友人が代わって受け取り本人に届けるような場合がそれに該当します。
ただし、「使者」に該当するか否かの判断は困難な場合が多く、一般的には、社会通念上、労働者本人に支払うのと同一の効果を生じるような者であるか否かによって判断することになります。しかし、労働者本人が行方不明である場合、すでにその家族は労働者と同居していないため、その配偶者に退職金を支払ったとしても、労働者への支払いがあったと認めることは困難です。労働者本人と連絡がとれないならば、配偶者が「使者」であることの確認もできないため、配偶者に退職金を支払うことはできないことになります。


2 「供託」または「不在者の財産管理人」の制度を活用する

退職手当の請求権は5年間(通常の賃金の場合は2年間)行わない場合は、時効により消滅します(労働基準法115条)。したがって、行方不明となった労働者の退職金は5年間保管しておき、その労働者が取りに来ればいつでも支払うことができるようにしておけばよいのです。
ただし、時効までの5年間保管しておくのは負担になるということであれば、法務局(地方法務局またはその支局など)の供託所へ「供託」する方法もあります。これは、退職金を供託所に保管してもらい、後日、本人が受領できるようになった際に、供託された退職金を供託所から受領する方法で、この手続きにより債務不履行の責任を免れることができます。ただし、この場合でも、本人が現れるまでは受領できないため、配偶者に退職金を支払うということはできません(民法494条)。
そこで、行方不明者の配偶者が退職金を受け取れるようにするには、民法の「不在者の財産管理人」制度(民法25条ほか)を活用する方法が考えられます。この制度により、配偶者が家庭裁判所に申し立てをし、不在者(行方不明者)の財産管理人として選任された場合は、当該不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可を得て遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。したがって、不在者財産管理人に選任された配偶者から請求があった場合は、当該配偶者に対し退職金を支払うことになります。


□根拠法令等
・労基法24(賃金の支払)、115(時効)
・昭63. 3.14 基発150(賃金の直接払と民法上の委任)
 ・民法494(供託)、 25(不在者の財産の管理)、26(管理人の改任・管理人の権限)




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