◆就業規則に「社員の給与は年1回定期に見直す」旨の定めがある場合、給与を据え置くことは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像昇給査定の時期を迎えていますが、業績不振のため、経営上の観点から、今回は全社員の給与を据え置くことにしたいと考えています。ただし、当社の就業規則(給与規程)では、「社員の給与は年1回定期に見直す」と定められています。こうした場合でも全社員の給与を据え置くことは可能でしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像就業規則に「社員の給与は年1回定期に昇給を実施する」などとある場合は、原則として、昇給させる義務があります。しかし、ご質問のように「社員の給与は年1回定期に見直す」とだけある場合は、給与が据え置かれたりダウンしたりする可能性があらかじめ排除されているわけではないため、全社員の給与を据え置くことにする旨を社員に通知すれば、特に問題はありません。ただし、その場合でも、社員に対してその理由を説明し、充分な理解を得たうえで行うことが望ましいでしょう。

 

■解説
1 労働基準法と昇給の定め

毎年一定時期に、あらかじめ定められた基準により一定額の基本給をアップさせることを定期昇給といいます。年齢給や年齢給の場合には、査定にかかわらず誰もが一律一定の定昇が行われるわけですが(一律昇給)、職能給や職務給では、人事考課の査定結果に応じて昇給額に個人差が出るような運用が行われるのが常です(査定昇給)。これに対し、世間相場や物価水準の変動などの外部環境の変化に対応するために、基本給テーブルの書き換えによって行われるものをベースアップといいます。ベースアップは、そうした要因がなければ原則として行われません。
労働基準法(以下「法」という)には、使用者に対し定期昇給やベースアップを義務づける規定はありませんが、法第89条第2号において「昇給に関する事項」を就業規則における絶対的必要記載事項としています。


2 就業規則の定めと昇給実施義務

給与の改定は、そうした就業規則(給与規程)の定めるところによって行われなければなりませんが、では、どのような規定内容の場合に、昇給させることが義務となるのでしょうか。
例えば、「社員の給与は年1回定期に昇給を実施する」、「給与は前年度の評価に基づき、毎年4月に昇給させる」などと規定されていて、具体的な昇給基準なども定められているような場合は、毎年一定の基準に沿って昇給をする定めをしていることになりますから、今回も既定の基準に沿って昇給を行う必要があり、据え置きやダウンは就業規則違反(契約違反)となる可能性があります。
一方、ご質問にある貴社の就業規則のように、「社員の給与は年1回定期に見直す」とだけ定められていて、具体的な昇給基準などが定められていない場合は、給与を見直す際に、その額が据え置かれたりダウンしたりする可能性があらかじめ排除されているわけではないため、給与を据え置いたりダウンさせても特別な問題はありません。「業績不振のため、今回は、全社員の給与を据え置くことにする」との旨を社員に通知すればそれで足ります。ただし、その場合でも、社員に対してその理由を説明し、充分な理解を得たうえで行うことが望ましいでしょう。


3 就業規則で昇給を約している場合や就業規則がない場合の対処

会社の就業規則の定めが、最初に挙げた例のように、「社員の給与は年1回定期に昇給を実施する」などとなっている場合は、社員に対して昇給を約束していることになります。昇給させる義務が原則的にはあり、社員も昇給することへの期待を抱いていると考えられます。それにも関わらず、経営環境が極めて厳しく、社員の雇用を維持するためにはどうしても給与を据え置かざるを得ないような場合は、社員に対して昇給できない理由をより詳細に説明するとともに、今後の見通しや展望を指し示すことも必要でしょう。そうでなければ、社員の理解が得られないばかりでなく、経営側に対する不信感や仕事面でのモラール・ダウンを引き起こし、業績悪化をさらに促進する要因にもなりかねません。
就業規則を作成していない小規模事業所などで、これまで慣行的に定期の昇給を行ってきたような場合は、使用者には常に定期昇給を実施する義務があるとはといえませんが、やはり社員は昇給することへの期待を抱いていると考えられます。したがって、こうした場合においても、給与を据え置くときには、社員に充分な説明を施し、そうした施策への理解を求めることが必要でしょう。

 
□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)

□ 判例等

・長年実施してきた定期昇給を行わなかったことにつき、就業規則上具体的な昇給基準が定められておらず、毎年の団体交渉の結果、昇給内容が決まるという制度においては、団体交渉での合意ができてない以上、使用者に定期昇給を実施する義務はないとした例(平17.3.30東京高判・高見澤電機製作所事件)




 ・内容についての無断転載は固くお断りいたします。

◆賃金を完全出来高払制としてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社(スポーツクラブ施設)では、新規顧客の獲得のための営業部署を置いていますが、このたび、同業他社での営業経験がある者を新たに社員として採用することにしました。しかし、どれだけの成果が得られるか未知の部分もあるため、この社員の賃金を固定給のない完全出来高払い制とし、新規顧客の獲得数に応じた賃金を支払うことにしたいと考えています。したがって、いわゆる「ゼロベース」であるため、出来高がまったく上がらなかった月の場合、その月分は「無給」ということになりますが、この点について、何か法的な問題はあるでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像出来高払い制であっても、「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」することが、労働基準法により義務づけられています。したがって、ある月に、その社員による新規利用者の獲得実績がまったく上がらなかったとしても、保障給としての一定額の賃金を支給しなければなりません。

 

 

■解説
1 出来高払い制の保障給とは

労働基準法第27条では、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と規定しています。これは、労働者が就労した以上、たとえ出来高が少ない場合であっても、労働した時間に応じて一定額の賃金の支払いを保障することを、使用者に義務づけたものです。したがって、まったく出来高が上がらなかった場合であっても、労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければならないため、ご質問にあるようなセロベースの「完全」出来高払い制にして、保障給を設けない定めをすることはできないことになります。
保障給は、労働時間に応じた一定額のものである必要があり、一般的には、1時間当たりの保障給が明示され、実際に就労した時間数を乗じた賃金が支払われることになります。したがって、実際の労働時間の長短と関係なく1カ月について一定額を保障するものは固定給であり、同法27条の保障給には当たりません。
保障給の金額における一定額とは、個々の労働者について、その行う労働が同種のものである限りは、一定の金額を保障すべきであるということです。したがって、事業所内に同種の労働を行っている労働者がいる場合には、その者に支払われている賃金の水準がひとつの目安となりますが、個々の労働者の技量、経験、年齢等に応じて、その保障給の額に差を設けること自体は差し支えありません。しかし、この場合でも、少なくとも最低賃金法に基づく地域別最低賃金(産業別最低賃金が定められている場合は、産業別最低賃金)以上の額としなければなりません。


2 最低保障額の設定と固定給がある場合、労働者が就業しなかった場合の扱い

 最低保障額をどのくらいに設定するべきかについては、労働基準法には特に明文化された規定はありませんが、通達では、「常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるように」すべきであるとしています。
同法27条の定めは、「全額」出来高払い制に対しての保障給だけではなく、固定給との組み合わせによる「一部」出来高払い制の場合においても、その出来高払いの部分については、労働時間に応じた一定額の賃金を保障すべきであるという趣旨のものですので、注意が必要です。ただし、「賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、本条のいわゆる『請負制で使用する』場合に該当しないと解される」とされています。
出来高払い制の労働者に該当するにもかかわらず、労働時間に応じた一定額の賃金の保障がなされていない場合は、同法27条違反となり、30万円以下の罰金に処せられます。
 ただし、労働者が自らの責に帰すべき事由により労働しなかった場合は、使用者には賃金の支払いの義務はないため、保障給を支払う必要もありません。

 
□根拠法令等
・労働基準法27(出来高払制の保障給)、28(最低賃金)、120(罰則)
・昭22.9.13発基17、昭63.3.14基発150(保障給の趣旨)
・昭23.11.11発基1639(使用者の責に帰すべき事由によらない休業の場合の保障給)




 ・内容についての無断転載は固くお断りいたします。

◆業績悪化のため賃下げをする場合、どの程度まで下げることが可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像 当社はここ数年、たいへん厳しい経営状態に陥っています。とりわけ人件費の肥大化が経営を圧迫しています。そこで、この状況を乗り切るために、就業規則(賃金規程)を改定し、社員の賃金を引下げることで、人件費を削減しようと考えていますが、法的にどの程度までなら賃下げができるのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像 どの程度の賃金水準(額)までなら賃下げが可能かについては、最低賃金法に定める最低賃金以外には法的な規制はありません。しかし、賃金は労働者にとって最も重要な労働条件の1つであり、また労働契約事項ですから、一方的な賃金引下げは、労働条件の「不利益変更」に該当します。どうしても賃下げを実施する場合には、当事者の了解を得るほか、経過措置を設けて段階的に引下げるなど、慎重に行う必要があるでしょう。

 

■解説
1 労働条件の不利益変更と合理性の判断

労賃金水準(額)については、最低賃金法に定める最低賃金以外には法的な規制はありません。したがって、最低賃金法に抵触しない限り、一応は、賃金を引下げることも不可能ではありません。また、多くの事業所では就業規則で労働条件を定めており、その場合は使用者が就業規則を変更することで、個々の労働者の同意を得ないで労働条件を変更することも可能です。しかし、賃金は、労働者にとって最も重要な労働条件の1つであり、また労働契約事項ですから、一方的な賃金引下げは、労働条件の「不利益変更」となり、トラブルの原因にもなります。どうしても賃下げを実施する場合には、当事者の了解を得るほか、経過措置を設けて段階的に引き下げるなど、慎重に行う必要があるでしょう。
労働条件の「不利益変更」は、それが合理的なものでない限り許されません。また、労働者が労働条件の不利益変更に同意していた場合でも、法令、労働協約、就業規則に違反しているときには、不利益変更の同意は無効ということになります。逆に、「当該規則条項が合理的なものである限り個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである」(「秋北バス事件」昭43.12.25最高裁判決)という判例もあり、「合理的」であるかどうかが判断のポイントになってきます。
何をもって「合理的」とするかということですが、これまでの裁判例では、①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、②使用者側の変更の必要性の内容と程度、③変更後の就業規則の内容の相当性、④代償措置その他の労働条件の改善状況、⑤労働組合などとの交渉の経緯、⑥同種事項に関するわが国社会における一般的状況等、などが総合的に考慮して判断されており、以上の要件に照らして合理的であると判断されれば、不利益変更といえどもその有効性が認められています。
また、労働契約法第10条においても、使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」としています。


2 賃金引下げをめぐる裁判例

 賃金引下げをめぐる裁判例をみると、「賃金に関する事項のように労働契約の要素をなす基本的労働条件については、いったん合意されて労働契約の内容となった以上、就業規則によって労働者の不利益に変更することはできないものと解すべきであり、その変更には就業規則とは別に、個々の労働者の同意を得なければならないものであって、このことは、改定就業規則の内容及び改定の経緯が合理的であるかどうかにかかわらないことである」(「日本貨物検数協会事件」昭 46.9.13東京地裁判決)と判示したものもあります。
 さらには、業績悪化への対応策として、貴社が検討しているのと同じように、整理解雇をせずに賃金の引下げを行ったことについての裁判例で、「合理化策として整理解雇の方向が想定されたが、より犠牲の少ない賃金調整という方法をとった」とする会社側の主張に対して、「会社は合理化の一環として整理解雇という措置を選択することなく、賃金調整という措置を選択したのであるから、この措置の有効性のみが問題となるのであって、整理解雇という措置を選択しなかったことをもって賃金調整を有効とすることの根拠とすることはできない」として、たとえ整理解雇回避のための措置として行った賃金調整であっても、労働契約のなかでも重要な要素である賃金というものを「各原告(組合員)の同意を得ることなく一方的に変更する」に値する明確な根拠とはならない、と会社の主張を退けたものもあります(「ザ・チェースマンハッタン銀行事件」平成6.9.14東京地裁判決)。
要するに、業績悪化等のため経営危機の状態にある場合にも、賃金引下げを行うためには、それを必要とする直接的かつ合理的な根拠がない限り、個々の労働者の同意を必要とするということです。これらの裁判例を参考にして、慎重に対処してください。


□根拠法令等
・労契法10(労働契約の内容の変更)
 


 ・内容についての無断転載は固くお断りいたします。

◆留学生をアルバイトとして使用する場合にも最低賃金は適用されるか

Qのロゴ.gif 当社では、外国人留学生をアルバイトとして何人か使用しています。日本よりも物価水準の低い国から来日している留学生ということで、一般より安いアルバイト料(時給500円)にしていますが、留学生であっても最低賃金法の適用があると聞きました。留学生のアルバイトにも最低賃金が適用されるのでしょうか。


Aのロゴ.gif 最低賃金法では、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と定めており、外国人留学生もこの規定の適用から除かれるものではありません。したがって、留学生をアルバイトとして使用する場合にも、最低賃金が適用されますので、最低賃金の時間額以上の時給を支払う必要があります。

 

■解説
1 最低賃金の適用を受ける労働者とは

労働基準法第28条では「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めるところによる」と規定しています。最低賃金法は、労働者の賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図ることを目的としたもので、その第5条で、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と定めています。
ここでいう労働者とは、労働基準法第9条に規定する「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をさします(同居の親族のみを使用する事業または事務所に使用される者および家事使用人を除く)。ただし、次に掲げる労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、一定率を乗じて減じた額を適用するとされています(最低賃金法第7条)。
イ.精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
ロ.試の使用期間中の者
ハ.職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練を受ける者のうちの一定の者
ニ.所定労働時間の特に短い者、軽易な業務に従事する者
ホ.断続的労働に従事する者
したがって、ここであげられている労働者以外は、就労資格を持つ外国人はもちろんのこと、就労資格を持たない留学生や不法就労者の場合であっても、最低賃金の適用を受けるということになります。


2 外国人留学生のアルバイト雇用について

ちなみに、「留学」という在留資格で日本にいる外国人は、資格外活動の許可を得なければ、日本での就労はできませんが、資格外活動の許可を受けている場合は、留学生は1週について28時間以内(夏休みなど学校の長期休業期間にあっては1日8時間以内)、ならば、アルバイトとして雇用できることになっています。アルバイトというのが「ニ.所定労働時間の特に短い者」に該当するのではと思われるかもしれませんが、賃金が時間給で決められている場合には、所定労働時間の長さにかかわらず最低賃金が適用されます。
地域別および産業別最低賃金は都道府県ごとに定めるもので、現行制度では時間額で決められており、毎年1回改定することになっていますが、外国人留学生のアルバイトの時間給が500円であるというのは、どの地域の最低賃金額をも下回っており、違法であるということになります。
また、労働基準法第3条では「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定めており、外国人留学生の出身国の労働条件等が日本のものと比べて低いことを理由とする差別的取扱いも違法であると解されます。


□根拠法令等
・労基法28(最低賃金)
・最賃法2(労働者の定義)、5(最低賃金の効力)、7(最低賃金の適用除外)
・入管法19(資格外活動)




 ・内容についての無断転載は固くお断りいたします。