◆退職後に判明した懲戒解雇事由をもとに、退職金を不支給とすることができるか

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Qのロゴ.gifのサムネール画像 先日当社を退職した社員について、在職中に懲戒解雇事由に相当する非違行為があったことが、退職後に判明しました。このような場合、退職金を不支給とすることはできるでしょうか。
 また、事実関係の究明に時間を要する場合、退職金の支払いを留保することはできるでしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像 すでに退職した社員を懲戒解雇することはできないため、懲戒解雇を理由に退職金を不支給とすることはできません。退職後に判明した事由をもとに退職金を不支給とするには、「懲戒解雇に相当する事由が認められるとき」「退職金支給日までの間に在職中の行為について懲戒解雇事由が認められた場合」などにおいても退職金を減額または不支給とすることがある旨を、あらかじめ就業規則や退職金規程に定めておくことが望ましいでしょう。
 事実関係の究明に時間を要するため、退職金の支払いを留保する場合も、「当社が必要と認める調査を実施する間、支払いを留保できる」といった定めをしておくことが望ましいと考えます。


■解説
1 退職後に判明した懲戒解雇事由をもとに退職金を不支給とするには

 多くの事業所では、従業員が重大な非違行為をした場合の制裁として、懲戒解雇できる旨の規定を設けるとともに、懲戒解雇の場合には退職金を不支給とするか、またはその一部を減額できる旨の規定を設けています。
 しかし、ご質問のケースでは、すでに労働者が退職しており、当事者間の雇用関係は終了しています。そのため、使用者による解雇すなわち雇用契約を終了させる旨の意思表示は、その対象を失っているために意味を持たず、懲戒解雇することは不可能です。したがって、懲戒解雇を理由として退職金の不支給または減額を行うことはできないということになります。
 そうすると、就業規則や退職金規程でその支給条件等が明確に定められた退職金は、労働基準法上の賃金として扱われますので、通常支払う額を全額支給しなければなりません。支給条件や支給額の算定方法が定められている退職金は、労働者にとって賃金債権となり、恣意的に減額したり支払わなかったりすることはできないからです。
 そこで、実務上の対応としては、あらかじめ就業規則や退職金規程において、「懲戒解雇の場合」に加えて、「懲戒解雇に相当する事由が認められるとき」あるいは「退職金支給日までの間に在職中の行為について懲戒解雇事由が認められた場合」も、減額または不支給とすることがある旨を定めておき、ご質問のようなケースにおいて不支給等の決定をする際の契約上の根拠とすることが考えられます。
 実際の裁判例では、このような減額・不支給事由が定められていない場合でも、労働者の在職中の非違行為が重大かつ悪質なものであれば、労働者の退職後になされた退職金の不支給決定が認められた例も若干はあります。しかし、労務管理上の観点からも、こうした減額・不支給事由をあらかじめ規定しておくことが望ましいといえるでしょう。


2 事実関係究明のため退職金の支払いを留保することはできるか

就業規則や退職金規程で退職金について定める場合は、退職金の支払い期日についても必ず定めておかなければなりません。その場合、労働基準法23条1項の「労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払わなければならない」との定めの適用は受けないため、支払い期日は任意に定めることができます。就業規則等に退職金の支払い時期が定められていれば、権利者の請求があったとしても、賃金と同じように7日以内に支払う必要はありません。就業規則で定める支払い期日については、必ずしも支給月日まで特定しておく必要はなく、例えば、「退職金は、原則として退職の日から1カ月以内に支給する」などのように、退職の日から一定期間以内の期間に支払うとする定め方でも差し支えありません。
 こうした定めがあれば、その間に事実関係究明のための調査をすることは可能かと思われますが、それでも退職金支払期日まで時間的に余裕がないといった事態が生じることも考えられます。
 労働基準法23条2項では、労働者の請求がある場合にも、使用者が異議のある部分の支払いを留保することは認めていますが、さらに支払いを留保する根拠を明確にするためには、「会社が必要と認める調査を実施する間、支払いを留保できる」といった定めをしておくことが望ましいと考えます。


□根拠法令等
・労基法23(金品の返還)、24(賃金の支払)
・昭26.2.27基収5483、昭63.3.14基発150(退職手当の支払時期)

□ 判例等
・在職中に懲戒解雇に匹敵する重大な背信行為を行った者の退職金請求権を否定した裁判例(平8.4.26東京地判・東京ゼネラル事件、平12.12.18東京地判・アイビ・プロテック事件)


■解説
1 退職後に判明した懲戒解雇事由をもとに退職金を不支給とするには
 多くの事業所では、従業員が重大な非違行為をした場合の制裁として、懲戒解雇できる旨の規定を設けるとともに、懲戒解雇の場合には退職金を不支給とするか、またはその一部を減額できる旨の規定を設けています。
 しかし、ご質問のケースでは、すでに労働者が退職しており、当事者間の雇用関係は終了しています。そのため、使用者による解雇すなわち雇用契約を終了させる旨の意思表示は、その対象を失っているために意味を持たず、懲戒解雇することは不可能です。したがって、懲戒解雇を理由として退職金の不支給または減額を行うことはできないということになります。
 そうすると、就業規則や退職金規程でその支給条件等が明確に定められた退職金は、労働基準法上の賃金として扱われますので、通常支払う額を全額支給しなければなりません。支給条件や支給額の算定方法が定められている退職金は、労働者にとって賃金債権となり、恣意的に減額したり支払わなかったりすることはできないからです。
 そこで、実務上の対応としては、あらかじめ就業規則や退職金規程において、「懲戒解雇の場合」に加えて、「懲戒解雇に相当する事由が認められるとき」あるいは「退職金支給日までの間に在職中の行為について懲戒解雇事由が認められた場合」も、減額または不支給とすることがある旨を定めておき、ご質問のようなケースにおいて不支給等の決定をする際の契約上の根拠とすることが考えられます。
 実際の裁判例では、このような減額・不支給事由が定められていない場合でも、労働者の在職中の非違行為が重大かつ悪質なものであれば、労働者の退職後になされた退職金の不支給決定が認められた例も若干はあります。しかし、労務管理上の観点からも、こうした減額・不支給事由をあらかじめ規定しておくことが望ましいといえるでしょう。

2 事実関係究明のため退職金の支払いを留保することはできるか
就業規則や退職金規程で退職金について定める場合は、退職金の支払い期日についても必ず定めておかなければなりません。その場合、労働基準法23条1項の「労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払わなければならない」との定めの適用は受けないため、支払い期日は任意に定めることができます。就業規則等に退職金の支払い時期が定められていれば、権利者の請求があったとしても、賃金と同じように7日以内に支払う必要はありません。就業規則で定める支払い期日については、必ずしも支給月日まで特定しておく必要はなく、例えば、「退職金は、原則として退職の日から1カ月以内に支給する」などのように、退職の日から一定期間以内の期間に支払うとする定め方でも差し支えありません。
 こうした定めがあれば、その間に事実関係究明のための調査をすることは可能かと思われますが、それでも退職金支払期日まで時間的に余裕がないといった事態が生じることも考えられます。
 労働基準法23条2項では、労働者の請求がある場合にも、使用者が異議のある部分の支払いを留保することは認めていますが、さらに支払いを留保する根拠を明確にするためには、「会社が必要と認める調査を実施する間、支払いを留保できる」といった定めをしておくことが望ましいと考えます。

□根拠法令等
・労基法23(金品の返還)、24(賃金の支払)
・昭26.2.27基収5483、昭63.3.14基発150(退職手当の支払時期)

□ 判例等
・在職中に懲戒解雇に匹敵する重大な背信行為を行った者の退職金請求権を否定した裁判例(平8.4.26東京地判・東京ゼネラル事件、平12.12.18東京地判・アイビ・プロテック事件)

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