◆退職金制度がない場合、法律違反になるか

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Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では現在のところ退職金制度がありませんが、このことは法律違反にあたるのでしょうか。 また、退職金制度を導入する際に、法律上留意すべき点がありましたらお教えください。


Aのロゴ.gifのサムネール画像退職金制度を設けるか否かは任意であるため、退職金制度がない場合でも法律違反とはなりません、ただし、退職金制度を導入する場合においては、「適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を定め、それを就業規則に記載しなければなりません。
また、退職金制度を導入する場合は、一定の「退職金の保全措置」を講じる必要があることに留意してください。

■解説
1 退職金制度の任意性

まず、退職金制度がない場合に、法律に違反するかどうかについてですが、退職金制度は必ず設けなければならないものではなく、退職金を支払うかどうか、また、その内容をどのように定めるかは、使用者または労使当事者の任意にゆだねられるものです。したがって、退職金制度がない場合でも法律違反とはなりません。
労働基準法第89条第3号では、退職に関する事項(解雇の事由を含む)を就業規則の絶対的必要記載事項としていますが、「退職手当に関する事項」については除かれています。ただし、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(同条3号の2)について定めなければならないとしています。
つまり、退職金制度を設ける(退職金の定めをする)こと自体は任意とされているものの、退職金制度を導入する場合においては、適用される労働者の範囲、退職金の額の決定・計算方法とその支払方法、および支払い時期に関する事項を定め、それを就業規則に明記しなければならないということです。


2 退職金の保全措置

次に、退職金制度を設ける場合の留意点として、退職金支払いの原資についての保全の措置を講じるよう努めなければならないということがあります。「賃金の支払の確保等に関する法律」(以下「賃確法」という)では、「事業主は、労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるものにおいて労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、当該退職手当の支払に充てるべき額として厚生労働省令で定める額について、第3条の厚生労働省令で定める措置に準ずる措置を講じるように努めなければならない」と定められています。
ここでいう「厚生労働省令で定める額」(保全の措置を講じることを要する額)とは、具体的には、原則として、労働者の全員が自己都合により退職すると仮定して計算した場合に退職金として支払うべき金額の4分の1に相当する額以上の額とされています(賃確法施行規則第5条)。
また、保全措置の内容は、①銀行その他の金融機関との間に、退職手当の支払にあたって保全の措置を講じることを要する額(以下、「要保全額」という)以上の額について保証する契約を締結すること、②要保全額について、労働者を受益者とする信託契約を信託会社と締結すること、③労働者の事業主に対する退職手当の支払にかかる債権を被担保権とする質権または抵当権を、要保全額について設定すること、④一定の要件を満たした退職手当保全委員会を設置すること、のいずれかとされています(賃確法施行規則第5条の2)。
なお、この保全措置は努力義務に過ぎないため、違反しても罰則はありません。
また、中小企業退職金共済法に基づく退職金共済契約(通称「中退金契約」)等を締結する場合、税制適格退職年金(2012度3月末で廃止)、厚生年金基金に加入する場合、さらに確定給付企業年金または企業型確定拠出年金を実施する場合には、これらについては、退職金や企業年金の原資を外部に積み立てる制度であるため、あらためてこれらの退職金保全措置を講ずる必要はありません(賃確法施行規則第4条)。


□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)
・賃確法5(退職手当の保全措置)
・賃確法施行規則4(退職手当の保全措置を講ずることを要しない事業主)、5(退職手当の保全措置を講ずべき額)




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