◆退職一時金を分割して支払うことは可能か

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Qのロゴ.gifのサムネール画像業績の悪化により、所定の退職一時金を一時期に全額支給するだけの資金的な余裕がありません。そもそも退職一時金は、一括して支払わなければならないものなのでしょうか。それとも、分割して支給することが可能なものなのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像就業規則や退職金規程などに退職金を分割して支払う旨の定めがあれば、分割して支払うことができます。そうした定めがない場合は、就業規則(退職金規程)の内容を変更する必要があります。

 

■解説
1 退職金の支給要件の就業規則への記載と支払い時期について

労働基準法(以下「法」という)第89条第1項では、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(同項3号の2)について定めなければならないとし、退職金に関するこれらの事項を就業規則の相対的必要記載事項としています。
つまり、社員への退職金の支払いを制度化すること自体は任意ですが、制度として運用しようとするならば、①適用される社員の範囲、②退職金の額の決定・計算方法とその支払方法、③支払い時期の3つについて就業規則に記載し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
退職金も賃金の一種であるため、その「支払いの時期」は、原則として特定しておく必要があるということです。
法第23条第1項では、「労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い」、また、「労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」と定めていますが、退職金については、通達において、「通常の賃金の場合と異なり」この定めは適用されず、「あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りる」とされています。したがって、就業規則等に支払い時期が定められていれば、権利者の請求があったとしても、賃金と同じように7日以内に支払う必要はありません(ただし、就業規則や雇用契約書に支払い時期の定めがない場合には、権利者の請求があれば、7日以内に支払う必要があります)。


2 退職金の支払い時期・方法の変更

ご質問の「分割支給」は、③の支払いの時期に関するものですが、結論的には、就業規則や退職金規程などに、「退職金を分割して支給する」旨の定めをすれば、分割して支給することが可能です。ただし、退職金を分割して支給するためには、分割支給する旨を定めるだけでなく、「退職手当は、原則として退職の日から1カ月以内にその半額を、6カ月後に残りの半額を支給する」などのように、分割する回数、それぞれの支払時期等についても定めておく必要があります。
上記のとおり、退職金は通常の賃金と異なり、雇用契約上設定された期限までに支払えば法23条に反しないため、業績悪化等の理由で、所定の退職一時金を全額一括して支給することが困難な場合、社員個々との話し合いにより、分割支給したり、支給時期を後にずらしたりすることの同意をとりつけ、それを新たな雇用契約の内容とするという対応は考えられるかと思います。
しかし、そうした場合においても、労働契約法第12条で「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とされているため、就業規則に支払い時期が定められていれば、それよりも後にずらした支払い時期(分割支給を含む)についての合意は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」となり、無効となるおそれがあります。
ですから、そうした合意をした場合も、それに合わせて就業規則の規定を改定しておく必要があるといえます。


□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)、23(金品の返還)
・昭26.12.27基収5483、昭 63.3.14基発150(退職手当の支払時期)
・労働契約法12(就業規則違反の労働契約)


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