◆年俸制で欠勤控除する場合は、どのように計算すればよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、契約社員に年俸制を適用していますが、その形態は、16分の1ずつを月例給として支払い、残りの16分の4を、いわゆる賞与として7月と12月に支給するというものです。この賞与分については、7月支給分は16分の2で固定し、12月支給分は、業績に応じて16分の1.5から16分の2.5の範囲で変動させる仕組みとなっています。
 このような年俸制でも欠勤控除をすることは可能でしょうか。また、その場合は、どのように計算すればよいのでしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像年俸制でも、特約を定めれば、欠勤控除をすることが可能です。ただし、その方法については、あらかじめ就業規則(給与規程)または雇用(労働)契約書に定めておく必要があります。欠勤控除の計算する場合には、年間平均所定労働日数を算定基礎とする方法や、暦日数を算定基礎とする方法などがあります。

 

■解説
1 年俸制において欠勤控除は可能か

 労働契約は、労働者が使用者に対して労務を提供し、使用者がその対価として賃金を支払うというものですが、労務の提供がない場合には、賃金請求権も発生しないことになります。これは、「労務の提供がなかった時間(=不就労時間)に対応する賃金は支払われない」という、いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」によるものです。
労働基準法24条1項では、賃金の支払いについて「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めていますが、労働者の都合による欠勤や遅刻、早退に関し、その日数あるいは時間に応じて賃金を控除することは、全額払いの原則に違反するものではありません。
年俸制は、年を単位に賃金を決める制度ですから、通常は日割り計算や欠勤控除を想定していないことが多いようです。ただし一方で、年俸制というのはあくまでも、月給制、日給月給制、日給制、時間給制などと同じく賃金計算方法の1つにすぎないため、欠勤控除についての考え方そのものは他の制度と異なるものではありません。
年俸制における年俸額は、年間を通じて労務の提供があることを前提に定められているため、就業規則(給与規程)または雇用(労働)契約書に欠勤控除の定め(特約)をすれば、ノーワーク・ノーペイの原則に基づいて給与額を控除することができます。


2 欠勤控除の計算方法

 年俸制のもとで欠勤控除の定めをする場合は、まず、欠勤控除の対象とする給与の範囲について、月例給のみを対象とするのか、あるいは年俸の総額を対象とするのかを定める必要があります。ご質問のケースでは、年俸の16分の1を月例給で支給し、残りのうち16分の2を7月賞与時に、さらに残りは16分の1.5から16分の2.5の範囲で業績に応じて12月賞与時に支給するとのことです。
労働基準法24条の解釈例規において、「賞与とは、定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいう」とされています。この解釈例規に照らすと、7月支給分の16分の2については、名目は賞与ですが、年俸の一部を賞与として支給しているだけであると考えられますので、欠勤控除の対象とすることも可能であると考えます。
一方、12月支給分については支給額が変動するため、あらかじめその額が予定されているものとはいえず、欠勤控除から除外すべきではないかと考えます。
次に、欠勤1日についてどのような計算方法で控除をするかですが、賞与分を含めて欠勤控除の対象とする場合には、①年間の所定労働日数分の1を控除する方法、②365分の1を控除する方法が考えられます。月例給についてこのいずれかの計算で控除を行ったうえで、賞与時の支給額について実労働日数で案分したものを控除するといったことも可能であると考えます。
また、月例給のみを対象とする場合は、①当該月の所定労働日数分の1を控除する方法、②当該月の暦日数分の1を控除する方法、③1年間の月平均所定労働日数分の1を控除する方法が考えられますが、年俸制であるということを考慮した場合、③の方法がより適切であると思われます。
実務上においては、給与計算事務が煩雑になることを避けるとともに、賃金の支払い形態によって公平さを欠くことがないように留意してください。


□根拠法令等
・民法624①(報酬を支払う時期)
・労基法24(賃金の支払)
・昭22.9.13 基発17(賞与の意義)

 


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◆中途採用者の給与の日割計算のしかたは?

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、毎月末日締めで給与計算をしています。これまで社員の採用は、給与計算期間の初日である1日付けで行っていましたが、今回15日付けで新たに社員を採用しました。この場合、給与を日割計算するにはどのようにすればよいでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像中途採用の社員の給与を日割計算する場合には、①暦日による方法、②当該月の所定労働日による方法、③月平均の所定労働日による方法の3つの方法があります。いずれの方法を採用するかは任意ですが、就業規則(給与規定)で定めておく必要があります。

 

■解説
1 「暦日」基準、「所定労働日」基準、「月平均所定労働日」基準の3つの方法

社員が月(または給与計算期間。以下、同。)の途中で入社したり退職したりした場合の、当該月(または当該給与計算期間。以下、同。)の給与を日割計算する場合には、①暦日による方法、②当該月の所定労働日による方法、③月平均の所定労働日による方法の3つの方法があります。
①の「暦日による方法」の場合は、当該月の全暦日数を分母として、入社の際は、入社した日からその日の属する月の締切日までの全暦日数を分子とし、退職の際は、退職した日の属する月の初日から退職した日までの全暦日数を分子として、それぞれ計算するものです。中途入社者の給与は、「給与額×(入社日からその日の属する月の末日までの全暦日数÷当該月の全暦日数)」となります。
②の「当該月の所定労働日による方法」の場合は、当該月の全所定労働日数を分母として、入社の際は、入社した日からその日の属する月の締切日までの所定労働日数を分子とし、退職の際は、退職した日の属する月の初日から退職した日までの所定労働日数を分子として、それぞれ計算するものです。中途入社者の給与は、「給与額×(入社日からその日の属する月の末日までの所定労働日数÷当該月の全所定労働日数)」となります。
③ の「月平均の所定労働日による方法」の場合は、②に近い考え方ですが、分母に当該月の所定労働日数を用いるのではなく、年間を通しての1カ月当たりの平均所定労働日数を用いる点が異なります。分子として、入社の際は、入社した日からその日の属する月の締切日までの所定労働日数を、退職の際は、退職した日の属する月の初日から退職した日までの所定労働日数を用いる点は②と同じです。毎月末日締めの計算をしている事業所での中途入社者の給与は、「給与額×(入社日からその日の属する月の末日までの所定労働日数÷月平均所定労働日数)」となります。


2 就業規則(賃金規程)への記載

例えば、ご質問にあるように、毎月末日締めで給与計算を行っている事業所に15日付けで社員が入社した場合、その社員の月額給与が30万円、その月の暦日数が30日(15日以降の暦日数は16日となる)、その月の所定労働日数が21日、15日以降の所定労働日数が11日、事業所の月平均所定労働日数が20.5日とすると、それぞれの方法による入社月の給与の計算は、①の場合は30万円×(16/30)、②の場合は30万円×(11/21)、③の場合は30万円×(11/20.5)となります。
どの方法が中途入社者にとって有利かは、月によって暦日数や所定労働日数が変動するため一概にはいえず、また、中途退職者にも同じ計算方法を適用するのが一般的ですので、入社者にとってたまたま有利な計算結果であっても、同日付けでの退職者には不利になることが考えられます。
いずれの方法を採用するかは任意ですが、就業規則(賃金規定)で、賃金項目のうちどこまでの範囲を、どういった方法で日割計算するのか定めておく必要があります。また、諸手当についてその一部を日割計算の対象外とし、通常の月と同じ額を支給する場合は、就業規則(賃金規定)で、例えば「家族手当、通勤手当、住宅手当および単身赴任手当の日割計算は行わない」などの定めをしておけばよいことになります。





 

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◆日給月給制の場合の欠勤控除の方法は?

Qのロゴ.gifのサムネール画像 当社では、社員が欠勤したときは給与から欠勤分の賃金を控除する日給月給制をとっていますが、欠勤控除の計算基礎日数には「年間平均の月所定労働日数」を用いています。しかし、この方法の場合、月の所定労働日数によっては、出勤した日数があるにもかかわらず1カ月分の給与額を丸々欠勤控除することになったり、年間平均の月所定労働日数を満たしているにもかかわらず欠勤控除を行うことになったりします。こうした問題を解消する方法はないでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像ご質問の問題を解消するためには、欠勤控除の計算基礎日数として、当該月の所定労働日数、または当該月の暦日数を用いる方法が考えられます。
ただし、それぞれの方法に長所短所があることを留意しておく必要があります。

 

 

■解説
1 「年間平均の月所定労働日数」を計算基礎日数に用いる場合

日給月給制における欠勤控除の計算基礎日数(分母)には、①年間平均の月所定労働日数、②当該月(給与計算期間)の所定労働日数、③当該月(前同)の暦日数が考えられます。
貴社のように「年間平均の月所定労働日数」を用いる場合は、例えば年平均の月所定労働日数が20日で当該月の所定労働日数が23日の場合、23日のうち3日出勤して20日欠勤した場合は、ご指摘のように、3日の出勤日があるにもかかわらず当該月の給与は全額控除対象となってしまいます。また、同様のケースで、23日のうち22日出勤して1日だけ欠勤した場合、1日分の欠勤控除がされることになりますが、その月については年平均の月所定労働日数の20日を上回る22日の実働日があったのに、給与は減額されているということになります。
これらはいずれも矛盾しているように見えますが、「年間平均の月所定労働日数」を用いる方法は、年間の所定労働日数に対しての欠勤分を控除するという考えに立つものであり、年所定労働日数を月にならしたものを分母として用いているのであって、年ベースで考えれば過不足のない欠勤控除がされている計算になります。
この方法は、ご質問において指摘されているようないくつかの欠点もありますが、欠勤1日当たりの控除額が年間を通して一定であるという長所もあり、多く採用されている方法であることも確かです。


2 「当該月の所定労働日数」または「暦日数」を計算基礎日数に用いる場合

前述の②の「当該月の所定労働日数」や③の「当該月の暦日数」を欠勤控除の計算基礎日数に用いた場合は、ご質問の範囲内での問題は解消されます。ただし、 ②、③のいずれの場合も、当該月の所定労働日数や暦日数の違いによって、欠勤1日当たりの控除額が月ごとに異なってくるという欠点があります。
また、③の「当該月の暦日数」を欠勤控除の計算基礎日数に用いた場合は、①の「年間平均の月所定労働日数」や②の「当該月(給与計算期間)の所定労働日数」を欠勤控除の計算基礎日数に用いた場合に比べ、欠勤1日当たりの控除額が小さくなります。
いずれの計算方法にも一長一短があり、この中から最も自社に適合した方法を選んでいただくということになります。





 

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