〔21〕 「業績給」の適用対象と運用-「役割給+業績給」が一般的。ポイント制での運用も

● 管理職の「役割給」に「業績給」を組み合わせて使うのが一般的
前節で、「変動型給与」を実現するにあたって、洗い替え方式の「業績給」を入れ、「職能給」と組み合わせて運用する方法を紹介しました。管理職・一般職を通して職能資格制度を維持・継続し、なおかつ業績反映度は高めたい、という要請であるならば1つの方法かと思います。
しかし、「業績給」はどちらかと言うと、業績責任の明確な職層に向く賃金の構成要素であるため、導入するならば、管理職に対する「役割給+業績給」という形態が一般的ではないかと考えます。移行時に原資として、従来の役職手当を充てることが考えられますし、新たに管理職になった社員については、残業手当が移行原資になるため、移行し易いという利点もあります。

● 「業績給」テーブルを金額ではなくポイントで設定しておく方法―ポイント制
「業績給」の運用は、支給額テーブルを固定する方法と、会社業績により毎年見直す方法があります。本来はテーブルに会社業績が反映されるべきであり、毎年見直すべきですが、作業的には煩雑になり、年度ごとの一貫性が無くなる恐れもあります。その煩雑さを緩和するためにテーブルを金額ではなくポイントで設定しておく(ポイント制)のも、有効な手法だと思われます。
「ポイント制」業績給の概要は次の通りです。
① 業績給をポイント管理し、役割等級・業績評価別の固定ポイントとする 
    ・社員Aさんの業績給 = 業績ポイント単価 × 社員Aさんの業績ポイント 
    ・業績ポイント単価 = 業績給の総原資 ÷ 全員の業績ポイントの総和
② 業績給の原資および業績ポイント単価は、会社業績との相関で調整・決定する
③ 洗い替えの時期とサイクルは、年1回の給与改定時(または年2回の半期業績評価後)

21-01.gif※ 会社業績に連動させて「業績給」の総額原資を決めると、原資が同じでも、その年度の適用者の数(管理職層の人員数)によってポイント単価が変わってしまうので、会社業績に沿った"原資調整"の観点で"ポイント単価"を決定する、という考え方をします。(ポイント単価は評価分布の影響も受けます)


〔22〕 「業績給」の適用対象と運用②-役割給・業績給・役割キャリア給の組み合わせ

● 管理職→「役割給」+「業績給」、一般職→「役割キャリア給」のイメージ図
役割給・業績給・役割キャリア給(または職能給)を組み合わせたスタイルをイメージ図にしました。この場合の役割給は、一般職の役割キャリア給(職能給)と同じく、前年度の金額をベースにした「定昇累積方式」になります。(または前年度金額×増減率の「パーセント方式」)

22-01.gif● 「役割給」と「業績給」を組み合わせて使うメリット
基本給が「洗い替え方式」の役割給一本の場合、定昇を排除した100%"時価評価"の賃金体系になります。同じ等級にいて、去年S評価で今年がB評価だった人と、去年D評価で今年がB評価だった人とは、現時点での基本給は同額ということになります。
このような仕組みは短期には強いインセンティブが働きますが、社員にしてみれば、長期的な見通しという面では不安です。また、A評価をとっても、前年がS評価であれば減給となる(原則として評価間格差の分がまるまる減給となる)ため、長期にわたってのインセンティブ維持が困難となる恐れがあります。
そこで、「定昇累積方式」の役割給に「洗い替え方式」の業績給を組み合わせることで、業績による給与変動はあるものの、給与の"基底部分"は、一定の評価の累積によって少しずつ昇給していく、という長期の展望が見えるようにしたものです。言わば、"時価主義"と"定昇累積"の考え方をミックスしたものとなります。(ただし、役割給自体も、「定昇累積方式」であるとはいえ、役割等級ごとに上限額があるため、原資抑制機能が働いています。)


〔23〕 成果主義賃金制度の定着のために-賃金制度の "自社適合" を図る

● 「役割給」+「業績給」は"ハイブリッド方式"
 「役割給」と「業績給」を組み合わせて使うメリットを前節で述べましたが、この場合の「役割給」は「定昇累積方式」であることを前提にしており、言わば"ハイブリッド方式"なのです(表参照)。仮に「役割給」も「業績給」も「完全洗い替え方式」にしてしまうと、やはり不安定な賃金体系となることは否めません。

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● 「役割給」のみでも充分に運用可能
「業績給」を入れるかどうかは、「役割給」の運用方法、自社が考える「成果主義賃金」などとの関連で決めます。「役割給」を「定昇累積方式」にしたとしても、等級別の「範囲給」とし、そのレンジを守った上で、「定期昇給」においても評価によって減給もあり得るということが充分に社員に理解されていて、かつ、役割等級の「降級」の仕組みがきちんと機能し、役割レベルと成果の給与への反映が、会社が考える「成果主義」の程度にまで実現できるのならば、「役割給」のみで"自社適合"と言えるので、「役割給」一本でいく方がむしろシンプルで合理的です。

● 「業績給」を入れた方が良いケース
状況的に見て「業績給」を入れた方が良いと思われるのは、例えば次のような場合です。
① 役職手当が過大なため役職の任免が硬直化している場合
② 管理・監督職に時間外手当を支給している場合
③ 営業部門の管理職にのみ業績給を入れ、その他の部門では入れていない場合
①のケースでは、変則的運用が横行しているケースもあり、変動的に扱うならば「変動給(業績給)」としてのルールを定めた方が良いでしょう。②のケースも、現在の残業代は変動費である訳ですから、役割給に組み入れて固定化するよりも、業績給として「変動費」的性質を維持した方が良いでしょう。③の場合は、管理部門や企画部門のミッションや年度毎の課題を明確にすることが前提になりますが、現在が曖昧であるならば、「業績給」導入を機にその点を改善するのも一策です。業績反映度を直接部門と間接部門で変えるなどの調整も、問題ありません。