◆マイカー通勤者の通勤手当には、高速道路使用料金も含めなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社ではマイカー通勤をしている社員がいますが、この度、そうした社員の一人が、「高速道路の使用料金も含めた通勤手当を支給してほしい」と言ってきました。この要求を認めなければならないのでしょうか。また、この要求に沿って高速道路使用料金を通勤手当として支給した場合、その部分に所得税は課税されるのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像高速道路の使用料金を通勤手当として支給するかどうかは任意で取り決めることができます。また、所得税法上は、マイカー通勤者の高速道路の使用が「経済的かつ合理的な経路および方法」であると認められる場合には、その使用料金を支給しても課税されないこととされています。

 

 

■解説
1 高速道路の使用料金を通勤手当として認めなければならないか

わが国では一般的には、労働者の月例給与は、基本的部分を構成する基本給と家族手当、住宅手当などの諸手当で構成されていますが、諸手当のうち労働基準法で使用者に支払いが義務づけられているのは、時間外労働、休日および深夜労働に対する割増手当(割増賃金)のみです。通勤手当は、割増手当を除くその他の手当と同様に、労使の契約次第で支給の有無や支給条件が決められるものであり、通勤手当を支給するかどうかということも含め、事業主が任意に決定することができる事柄であるということになります。
したがって、マイカー通勤者に対し通勤手当を支給するかしないか、支給する場合にどの範囲までとするかは自由に決めることができ、高速道路使用料金を通勤手当として支給するかどうかも、社員の要求に沿わなければならないというものではなく、事業主が任意に決めて差し支えありません。
ただし、いったん高速道路の使用料金を通勤手当として支給することを取り決め、就業規則(給与規程)の内容とした場合は、それは賃金として労働者に支払われるものであり、これを廃止したり、支給条件を引き下げたりすることは労働条件の不利益変更となり、相応の合理性が求められることになりますので、注意が必要です。


2 通勤手当として支払った高速道路の使用料金は課税対象となるか

所得税法では、給与所得者が通勤に必要な交通機関やマイカー等を利用するために支出した費用に充てるものとして給与に加算して受ける通勤手当のうち、「一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分」については、非課税とすることとしています。ただし、非課税限度額は月額10万円とされています。
したがって、マイカー通勤者に対し、通常の交通機関を利用した場合にかかる「交通定期代相当額」を通勤手当として支給することは、一般に行われているところです。
そこで、ご質問のケースのように、マイカー通勤者が使用する高速道路の使用料金までも通勤手当として支給する場合ですが、その部分が「一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分」となるかどうかということが、課税対象となるか非課税となるかの判断基準になります。この点について、同法施行令では、「通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路及び方法による運賃等の額」に相当する部分は、非課税とするとされています。
したがって、マイカー通勤において高速道路を利用する場合においても、高速道路の利用によって通勤時間が短縮される場合には、高速道路の利用は合理的と認められ、高速道路の使用料金を通勤手当に含めて支給しても課税されません。ただし、この場合でも、高速道路の使用料金を含めた通勤手当の額について、10万円までが非課税とされています。
ちなみに、通勤手当に支給限度額を設けるかどうかも事業主の任意で決めることができ、10万円を支給限度額とするか、それを超える額、またはそれを下回る額を支給限度額とするかは、事業主の裁量にゆだねられています。また、高速道路の使用料金のみに支給限度額を設けることも可能です。いずれにしても、就業規則にそのことの定めを記載しておくことが求められます。


□根拠法令等
・所得税法第9条第1項第5号(非課税所得)
・所得税法施行令第20条の2(非課税とされる通勤手当)




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◆通勤手当を現物で支給する場合は賃金となるか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、通勤手当を定期券で現物支給しています。この定期券は賃金にあたるのでしょうか。また、3カ月定期券または6カ月定期券というかたちで複数月分の定期券を供与することは、法律上の問題はないでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像通勤手当は、支給することが制度として定められている限り、労働基準法上の賃金として扱われ、就業規則でその支給基準等の定めをしておく必要があります。定期代を実費で支給している場合も、現物供与している場合も、この点は同様です。さらに、定期券で現物支給するには、労働組合と締結する労働協約においてその旨を定める必要があります。
3カ月定期券または6カ月定期券というかたちで供与することについては、当該月の最初の月に供与されていれば、社員にとって不利益ではないため、労働基準法第24条の「毎月払いの原則」違反にはなりません。

 

■解説
1 通勤手当の賃金性と「通貨払いの原則」との関係

通勤手当は、法律上必ず支払わなければならない義務があるものではなく、支給するか否かは労使の話し合いや事業主の決定にゆだねられているものです。ただし、制度的に支払うこととし、その支給基準が定められている場合は、労働基準法上の賃金として扱われるので、就業規則、賃金規程に必ず定めなければならず、また、いったん就業規則等に通勤手当を支払う旨の定めをすると、事業主に支払いの義務が生じるということです。定期代を実費で支給している場合も、現物供与している場合もこの点は同様で、いずれも賃金として扱われるとともに、就業規則等にその支給基準を記載する必要があります。
また、賃金に該当する限りは、通勤手当にも、労働基準法第24条の①通貨払いの原則、②直接貨払いの原則、③全額払いの原則、④毎月1回以上払いの原則、⑤一定期日払いの原則の「賃金支払五原則」が適用されるため、定期券等を現物供与する場合は、労基法第24条に基づく労働協約の締結が必要となります(協約でその旨の定めをしなければ、「通貨払いの原則」の適用除外対象にはならず、同法違反となります)。この場合、定期券を現物供与できるのは、労働協約の適用を受ける労働者(拡張適用を含む)に限られ、また、この労働協約を、労働者の過半数で組織する労働組合や過半数を代表する者との間で交わす労使協定で代えることはできません。したがって、労働組合の無い事業所では、定期券等の現物供与はできないということですので、ご注意ください。


2 数カ月分まとめて渡すことと「毎月1回以上」払いの原則との関係

ところで、実費支給や現物供与された定期代が労働基準法上の賃金に該当するならば、前述の「毎月1回以上」「一定期日払い」の原則の適用を受けるということになりますが、実際には、事務を簡便化するなどのため、3カ月分、6カ月分の定期代を一括支給したり、あるいはご質問にあるように、3カ月定期券、6カ月定期券を供与したりしている事業所もあります。この点について行政解釈では、「6カ月定期乗車券であっても、これは各月分の賃金の前払として認められる」としています。
この場合、例えば、4月から6月までの3カ月分の定期代を4月に支払う場合は5、6月分については前払いとなり、社員にとって不利益にはならないため、労働基準法第24条の「毎月払いの原則」違反にはなりませんが、4月から6月分までを6月に支給する場合は、4月分、5月分が、4月、5月の各月にまだ支払われていないことになり、「毎月払いの原則」に抵触し、違法となりますので注意が必要です。


□根拠法令等
・昭25.1.18基収130、昭33.2.13基発90(通勤定期乗車券)



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◆夫が失業中の女性社員に家族手当を支給しなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、給与規程で、家族手当の支給基準を「扶養家族を有するとき」としていますが、このたび採用した女性社員が、夫が失業中であることを理由に家族手当の支給を求めてきました。これに応じなければならないのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像労働基準法第4条では「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と定められています。したがって、男女の賃金について、性別の違いのみを理由に格差を設けることはできませんし、家族手当も賃金であり、同様に、性で差別することは違法となります。
したがって、女性社員の被扶養者が夫であっても、他の男性社員の妻に対する家族手当の支給基準を満たしていれば、同じように家族手当を支給する必要があります。

 

■解説
1 男女同一賃金の原則

労働基準法第4条の規定(「男女同一賃金の原則」)は、女性に対する賃金についての差別を禁止したものです。女性が、一般的に勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないことなどを理由に、実際にそうであるか否かを問わず一律に賃金について異なる取扱いをするのは、「女性であることを理由と」する賃金差別となります。
職務、能率、技能、年齢、勤続年数等によって、賃金に個人的差異のあることは、この条文に規定する差別的取扱いではありませんが、例えばこれらが同一である場合において、男性はすべて月給制、女性はすべて日給制とし、男性の月給者がその労働日数の多寡にかかわらず月に対する賃金が一定額であるのに対し、女性の日給者がその労働日数の多寡によってその月に対する賃金が男性の一定額と異なるような場合も、「男女同一賃金の原則」に対する違反となります。
また、就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定があっても、現実にはその内容のことが行われておらず、賃金の男女差別待遇の事実がなければ、その規定そのものは無効ですが、そのことが即ち「男女同一賃金の原則」に対する違反となるわけではありません。


2 家族手当の支給要件

貴事業所では、家族手当の支給の要件を「扶養家族を有するとき」とされているとのことですが、この場合の扶養家族つまり被扶養者とは、一般に所得がまったくないか、所得があっても扶養者に生計を維持されている者であると考えられます。
家族手当の支給対象者の範囲については法律上の定めはなく、労使間の決定にゆだねられていますが、家族手当の支給要件に配偶者の所得に上限を設けている場合は、失業等給付の受給者については所得があるものとみなして、所得上限を超える場合は家族手当の支給対象外としても差し支えありません。また失業は臨時的なものであると考えて、ある一定期間は被扶養者とみなさないこととしても問題ありません。つまり失業期間の取り扱いについては、労使間で自由に決定することができるわけです。
しかし、貴事業所の給与規程では、このような所得制限がないようですので、当該女性社員の申し出に際して、女性の夫を扶養家族(被扶養者)と認めないとすることは、性による「差別的取扱い」に該当します。したがって他の男性社員の妻に対する家族手当の支給基準を当該女性社員が満たしていれば、女性社員の被扶養者が夫であっても家族手当を支給する必要があります。


□根拠法令等
・昭22.9.13発基17、平9.9.25基発648(女性であることを理由)
・昭23.12.25基収4281、平9.9.25基発648(差別待遇を定める就業規則)
・昭22.9.13発基17、昭25.11.22 婦発311、昭63.3.14基発150、平9.9.25基発648 (差別的取扱い)




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